シャンパーニュ地方のグラン・クリュ、アンボネイ村で高品質のシャンパンを生み出す実力派生産者、ポール・デテュンヌ。
メゾンの総生産量は年間約5万本と僅かながらも、その高い品質とこだわりから日本でも知る人ぞ知るシャンパーニュメゾンとして親しまれています。
先日そのポール・デテュンヌのオーナー、ピエールさんと奥様のソフィーさんが3年ぶりに来日!ワイン造りへのこだわりやその魅力についてたっぷりとお話を伺いました。
SOULが込められたこだわりのシャンパン
ポール・デテュンヌは1610年から続く家族経営のワイナリー。現在は、父ポール氏から引き継いだ10代目のオーナーであるピエールさんと奥様のソフィーさんが、代々受け継がれる伝統を守りワイン造りを行っています。
所有する畑7haはシャンパーニュ地方、モンターニュ・ド・ランス地区のグラン・クリュ、アンボネイ村にあり、ポール・デテュンヌのワインすべてがその自社畑のブドウから造られています。
「私たちの造るワインには、SOULが込もっています」
ソフィーさんの言葉通り、ポール・デテュンヌのワインの魅力はRM(レコルタン・マニピュラン)ならではの徹底したこだわりです。
RM(レコルタン・マニピュラン)とは、シャンパーニュ地方でブドウ栽培から醸造まで自社で一貫して行う生産者のこと。
そのためモエ・エ・シャンドンといった大手メゾンのような、生産者から購入したブドウや果汁、原酒を醸造して造るNM(ネゴシアン・マニピュラン)に比べ、畑ごとの違いや生産者の個性を表現することができるのです。
とはいえシャンパン造りの工程全てを自分たちだけで行うのは非常に手間がかかること。アンボネイ村には150の生産者がいますが、RMはそのうちのたった10ほどだそう。
「ブドウの栽培方法から醸造まで、決めるのは全部自分たちです。私たちはRMであることにとても誇りを持っていますが、それと同時に責任の重さを感じながら日々ワイン造りに取り組んでいます。」
そう語るソフィーさんと力強く頷くピエールさんからは、ワイン造りに対する並々ならぬ想いと決意を感じます。
もちろんRMならではの苦労も多く、特にここ数年はコロナ禍のため環境が大きく変化。
感染者が増加しロックダウンが起こった時には、ワイナリーの訪問客も来なくなり、ワイナリーやオフィスの感染対策に終始追われていたそう。
通常は一つの畑につき数人で作業を行いますが、感染対策の一環として、人との距離を保つために一つの畑を一人で管理しなければならなかったり、マスクが品薄になった時には、ソフィーさんがシーツでマスクを手作りして感染対策を行いながらワイン造りを行ったと言います。
そんな苦難を乗り越えたからこそ、完成したワインを見るのはやはり感慨深いよう。
「3年ぶりに日本に戻ってきて、こうしてワインが並んでいるのを見ると、ようやく自分の仕事を終えたなと感じます」
ホッとした表情で話すソフィーさんからは、飲み手に届くまでが自分たちの仕事であるというプロフェッショナルな姿勢が伺えます。
区画の個性を表現したこだわりの1本
そんな二人の生み出すシャンパンはどれもこだわりの逸品。
中でも、RMだからこそ造ることができたという1本が、2019年に新発売されたポール・デテュンヌ レ・クレイエール・ブラン・ド・ノワールです。
このワインはポール・デテュンヌ初の区画別のキュヴェで、広さわずか1.5haの「レ・クレイエール」から収穫した単一ヴィンテージのピノ・ノワールのみで造られます。
「レ・クレイエール」という区画は、ポール・デテュンヌが所有するグラン・クリュの中でも長い歴史を持つ重要な区画。
この「レ・クレイエール」という名前には、「クレイエール=石灰質」の意味があり、石灰質土壌で知られているシャンパーニュ地方の中でも、特にその比率が高い畑だそう。
「石灰が多く含まれるレ・クレイエールの土壌は、スポンジのように水分を吸収します。そのためこの石灰質土壌が冬の間しっかりと水分を保持し、夏に水不足にならずに済むのです。シャンパーニュ地方も温暖化の影響で年々気温が上がっており、今年の最高気温は42℃にも達しましたが、この土壌のおかげでブドウ樹が乾燥に苦しめられることはありませんでした。
また、1haあたりに栽培するブドウの樹の本数が非常に少ないので、土壌が疲れず常に良い状態を保ってくれます。そのためこの区画で育ったブドウは、パワフルなアロマと凝縮した果実味を備えているのです」
そうピエールさんが話す通り、ファーストヴィンテージの2014年のワインの生産量はわずか2,000本ながら、ピノ・ノワールのふくよかな果実味と旨味をしっかりと感じられる仕上がりとなっています。
こだわりは醸造過程でも垣間見えます。
キャップシールに描かれている「CCV」の文字はローマ数字で「C=100、C=100、V=5」、つまり「205」を指し、このワインがすべてシャンパーニュ地方特有の205リットルのオーク樽で造られていることを表しているとのこと。
シャンパーニュ地方のオーク樽は他の産地のオーク樽と比べてフレーバーが強すぎないため、ブドウ本来のフルーティーな果実味と凝縮感した旨味のある味わいを上手に引き立て、深みを与えてくれるそうです。
自然に対して常に謙虚でいたい
また近年特に力を入れているのが、有機栽培やエコへの取り組み。
「自然に対して常に謙虚でいたい」
そう話すお二人の言葉通り、環境への配慮に重きを置き、持続可能なブドウの栽培方法を採用しています。
最近の大きな取り組みは2019年に決意した有機栽培への転換。
天候に恵まれた2020年のブドウ栽培は順調だったものの、雨が多くブドウの病気が懸念された2021年は非常に苦労したと言います。
「特に雨の多かった5~7月は戦いでした」とピエールさん。
毎週末、晴れている間を狙ってすべての畑の状態を見て回り、毎回6時間もかけて作業を行っていたそう。
そんな地道な努力が実を結び、ついに2022年の10月には一部の畑でオーガニック認証を得ることに成功! 2023年ヴィンテージ以降、徐々にオーガニック認証付きのワインの販売を開始する予定とのことで、その味わいにも期待が高まります。
他にもソーラーパネルを設置してワイナリーでの消費電力をすべて賄うなど、環境に配慮した様々な取り組みを行っています。
まとめ
最後にどのようにポール・デテュンヌのワインを楽しんでほしいですか?と伺うと、
「シャンパンと言えば盛大なパーティーで賑やかに消費されるもの、というイメージも強いかと思いますが、私たちのシャンパンはただその場を楽しむためではなく、どんなストーリーがあって、どのように造られているのかを感じながらじっくりと味わってもらえると嬉しいです」
と笑顔で話してくださりました。
ポール・デテュンヌのワインを楽しむ際には、自然に配慮し丁寧なワイン造りを行うお二人の姿を想像しながら、じっくりとその美味しさをご堪能ください!
この生産者のワインはこちら