ローヌ地方南部を代表するワイン、シャトーヌフ・デュ・パプは、アペラシオンごとに厳しい規制があり、原料ブドウ品種まで細かく指定されているフランスワインの中でも、18種類ものブドウ品種が原材料として認可された非常に珍しいA.O.C.ワインです。
この18種類のブドウの使用方法は生産者によって異なるため、同じシャトーヌフ・デュ・パプという銘柄でも出来上がるワインの味わいは様々です。
今回はそんなシャトーヌフ・デュ・パプというワインをブドウ品種にスポットを当てて紹介したいと思います。
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シャトーヌフ・デュ・パプとは?
シャトーヌフ・デュ・パプはフランスの南ローヌ地方を代表するA.O.C.で、ブドウ畑はオランジュ市とアヴィニヨン市を結ぶローヌ川左岸に広がっています。
この地域のワイン造りは14世紀に法王庁がアヴィニヨンに移転されたのを機に発展しました。シャトーヌフ・デュ・パプというA.O.C.名は「教皇の新しい城」という意味で、教皇ヨハネス22世が築いた夏の居城の廃墟が残る村の名前にちなんで付けられました。
現在もシャトーヌフ・デュ・パプのボトルの多くに法王の紋章が浮き彫りされているのも、この様な史実に由来しています。
シャトーヌフ・デュ・パプと言えば赤い粘土の上に拳ほどの大きさの石がゴロゴロと転がったギャレと呼ばれる土壌が特徴です。この玉石は古代ローヌ川によって運ばれました。
通気性と水捌けに優れたギャレは、日中の太陽の熱を蓄えて夜間も土壌が保温されるため、しっかりと熟成され凝縮感のあるブドウが実ります。
また、シャトーヌフ・デュ・パプの土壌はギャレだけではなく、白亜紀の石灰質層を覆う砂質の土壌、赤い粘土の土壌など多岐にわたり、テロワールは非常に多様性に富んでいます。
シャトーヌフ・デュ・パプは赤ワインと白ワインがありますが、白ワインは全生産量の3%程で、ほとんどが赤ワイン。温暖で乾燥した気候により健全に完熟したブドウから凝縮した果実味とアルコールに由来するボリューム感を特徴とするワインが生まれます。
若いうちから楽しむことができますが、長期熟成も可能です。比較的カジュアルなワインの生産が多い南ローヌにおいて、シャトーヌフ・デュ・パプは品質も個性も別格のワインと言えるでしょう。
18品種のブドウが認可されている
シャトーヌフ・デュ・パプの1番の特徴は、18種類ものブドウ品種の使用が認められていることです。これはフランスのワイン法において最も多い使用ブドウ品種数です。
黒ブドウ
- グルナッシュ(グルナッシュ・ノワール)
- シラー
- ムールヴェードル
- サンソー
- クノワーズ
- ミュスカルダン
- ヴァカレーズ
- ピクプール・ノワール
- テレ・ノワール
- クレレット・ローズ
白ブドウ
- グルナッシュ・ブラン
- グルナッシュ・グリ
- ルーサンヌ
- クレレット・ブラン
- ブール・ブーラン
- ピクプール・ブラン
- ピクプール・グリ
- ピカルダン
しかし、18種類全てのブドウ品種を使用してシャトーヌフ・デュ・パプを造る生産者は非常に稀で、赤ならグルナッシュ、シラー、ムールヴェードル主体で造られるのが一般的です。
この3品種のブレンドによるワインはローヌ南部で古くから造られており、「ローヌスタイル」や「ローヌブレンド」と呼ばれています。また、3品種の頭文字をとってGMSワインと表記されることもあります。
この3品種に加えて、珍しいローヌ地方古来のブドウ品種も使用が認められていますが、それらは生産量が非常に少なく、実際にはほとんど使用されないため、どんなブドウ品種なのか語られることは少ないでしょう。ここからはそんなブドウ品種について詳しくご紹介します。
黒ブドウ
黒ブドウは以下の10種類が認可されています。
グルナッシュ(グルナッシュ・ノワール)
スペイン北部原産の黒ブドウ品種。スペインではガルナッチャと呼ばれます。
南部ローヌの最大栽培品種で、ブレンドの主要品種として用いられることが多いブドウです。
オレンジがかった淡い赤色で、高いアルコール由来のしっかりとしたボディながら、ブラックカラント、カシス、プラムなどの黒系果実の味わいに黒コショウやハーブを思わせるスパイシーな香りが混じった、口当たりの柔らかいワインを生みます。
シラー
原産地である北部ローヌではエルミタージュやコート・ロティの主要品種として知られる黒ブドウ品種でエレガントなワインが造られます。南部ローヌではシャトーヌフ・デュ・パプをはじめとするワインのブレンドの一種として用いられており、ワインにスパイシーな印象を与えます。
オーストラリアではシラーズと呼ばれ、同国で最も多く栽培されている品種です。バロッサ地区など暖かい地域では濃密で果実味豊かな力強いワインとなりますが、ヴィクトリア州など冷涼な地域では黒コショウのようなスパイシーなニュアンスが現れるワインとなります。
このように産地によってスタイルが変わるのがシラーの特徴でもあります。
ムールヴェードル
南部ローヌでは主として赤ワインのブレンドに重用される黒ブドウ品種で、特にグルナッシュやシラーとのブレンドでワイン厚みを持たせます。
一方南フランスのバンドールでは主要品種としても使用されています。
スペインではモナストレルの名で親しまれているポピュラーな品種であり、濃厚な色合いや渋味と同時に、なめし皮革のような複雑な風味をワインに与えます。
サンソー
地中海沿岸の南フランスやコルシカ島で広く栽培される黒ブドウ品種。果皮が薄いため造られるワインはタンニンが少なくしっかりとした酸が特徴で、ラズベリーやザクロなどのフレッシュな果実の香りがします。
南フランスではブレンドの補助品種として味に複雑味や柔らかみを出すために重宝されている一方で、南アフリカなどのニューワールドでは高樹齢のサンソーから高品質なワインが生産され、注目を集めています。
クノワーズ
プロヴァンス地方が原産と考えられている果皮の濃い黒ブドウ品種です。南フランス以外ではアメリカのカリフォルニア州やワシントン州で栽培されています。
A.O.C .シャトーヌフ・デュ・パプのエリアでの栽培量は全体の0.4%。ブレンドに用いることでフローラルなニュアンス、高い酸度、黒コショウなどのスパイスの香りを活かしたワインが造られます。
ミュスカルダン
南部ローヌでわずかに栽培されている黒ブドウ品種です。
A.O.C .シャトーヌフ・デュ・パプの品種として認められてはいるもののほとんど使用されていません。芳香の高い、色の薄いワインになります。
ヴァカレーズ
ローヌ地方で赤ワインのブレンドに使用される黒ブドウ品種です。房も果実も中程度の大きさで果皮は青みがかった黒色をしています。
生産量が少なく、単一でワインに使用されることはまずありません。洗練された花のような香りが特徴的で、ワインにフレッシュさとエレガントさを与えます。
ピクプール・ノワール
ラングドック地方古来の黒ブドウ品種で、ノワールの他にブランとグリの二つの変異種が存在します。単一で使用される場合は芳香とアルコール分の高いワインになりますが、色は薄く、一般的には早飲み用のワインとなります。
フランス全土において非常に生産量が少なく、シャトーヌフ・デュ・パプのブレンドとしてもほとんど使用されていません。
テレ・ノワール
テレ・ノワールもピクプール同様、ラングドック地方古来の黒ブドウ品種で、ノワールの他にブランとグリの二つの変異種が存在します。
暖かい地方のブドウですがしっかりと酸味を保持するため、ブレンドに用いられます。
クレレット・ローズ
プロヴァンス地方原産のクレレット・ブランの突然変異種で、ピンク色の果皮を持つ酸味の穏やかなブドウ品種で一般的に南フンランスのロゼワインに使用されることの多いです。
シャトーヌフ・デュ・パプの品種に認められはいますが、使用されるのは稀です。
白ブドウ
白ブドウは以下の8品種が認可されています。
グルナッシュ・ブラン
グルナッシュ・ブランは赤ブドウ品種であるグルナッシュの突然変異で生まれた白ブドウ品種です。シャトーヌフ・デュ・パプのブレンドでは、白ブドウの中でも特に多く使用されます。
グルナッシュ・ブランから造られるワインは黄金色で、青リンゴや黄桃などの果実香が特徴です。ソフトなテクスチャーはブレンドにおいてワインにふくよかさをもたらします。
ローヌ地方のラストーやラングドック・ルーション地方のモーリー、リヴザルトといった天然甘口ワイン(V.D.N.=ヴァン・ドゥー・ナチュレル)の原料ブドウとしても有名です。
グルナッシュ・グリ
グルナッシュ・グリもグルナッシュ・ブラン同様、グルナッシュの突然変異で生まれたブドウ品種で、果皮がピンク色をしています。
スペインのアラゴン地方が原産地とされており、そこから地中海伝いに広がっていったと考えられています。レモンを思わせる爽快なフレッシュさと果実味、凛とした酸が特徴。一般的には他品種とブレンドされます。また、天然甘口ワインの原料にもなっています。
ルーサンヌ
ルーサンヌは、主にフランスのローヌ地方で栽培されており、シャトーヌフ・デュ・パプをはじめ、北部ローヌのA.O.C.エルミタージュやサン・ジョセフにも認められている白ブドウ品種です。
一般的にマルサンヌとペアでブレンドして用いられることが多いのですが、シャトーヌフ・デュ・パプにおいてマルサンヌは使用品種として認められていません。
ルーサンヌから造られるワインは、白い花のフローラルなアロマに、桃や洋梨の果実味やコショウのようなスパイシーさもあり、エキゾチックなニュアンスを感じます。また、長期熟成も可能です。
クレレット・ブラン
南フランス古来のブドウ品種で地中海エリアで広く栽培されています。シャトーヌフ・デュ・パプの白ブドウにおいてはグルナッシュ・ブランに次いで多く栽培されています。
乾燥し痩せた石灰岩土壌に適したブドウで、現在は南アフリカやオーストラリア等でも栽培されています。
クレレット・ブランから造られるワインはフルーティーで酸味は控えめながらアルコールが高く、後味に心地良い苦味を感じます。酸化しやすいのが弱点で、1年程で飲み頃を迎えます。
ブール・ブーラン
主に南フランスで広く栽培されており、樹勢が強く、乾燥した痩せた土地を好み、充分な日照が必要な晩熟の白ブドウ品種です。
基本的にブレンドに用いられますが、フローラルな香りを持ち、アルコールが低めの早飲み用のワインが出来上がります。
ピクプール・ブラン
ピクプール・ブランは南フランス・ラングドック地方で主に栽培されている白ブドウ品種です。果皮の色が異なるピクプール・グリ、ピクプール・ノワールの変異種が存在します。現在生産量が圧倒的に多いのはピクプール・ブランで、ピクプール・ノワールは少量、ピクプール・グリはほとんど栽培されていません。
ピクプール・ブラン単一で造られるワインは、柑橘系の豊かな果実味とミネラリーで爽やかな酸が特徴です。シャトーヌフ・デュ・パプのブレンド用品種として認められていますが、実際にはほとんど使用されていません。
ピクプール・グリ
ピクプール・グリはピクプール・ブランの変異種で、灰色がかった果皮を持ちます。
2004年の統計でフランスでの栽培面積は5ヘクタールに満たず、現在はほとんど栽培されていません。
ピカルダン
シャトーヌフ・デュ・パプのA.O.C.地域内の栽培面積は2ヘクタール程で非常に生産量も少なく、実際に使用されることはほとんどありません。
果実は大粒で果汁は無色透明、際立った酸が特徴です。
まとめ
黒・白合わせて18種類ものブドウ品種が認可されているA.O.C.シャトーヌフ・デュ・パプ。数種類の品種をブレンドして造られるワインもあれば、単一品種で造られるワインもあり、そこに生産者の個性とセンスが合わさって生まれる味わいの多様性が最大の魅力です。
生産者ごとに飲み比べてみるとその個性の違いに驚かされることでしょう。ぜひ色々なシャトーヌフ・デュ・パプを試してみてくださいね。
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