「リースリングはテロワールを表現する」というような言葉をよく耳にします。しかしブルゴーニュの畑一つ一つを表現するシャルドネのように、畑単位の微気候や土壌によるリースリングの違いを楽しんでいる愛好家はどれほどいるのでしょうか。
今回はそんなリースリングが表現するテロワールを楽しめる、とっておきの産地ナーエをご紹介します。テロワールの違いを楽しめるのはピノ・ノワールとシャルドネだけではないんです。
驚愕の多様な土壌タイプ
ナーエはドイツで最も名高い2大銘醸地モーゼルとラインガウのちょうど中間に位置する、13ある指定ワイン産地の一つです。
ライン川の支流ナーエ川沿いに拡がる栽培面積は約4,000haとドイツの中では中規模程度。理想的なブドウ畑はモーゼルと同様に川沿いの急斜面に拡がっており、素晴らしいワインを生み出す産地です。
そんなナーエの最大の特徴が地質の多様性。“多様性”と聞くと、「なんだ、またか」と踵を返す愛好家もいるかもしれませんが、ちょっと待ってください。ナーエの多様性はそんじょそこらの産地とは違います。
ナーエにはなんと180種類以上の異なる土壌があると言われており、ドイツでも最も多様な土壌がある産地なのです。そのため数メートルおきに土壌が変わり、小さな単一畑の中でさえも複数種類の土壌があることも。
そんな数多の地質と左右にうねりながら進むナーエ川沿いの起伏に富んだ地形が生み出す微気候の組み合わせは無限大。その違いを、テロワールを忠実に表現するリースリングという品種を通して楽しむのがナーエワインの楽しみ方なのです。
ナーエ内の区分
といっても4,000haもあるこの地域、なんの手がかりもなく飲み比べするには大きすぎます。そこでざっくりテロワールの傾向で三つの地域に分けられているのでご紹介します。
以下は土壌の観点で説明していますが、一般的な気候の傾向としてナーエ川が下流に向かっていくにつれて温暖化していくことも念頭に置いておきましょう。
ナーエ川上流域
マルティンシュタイン村からバート・クロイツナッハ周辺(シュロス・ボッケンハイム村)までにかけてナーエ川が西から東に流れるエリアはナーエ川上流と呼ばれ、理想的な南~南東向きの急斜面の畑からナーエで最も品質の高いワインが生み出されるエリアとして知られています。
地質学的にも最も劇的な変化のある地域で砂岩、斑岩、粘土を含む赤色粘板岩などの畑から世界でも最上クラスのリースリングを生み出しています。この地域の典型的なワインは、エレガントでありながらもスパイシーで濃厚な風味を持っているのが特徴です。
ナーエ川中流域
バート・クロイツナッハ村周辺から下流のブドウ畑は石が少なく、ミネラル分が豊富で、ナーエがビンゲンまで北上するにつれて土壌に含まれる粘土分が増加する傾向があります。
土壌は他の地域よりも重く、緩やかな斜面にある黄土と粘土を主体とした畑で、上流域よりもボディのあるワインになると言われています。
ナーエ川下流域
ローム、黄土、砂で構成され、穏やかな起伏の下流域の大部分の土地はラインヘッセンと似ており、ミュラー・トゥルガウのワインに適しています。しかしライン川との合流地点であるビンゲン付近には、スレートと珪岩主体の急斜面の段々畑があります。
このような優れた畑からは、柑橘類とミネラルの風味が豊かなリースリングが造られています。
宝石のようなナーエの特級畑たち
このように多種多様で奥深いナーエのテロワールを表現することにナーエの生産者たちは心を砕いています。そんな中でもナーエの多様なテロワールを飲み比べるのにおすすめしたい生産者がデンホフ。
ナーエのみならずドイツを代表するリースリングの造り手と称えられているデンホフは、ナーエ川上流域を本拠地として宝石のような畑から、数多くの単一畑のリースリングを仕込んでいることで知られています。
最後に彼らの特級畑の土壌と特徴をいくつか紹介するので、その違いをぜひ楽しんでみてください。
ロックスハイマー・エレンプファート
土壌 | 赤い砂岩の脈を持つ石灰岩 |
地勢 | 斜度40~65度、南向き |
格付け | 特級畑(VDP. GROSSE LAGE®) |
エレンプファート(地獄への道)という刺激的な名前は古くから伝えられており、特徴的な赤い砂岩に反射した夕暮れ時の真っ赤な風景と、急斜面でのブドウ栽培という「地獄」のような労働の両方を表しているようです。
この地で栽培されるブドウは特徴的で、非常に小さく濃厚でニュアンスのあるアロマを放ちます。出来上がったワインはエレガントで、スパイシーなミネラル果実と優れた熟成能力を備えます。
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オーバーホイザー・ライシュテンベルク
土壌 | 灰色、炭素を含む分解されたアルギル質頁岩 |
地勢 | 斜度30~60度、南東向き |
格付け | 特級畑(VDP. GROSSE LAGE®) |
ライシュテンベルクの名前は二重の意味を持ちます。「ライシュテン」はドイツ語で「達成」を意味し、ライステンベルクはその名に恥じません。また「ライ」はこの地方の言葉で粘板岩を意味しています。
この温暖な粘土と粘板岩土壌の急斜面は、リースリングが成長するための理想的な条件です。南東向きの斜面は朝日を浴びて湿気を飛ばし、健全な果実味を促します。
一方で午後の日差しはそれほど強くなく、長い成熟期間と適度なアルコール度数を両立し、高いミネラル感と洗練されたエレガンスを持つカビネットワインに最適な畑です。
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クロイナッハ・カーレンベルグ
土壌 | 砂利質ローム |
地勢 | 斜度10~40度、南向き |
格付け | 特級畑(VDP. GROSSE LAGE®) |
カーレンベルクは1499年には名前が記されており、かつてのプロイセン王立栽培研究所がこの地の基準地として、何世代にもわたって利用してきた由緒ある長い歴史を持つ畑です。
斜面は真南を向いており、リースリングの樹は砂利混じりのローム土壌で育ち、ワインにスパイシーな特徴を与えています。
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