「ミュスカデ」と聞いて、あなたはどんなワインをイメージしますか?
軽い、シンプル、爽やか、手頃な価格。どのボトルもそれほど大差はなく、シーフードと合わせて気軽に楽しむのに適した早飲みのワイン。
私を含め、多くの人がそういったイメージを持っているのではないでしょうか?
しかし近年、ミュスカデはそんなイメージを覆すワインを生産し、徐々に業界の注目を集めています。ワイン大国フランスで再発見された、ミュスカデの現在をお届けします。
そもそもミュスカデとは
ミュスカデの現在をお伝えする前に、そもそも「ミュスカデ」とは何なのか。簡単におさらいしましょう。
ミュスカデとはフランス・ロワール地方の最西部ペイ・ナンテ地区で、ムロン・ド・ブルゴーニュ(別名ミュスカデ)というブドウ品種から造られる白ワインのこと。
実際には、文字通りのミュスカデAOC(原産地統制呼称)を含む、ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌ、ミュスカデ・コート・ド・ラ・ロワール、ミュスカデ・コート・ド・グランリュの四つのAOCを総じて、ミュスカデと認識している人が多いのではないでしょうか。
ミュスカデは1936年という最も早い時期にAOCとして制定された歴史あるワインですが、生産者たちはこれまで長らく厳しい時代を迎えていました。
冒頭に挙げたようなシンプルでフレッシュな低価格のワインというイメージによって、他産地のワインの価格が高騰していく傍ら、ミュスカデは慢性的な低価格から抜け出すことができず、経済的にワイン生産が成り立たなくなっていたのです。
2000年から2010年の間だけでもブドウ畑の面積は17,500haから9,000haに減少し、地価は半減したそうです。
「ミュスカデ」という固定観念
ミュスカデがこの立場に甘んじていた理由は、ムロン・ド・ブルゴーニュという品種の個性とそれを解決するための伝統的な醸造法によるところが大きいでしょう。
ムロン・ド・ブルゴーニュは特徴的な風味を持たず、冷涼な気候下で栽培されるため軽く、ともすると薄っぺらな印象のワインに。
そしてそれを解決するために、ほぼすべてのミュスカデがシュール・リーと呼ばれる伝統的な醸造方法で造られています。
シュール・リーはフランス語で「澱の上」という意味です。アルコール発酵後、発酵槽の中のワインと澱をそのまま最低でも翌年3月まで放置し、澱の上にあるワインを直接瓶詰めする手法です。
こうすることでシャンパーニュのように澱が分解されて溶け込み、ワインに厚みをもたらしつつも、フレッシュさの強調された白ワインとなります。
このワイン造りはムロン・ド・ブルゴーニュの欠点を補うという意味では素晴らしいテクニックですが、それ故に「どのボトルでもあまり変わらない。ミュスカデはミュスカデ」という固定観念を作る要因になっていました。
現代のテロワール志向のワイン愛好家たちにとって、それは退屈なワインだったかもしれません。
テクニックのワインから、テロワールのワインへ
しかし志のある生産者たちは産地の衰退を、指をくわえて見ているだけではありませんでした。
ミュスカデでも品質にフォーカスし、収穫量を減らしてテロワールを表現した、高値で取引できるカテゴリーを作ろうとしたのです。
彼らは広大なミュスカデの畑の中に、特別なブドウを生み出す優れた畑があることを知っていました。
特別なブドウを生み出す特別な場所を特定すると、そこから造れるワインの個性と結びつけ、本格的な地質調査を行って政府にクリュとして申請しました。
そして2011年、初となるクリッソン、ゴルジュ、ル・パレの三つのクリュ・コミューンを発表。
他のクリュもそれに続き現在では10のクリュが存在していますが、これらのコミューンに属する畑はたった200haほどのため、ワインは非常に希少なものになっています。
クリュ・コミューンのミュスカデは、通常のミュスカデの収穫量(65hl/ha)に比べて厳格な収穫量(45hl/ha)が定められており、澱の上での熟成期間も18~48ヶ月と最低でも1年以上の長い熟成が必要。
この厳格なルールによって今までのミュスカデのイメージを覆す、それぞれのクリュのテロワールが反映された個性を持ち、長期熟成の価値あるワインが造られているのです。
ミュスカデのクリュ
とは言え「どう違うの?どれだけ違うの?」と疑問が浮かぶこと方もいるでしょう。
そこで最後に代表的なクリュの特徴を紹介します。
シャトー・テボー
原産地委員会によると“洗練”のクリュ。川沿いの断崖絶壁の上に広がる傾斜のある畑です。
表土は浅く、小石混じりの砂利がスレートと花崗岩の上に拡がっている、排水性が高くブドウの根が深くまで張っています。澱との熟成期間は36~48ヶ月とすべてのクリュの中で最長を誇ります。
リコリスやアニスの香り、バランスのとれたエレガントな味わいで塩気を感じさせる引き締まった後味が特徴です。
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クリッソン
原産地委員会によると“パワー”のクリュ。クリュ・コミューンの中で最も南に位置するのがクリッソン。
花崗岩の上に小石混じりの砂利が堆積した土壌で、排水性が高くブドウの根が深くまで張っています。澱との熟成期間は24~36ヶ月。
火を入れた洋ナシ、桃、ハチミツやマルメロの香り、アルコール度数が高く、凝縮してフルボディなキャラクターです。
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ル・パレ
原産地委員会によると“滑らか”なクリュ。川沿いにある南向きの傾斜のある畑で、暖かく穏やかな気候のためブドウが早く熟すコミューンです。表土は石の多い砂利で母岩はほぼすべてスレート。
フルーティーでミネラルの香りが豊か、寛大で心地良いエレガントな味わいです。澱との熟成期間は18ヶ月と最短ですが、クリュの特徴である滑らかな口当たりを与えるにはこれで十分だそうです。
まとめ
産地の復興に向けて気を吐いているミュスカデ。これらのワインは間違いなく、あなたの「ミュスカデ」の概念を覆してくれます。
また、もともと主張が強くない品種だからこそ、料理を受け止める度量が広くグルマンなワインという意見もあります。
もしまだ試したことがない愛好家と美食家はぜひ一度試してみてくださいね。
参考:"Muscadet Terroirs - The Crus Communaux." Muscadet Wine Producers, www.muscadet.fr/en/muscadet-terroirs-2/the-crus-communaux/.