銘醸地ブルゴーニュ地方でとりわけ高い知名度を誇るヴォーヌ・ロマネ村。
18世紀の修道院長で歴史家のクールテペの有名な言葉に「この村には平凡なワインなどありはしない」とあるほどです。今も昔も品質、人気、価格、これらすべてにおいて、この小さな村に勝るところはないと言っても過言ではありません。
そこで今回はヴォーヌ・ロマネについて解説したいと思います。
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ヴォーヌ・ロマネとは
ヴォーヌ・ロマネとは、ブルゴーニュ地方北部、コート・ド・ニュイ地区のちょうど中央にある、人口400人ほどの村の名前であり、アペラシオン(AOC)名でもあります。
アペラシオン「ヴォーヌ・ロマネ」は、ヴォーヌ・ロマネ村とその隣のフラジェ・エシェゾー村を含み、ブドウの総栽培面積は151.91ha、ピノ・ノワールから造られる赤ワインにのみ認められています。
この地域のワイン造りの歴史は古く、ヴォーヌ・ロマネは、ブルゴーニュに909年に設立されたクリュニー会のサン・ヴィヴァン修道院によって、フラジェ・エシェゾーは1098年に設立されたシトー会の修道院によって12世紀に開墾されたことから始まりました。修道士たちは場所により個性の異なるワインが生まれることを見抜き、良いクリマを識別し、今日のロマネ・コンティのような銘醸畑を築きました。
ヴォーヌ・ロマネが「神に讃えられた村」と喩えられる所以は、かの有名な「ロマネ・コンティ」をはじめとする八つのグラン・クリュと、時にグラン・クリュを超える人気と実力を備える14のプルミエ・クリュを擁するからでしょう。
ブドウ栽培条件に恵まれた立地にあり、地層の隆起が少ないこのアペラシオンでは、わずかな表土の厚さや土壌の質の違いがそれぞれの畑に繊細な味わいの違いをもたらしています。
ヴォーヌ・ロマネの八つのグラン・クリュ
*はモノポール(単独所有畑)
ヴォーヌ・ロマネの代表的なプルミエ・クリュ
- クロ・パラントゥ
- オー・マルコンソール
- クロ・デ・レア
- レ・ボーモン
- レ・スショ
テロワール
ヴォーヌ・ロマネに多くのグラン・クリュ、プルミエ・クリュが存在することからもわかるように、このアペラシオンの最大の利点は立地にあります。
ヴォーヌ・ロマネは北側のフラジェ・エシェゾー村と南側のヴォーヌ・ロマネ村に分けられますが、両者とも全体的に南東を向いた傾斜になっていて水はけも良く、十分な日照量を得ることができます。
また、その日照のおかげで気温も安定しており、ピノ・ノワールの栽培に適度な温度(14℃~16℃)を保つことができます。
土壌は石灰岩の岩層の上にある、粘土が混じった石灰質土壌が基礎となっています。グラン・クリュが集中している斜面の中腹は、斜度も緩やかで粘土質を含む茶色の石灰岩の土壌で、斜面の上部にあるプルミエ・クリュは、傾斜が急になるため表土が薄く、乾燥しており粘土質も少なくなっています。
また、エシェゾー、グラン・エシェゾーを有する北側は表土が浅く、石が堆積し粘土が少なくなっています。
ワインの特徴
一般的にヴォーヌ・ロマネのワインは、粘土質土壌に由来する力強さと、石灰質土壌に由来するエレガンスの両方を兼ね備えたスタイルになります。
赤系果実の上品なアロマにスミレの香りを纏い、ピノ・ノワールらしい上品な酸味と果実味、滑らかなタンニン、そのいずれもが若いうちからバランス良く、気品があります。
コミュナルのワインで5年程度、プルミエ・クリュやグラン・クリュのワインなら10年以上、長いものなら30年程度の熟成も可能です。
熟成が進んだグラン・クリュのワインは、トリュフやなめし革といったピノ・ノワール特有の熟成香が現れ、香りも味わいも複雑味を増します。絹のように滑らかなタンニンと木樽由来の甘やかなスパイスの風味、豊かな果実味、長く続く余韻。これらはしばしば官能的という言葉で表現されます。
世界一高価なワイン「ロマネ・コンティ」
ヴォーヌ・ロマネ村と言えば、必ず思いつくのがロマネ・コンティとその生産者ドメーヌ・ドゥ・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)でしょう。おそらく、ワインをよく知らない人でもこのワインの名前は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
ロマネ・コンティはヴォーヌ・ロマネ村の斜面の中腹にあるグラン・クリュで、畑の広さはわずか1.8ha、東南東に向いた日当りの良い場所にあり、グラン・クリュの畑に囲まれています。ヴォーヌ・ロマネ村の最良の立地にあるグラン・クリュと言えるでしょう。この畑はDRCの単独所有(モノポール)で、ワインの年間生産量はおよそ6000本です。
世界で最も高値で取引されるロマネ・コンティというワインについて語る時、誰しもがまず、この畑の立地や自然環境要因の素晴らしさを挙げます。もちろんそれも正しいのですが、このワインの高い品質は、人間の英知とたゆまぬ努力によって形成されています。
厳格な有機栽培によるブドウの生育、周囲のどのブドウ畑よりも遅い収穫、厳しい剪定、ワインの移動は重力を利用し、澱引きや濾過は最小限といった、手間を惜しまないワイン造りは、ヴォーヌ・ロマネ村の他の生産者の指標にもなっています。
ヴォーヌ・ロマネという小さな村の高い名声は、DRCを筆頭に、天才醸造家ルロワ女史率いるドメーヌ・ルロワ、ワインの神様と崇められた故アンリ・ジャイエなど、この村のワイン造りに携わる生産者達の情熱によって築かれてきたのです。
代表的な生産者
- ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ
- ルロワ
- エマニュエル・ルジェ
- ジャン・グリヴォ
- メオ・カミュゼ
- グロ・フレール・エ・スール
- ミッシェル・グロ
- アンヌ・グロ
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参考文献:『ブルゴーニュワインがわかる』 マット・クレイマー 著 阿部秀司 訳