日本人アーティストは30年ぶり!塩田千春さんに聞く、最新ムートンアートラベル誕生秘話

レポート
公開日 : 2024.5.13
更新日 : 2024.5.13
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塩田千春さん、ジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルドさん
左から塩田千春さん、ジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルドさん

五大シャトーの一角、シャトー・ムートン・ロスチャイルド。毎年、その時代を代表するアーティストがラベルを担当することでも知られています。


2024年5月にリリースされた最新2021年ヴィンテージは、30年ぶりに日本人アーティストが採用されました。現代美術家の塩田千春さんです。


シャトー・ムートン・ロスチャイルドがどのようにアーティストを選定しているのか、今回塩田さんを採用した理由は何なのか、シャトーの共同責任者であり芸術文化事業を担当するジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルドさんに聞きました。


また、ベルリン在住の塩田さんにもリモートインタビューを実施。アートラベルが完成するまでの裏話をお届けします。

塩田千春さん


塩田千春さん

1972年大阪生まれ。生と死という人間の根源的な問題に向き合いながら、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ、「不在の中の存在」という一貫したテーマのもと大規模なインスタレーションを制作。また、彫刻や絵画、映像を用いた作品も手がける。 2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2015年には、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館代表作家として選出される。 横浜トリエンナーレ(2001年)、越後妻有アートトリエンナーレ(2009年)、シドニー・ビエンナーレ(2016年)など国際展にも多数参加。 現在はベルリンを拠点に活動。

目次

偉大なアーティストが手掛けるアートラベル

過去のアートラベル
左から1969年:ジョアン・ミロ作、1970年:マーク・シャガール作、1973年:パブロ・ピカソ作

シャトー・ムートン・ロスチャイルドは、1924年に初めてアートラベルをジャン・カルリュというポスター画家に依頼。その後、1945年からは毎年、ラベルデザインを有名アーティストが手掛けており、ミロやシャガール、ピカソなど時代を象徴する錚々たるアーティストがその名を連ねています。


これまでのアーティストは、ブドウやワインを飲む喜び、シャトー・ムートン・ロスチャイルドのシンボルである牡牛などをテーマに作品を作り上げてきました。


1981年以降は、長年アーティスト選定を担っていた故フィリピーヌ・ド・ロスチャイルド男爵夫人によってアートラベルの巡回展が企画され、作品を世界に広めてきました。


2013年にはセラーの隣にアートスペース「芸術とワインラベル」を開設。シャトーを訪れたお客さまが歴代アーティストの作品を鑑賞できるようになっています。

アートスペース「芸術とワインラベル」

アートへの想いが強いシャトー・ムートン・ロスチャイルド。現在はフィリピーヌ・ド・ロスチャイルド男爵夫人の息子にあたるジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルドさんが芸術文化事業を担当し、アーティスト選定を行っています。


毎年のアーティストはどのような基準で選ばれているのでしょうか。ジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルドさんに聞きました。

「アーティスト選考には大きく二つの基準を持っています。


一つはシャトー・ムートン・ロスチャイルドがワインの世界でそうであるように、アートの世界で著名であること、そして私たち(姉のカミーユ・セレズ・ド・ロスチャイルドさん、兄のフィリップ・セレズ・ド・ロスチャイルドさん、そしてジュリアンさん)が彼らの作品を気に入っていること。


私たちのワインが年ごとに全て異なるものでありながらどれも素晴らしいように、毎年異なるアーティストを起用することでシャトー・ムートン・ロスチャイルドの新たな視点を提供できるのです」

そうして最新2021年のアーティストに選ばれた塩田さん。生前、フィリピーヌ・ド・ロスチャイルド男爵夫人がパリの展覧会で彼女の作品に魅了されたことが今回の依頼のきっかけだったとか。

「塩田さんの名声は年を追うごとに高まり、世界中で彼女の作品が展示されるようになりました。


2019年、東京の森美術館の当時の館長がムートンを訪れた際、森美術館で開催された塩田さんの大回顧展「魂がふるえる」の見事なカタログを手渡してくれました。そのカタログを見ながら『いつか塩田千春さんにムートンのために作品を作ってもらいたい』と考えるようになりました」

シャトーと二人三脚の制作

アートラベルの制作期間は約半年。どのように作品が生まれていったのでしょうか。


シャトーから依頼が来たとき、これまでもワインやお菓子のラベル制作を断っていたとのことで、一度お断りをしたという塩田さん。その後、ギャラリーの方に「この仕事を断る馬鹿がいるか!」と言われ、回答を一変させたそうです。

「過去のアーティストを調べたら、本当に偉大な巨匠たちが採用されていることに驚きました!


アートラベルのお話をいただいてからシャトーの見学に伺い、シャトーの展示室でも作品を鑑賞しました。ピカソやダリ、ミロ、シャガール……この中の一人に選ばれたということをすごく光栄に思いました。


そしてシャトーやセラー、ブドウ畑を見せていただき、自然との関わりを大切にしていることを目の当たりにしました」

ドイツ在住の塩田さんは、ベルリンへ戻る飛行機の中でイメージが湧いてきたそう。温めたイメージを形にし、ドローイングの数はなんと40~50枚に及んだそうです。

「制作から3ヶ月ほど経ってジュリアンさんが私のアトリエにやってきました。アートラベルの依頼と聞いた時、『ササッと描いて提出』といったものを想像していたんですが、ジュリアンさんの作品に対する熱心さに驚きました。


描いた作品の意味も知りたいし、どういうところで描いているかも知りたいからアトリエも見たい……私の作品についてもすごく勉強してくれていました。1年に一人、アーティストを選び、そのアーティストとしっかり向き合っていく姿勢を感じたのです。


ジュリアンさんはまるで、一緒に展覧会を作り上げる“キュレーター”のような存在でした。そのくらいこの作品にかける熱い想いが伝わりました」

まさにシャトーとの二人三脚で仕上げていったアートラベル。話し合いは盛り上がり、ジュリアンさんが帰りの飛行機を乗り過ごしてしまったほどだったとか。

「試作品を見た彼からアイディアをもらいました。風船を持つイメージというのは私の中にはなかったので、彼の意見を反映しさらにイメージを膨らませていきました。そうして完成した時はとてもうれしかったです」

Universe of Mouton(ムートンの宇宙)

完成したアートラベルはこちら。作品のタイトルは「Universe of Mouton(ムートンの宇宙)」です。

2021年アートラベル

描かれているのは、赤々と溢れんばかりの自然を前に立つ人物で、自然と人間が4本の糸でつながれ、バランスを図っているかのように見えます。

「シャトーで感じたことにプラスして、2021年ということも作品に込めました。2021年はコロナ禍の真っ最中。人間の経済はストップしてしまったけれど、ブドウなど自然界においては良い環境になったと思っています。


そうしたあらゆる感情を、四季を意味する4本の線で人物とつなぎました」

ジュリアンさんは、過去のアートラベルにはなかったテーマに興奮しています。

「シャトー・ムートン・ロスチャイルドでは、ブドウ栽培者は1年中、パワフルで複雑な自然と向き合わなければならず、自然を理解し、寄り添いながら、ヴィンテージごとに運命が分かち合えるよう、可能な限り幸せなものになるよう、自然を導いていかなければなりません。


この題材は、「芸術とワインラベル」コレクションでは初めてのことで、とてもうれしく思います」

アートもワインも人間の生活に必要なもの

全世界で2023年12月1日にこの作品が公開され、様々な反響があったという塩田さん。アートラベルを担当した今、思うこととは?

「こんなにもアート作品とワインが似ていることに驚きました。


どちらも決して生活必需品ではないかもしれません。ただ、心の葛藤や悩みがそれらに触れることによって緩和されたり、ちょっと幸せな気持ちになれたりするかもしれません。


アートもワインも人間の生活に必要なものなんだと考えるようになりました」

人間の心を豊かにするワインとアート。そんな幸せをシャトー・ムートン・ロスチャイルドは大切にしています。


シャトー・ムートン・ロスチャイルドのワインを堪能する際は、そんなことも思い出してみてはいかがでしょうか。

シャトー・ムートン・ロスチャイルド
750ml

シャトー・ムートン・ロスチャイルド

  • パワフル&ストラクチャー

本数限定
  • 2021

    132,000

    (税込)

  • JS 96-97
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