あのひとの、特別な日に飲む「ハレ」ワイン、日常に馴染む「ケ」ワイン。
ワイン好きで知られるあのひとに、それぞれのワインと楽しみ方を語ってもらいました。
日本最古の老舗インド料理店「ナイルレストラン」の三代目オーナー。1996年インドのゴア州に渡り五つ星ホテルで修行。現在は食品プロデュースや料理教室など多方面で活動中。2016年インド料理シェフでは日本初となるソムリエの資格を取得。著書「南インド料理とミールス」3刷重版、「ナイル善己のやさしいインド料理」4刷重版のベストセラー。著書他多数。
▼ハレワイン
僕はワインが好きだ、大好きだ!
先祖はインド人ではなくてフランス人だったのかと思うくらい。そんな僕が、好きが高じてソムリエの試験を受けようと考えたのが今から9年前のこと。まだその当時、日本のインド料理シェフでソムリエ資格を持っている人間は一人もいませんでした。よし、だったら僕が日本で初めてのインド料理シェフ唯一のソムリエになってやると、一念発起してワインを学んだのはすでに懐かしい思い出です。
あの日以来、僕のワインライフが豊かなものになったのは言うまでもありません。
ソムリエ試験合格のお祝いに開けたワインですが、ワインラヴァーなら誰もが知る伝説のシャトー・オー・ブリオンでした。合格祝いで飲んだシャトー・オー・ブリオンのそれはそれは美味しかったこと。初めて味わった上級ボルドーワインの世界にうっとりするばかりで、僕は声が出ませんでした。
あの衝撃が忘れられなかった僕は、それ以来ハレの日はボルドーワインを好むようになりました。何でしょう、あの重厚でふくよかな味わいに、バランスが良くまろやかなタンニンの収斂性にすっかり虜になってしまいました。熟成されたカベルネの香りはエレガントで奥行きがあり、複雑に絡み合った芳香はどこまでも広がっていきます。その香りを蘇らすためにデキャンタージュをして、熟成ワインのポテンシャルを引き出す工程も楽しみ方の一つですよね。長い年月を経てリリースされたヴィンテージワインの歴史を想像するとわくわくするものです。
▼ケワイン
そんな僕ですが、フルボディーのワインばかりを好んでいるわけではありません。
暑い夏の日はちょっと冷やし気味にして、ごくごく飲めるようなカジュアルなワインも大好きです。お仕事がお休みの日に昼飲みしたい、そんな時はロゼがぴたっと僕の気分にはまります。さらっと飲める白ワインの感覚に赤ワインのニュアンスも感じられるから、一杯で2度美味しいみたいなお手軽感を味わえるからです。
行楽の季節、外飲みしたい時は果実味のしっかりしたサンジョヴェーゼのロゼを選びます。チェリーのようにフルーティーで、アロマはシナモンなどを感じさせ、ミディアムボディーで飲みやすいのが特徴ですね。
普段、ワインからのスパイス香は感じ取りますが、あまりインド料理と結び付けたことがありません。僕はスパイスのスペシャリストですが、ワインとスパイスを合わせる料理はそんなに考えないようにしています。だって自分が食べたい料理に好きなワインを合わせるのが一番のマリアージュだと思っているからです。
ワインは自由に楽しむのが一番。
好きな人と気兼ねなく味わうのが至福の時間じゃないでしょうか。