奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!
あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。
2012年4月から続けてきました連載「テイスティングノート」、ついに最終回となりました。コラムのなかで幾度と取り上げてきたのは、「変化」についてでした。
この12年間に起きた大きな変化を挙げてみます。
*品種個性の変化
*産地の位置付けの変化
*ブドウ熟度の向上
*ワインのスタイルの変化
*ヴァラエタルワインから産地重視へ
グリーンノート(青臭さ)はソーヴィニヨン・ブランの、ペトロールはリースリングの典型的な香りではなくなりました。メルローはしなやかな味わいになり、ピノ・ノワールの色は濃くなり、シャルドネにはトロピカルフルーツの香りがするようになりました。アルバリーニョ、グリューナー・ヴェルトリーナー、甲州はスターとなり、マルベック、カベルネ・フラン、ガメイはすっかり国際的な品種となりました。辛口が主流となったドイツはじめ、カナダ、イングランドといった寒冷な地が注目を集め、ミュスカデ、アリゴテ、ガメイ、モンテプルチャーノなど、過小評価されてきた品種の目覚ましい品質向上がみられました。1990年代、ワインの価値とされた「力強さ」「タンニンの強さ」「木樽のインパクト」はもはや息を潜めています。
私がもっとも大きいと感じるのは、品種個性から産地個性への変換です。1970年代の技術革新、量産型のワイン造り、ヴァラエタルワイン、ITによるグローバリゼーションはワインの国際化と個性の画一化をもたらしました。そこにいち早く対応を始めたのは伝統産地でした。原産地統制(AOC)から原産地保護(AOP)へと転換し、継続可能な農業と環境保全のためのオーガニック、サステナビリティを本格化させます。目まぐるしい変化を経て、「変わらないもの」、「継承すべきもの」が尊重される時代となったのです。
Heritage
シャトー・リューセック 2020は、鮮やかなイエローゴールド、十分な熟度、密度は見受けられますが、粘性はイメージするほど強くはありません。香りは落ち着きがあり、まさに深淵な雰囲気。ゴールデンデリシャスのコンポート、ハチミツ、蜜蝋、渋皮栗、ヘーゼルナッツ、ほのかにピート。様々な香りが折り重なっていますが、まだ秘めたる印象です。濃厚な甘みのアタック、トロリと流れるようなクリーミーな触感、しなやかな酸味が緻密さを与えます。余韻にかけては見事な広がり、ハチミツ、ヘーゼルナッツ、栗、そしてピートと戻り香に包まれます。
時代の潮流に呑まれることなく、変わることのなかったワインがソーテルヌといえるでしょう。自然の力でしか育むことのできない貴腐ブドウ。激しい変化は続いていても、変わらずに造られてきました。そしてその存在感と品質に陰りは一切ありません。これこそ未来に遺すべきワインだと思うのです。
連載最終回、「最後のワイン」は何がいいだろうと巡らせていて、むかし「人生最期に飲みたいのは?」という問いに答えたワイン、ソーテルヌにしました。人生はまだ続いてゆきますが、このワインで最終回を迎えられたことを幸運に思います。
ふた月毎に送られてくるワインに向き合い、文章にする。本当に楽しく、有意義な機会でした。卒業や退職よりもさみしさを感じていますが、ここまで続けられたことを皆さんに心より感謝いたします。ありがとうございました。
今回ご紹介したワインはこちら
ソーテルヌ地区格付け第一級で、トップクラスの甘口白ワインを生産するシャトー。シャトー・ディケムと隣接していますが、セミヨンとソーヴィニヨン・ブラン、ミュスカデルと3種のブドウ品種をブレンド。深みのある花の香りが特徴です。
シャトー・リューセック
白
エレガント&ミネラリー
シャトー・ラフィット・ロスチャイルドが所有する古くから評価されてきた貴腐ワイン。魅惑的なアロマと蕩けるような味わいが魅力。 詳細を見る
4.7
(3件)2020年
25,300 円
(税込)
V 92-94
2007年
27,500 円
(税込)
WA 92