「NFT(Non-Fungible Token)」という言葉を頻繁に耳にするようになった今日。
デジタルデータに唯一性を持たせるNFTの技術はデジタルアートやゲームに活用されていることで知られていますが、実は今ワイン業界にも急速に広がっているのを知っていますか?
近年では多くの有名生産者がNFTを活用してワインの販売を行っています。
そこで今回はNFTの基礎情報からワインとNFTの関係について、そしてワインとNFTにまつわる最新ニュースをお伝えします。
NFTとは?
NFT(Non-Fungible Token)とは「非代替性トークン」という意味で、保有証明書や鑑定書が付いた代替不可能なデジタルデータのことを指します。
NFTの大きな特徴は、NFT同様にブロックチェーンを使用する仮想通貨とは異なり「代替不可能」であること。
例えば、仮想通貨のビットコインはどれも価値が同じなため、Aさんが持つ1ビットコインとBさんが持つ1ビットコインを交換しても何も問題はありません。代替可能ということです。
それに対しNFTの場合は、見た目は全く同じデジタルアートであっても、それぞれに紐づけられている識別情報があり価値が異なるため交換することはできません。
NFTが登場する前、デジタルアートは簡単にコピーや改ざんができてしまうため、現物として存在する絵画と比べて資産価値のないものと見なされていました。
しかしNFTを付与することによりコピーや改ざんができなくなり、絵画と同じような一点物としての価値を得ることができるようになったのです。
ワイン界に広まるNFT
こういったNFTの特徴は、偽造ワイン問題に悩む高級ワイン生産者の関心を集めることとなります。
彼らは偽造ワインに対抗するためにプルーフタグやICチップをボトルに貼ったり、空き瓶を回収するなど様々な対策を打ってきましたが、残念なことに偽造ワインは後を絶ちません。
そんな中、唯一性を与えるNFTが偽造ワイン対策に役立つのではないかと注目され、近年続々と有名生産者が活用し始めています。
例えば2022年4月にはヴォーヌ・ロマネ屈指の造り手であるリジェ・ベレールがNFTプラットフォーム「Wokenwine(ウォーケンワイン)」を導入することを発表しました。
このプラットフォームでは、各ボトルがワイナリーから仲介業者を通じ消費者にわたるまでの履歴がブロックチェーン上に記録されるため、改ざんは不可能。
正しいルートで取引がされているかどうかが分かるため、消費者も安心して購入することができると期待されています。
そしてその数ヶ月後にはリジェ・ベレールに続きジャック・セロスやピエール・ペテルスなどの名門生産者10社もWokenwineに加わることが報じられました。
「ルイ・ロデレール」を含む大手シャンパンメゾンがNFTに参加
こういった動きに続き、今年2月2日にはルイ・ロデレール、フルール・ド・ミラヴァル、アンリ・ジローといった三つの大手シャンパンメゾンもNFTを取り入れることを発表。
NFTプラットフォーム「Wine Chain(ワインチェーン)」で現物ワインの価値をデジタル化したwiNeFTを販売することとなりました。
Wine Chainは、ルイ・ロデレールを所有するルゾー家やシャトー・ペトリュスを所有するムエックス家の企業「ヴィドロ」、シャトー・ド・ボーカステルのペラン家などが出資した高級ワインのNFTプラットフォーム。
前述したWokenwineと同様に、ブロックチェーンを使用して追跡できる証明タグでボトルを認証したり移動履歴を確認することができます。さらにワインは出荷まで専用のワインチェーン施設に保管されるため、ワイナリーで保管されているボトルと同じレベルの品質が保証されるとのこと。
また中間業者を排除し一流生産者とワイン愛好家が活発にやり取りできる関係の構築を目標としているWine Chainについて、ルイ・ロデレールのフレデリック・ルゾー氏は以下のように語っています。
「畑、セラー、そして私たちの活動のあらゆる面で、私たちは絶え間なく進化している時代と慣行に注意を払いながら動き続けています。私たちにとって、Wine Chainはこのアプローチを追求し、ワイン愛好家との対話の点でさらに前進する手段です。」(Arabella Mileham, “ Fine wine NFT platform raises €6 million for expansion, the drinks business, 2022-09-14, https://www.thedrinksbusiness.com/2022/09/fine-wine-nft-platform-raises-e6-million-for-expansion/)
偽造ワインへの対策としてだけでなく、生産者はNFTを使うことでワイン愛好家との繋がりを強化し、より自分たちのワインを広めるという目的も持っているのです。
今回発表されたシャンパンメゾンの他には、エゴン・ミュラーやトシャトー・ド・ボーカステル、トリンバック、ロベルト・ヴォエルツィオなどもwiNeFTの販売を開始することが決定しています。
まとめ
今やデジタルデータに留まらず、ワインの分野でも広く活用されているNFT。
NFTを活用するワイナリーは増え続けており、深刻な偽造ワイン問題の解決策としてだけでなく、生産者と消費者の距離を近づける手段としても期待されています。
今後もワイン界にさらなる影響を与えるに違いないNFTの動向に注目していきましょう。
参考文献 ・Martin Green, "Champagne Louis Roederer heads the line-up at new platform selling wine NFTs", Decanter, 2023-02-06, https://www.decanter.com/wine-news/champagne-louis-roederer-heads-the-line-up-at-new-platform-selling-wine-nfts-497022/(参照2023-02-23) ・Louis Thomas, "Domaine du Comte Liger-Belair to authenticate 2020s through NFTs", the drinks business, 2022-04-15, https://www.thedrinksbusiness.com/2022/04/domaine-du-comte-liger-belair-to-authenticate-2020s-through-nfts/(参照2023-02-23) ・Arabella Mileham, "Fine wine NFT platform raises €6 million for expansion", the drinks business, 2022-09-14, https://www.thedrinksbusiness.com/2022/09/fine-wine-nft-platform-raises-e6-million-for-expansion/(参照2023-02-23)