ワイン好きで知られるあのひとに聞くワインのある生活。
美味しいワインの楽しみ方や出合い、こだわりなどを語っていただきました。
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997 年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。DesignStories 主宰。ボルドーワイン委員会から、2024年の「Re BORDEAUX グランド・アンバサダー」に任命された。
ボルドーワイン大使に就任をしたぼくは、長い歴史と人気を誇るボルドーワインの中でも、新しい潮流に属する比較的手ごろなワインを日本のファンの皆さんにご紹介する役目を今年一年担っている。そのために春にはボルドーワイン協会が運営する学校に通い(笑)、ボルドーの新しく野心的な生産者の皆さんと意見交換をし、各地のシャトーを巡り、さらにはこの夏に、世界最大のボルドーワイン祭りにまで参加し、特設野外ステージでなんとソロ・ライブまでやった。とにかく、この一年はボルドーワインのことを学び、大いに飲んで、それなりに詳しくなったのではないか、と思う。
ところで、ボルドーといえば、五大シャトーに代表されるような赤ワインが有名だが、ここのところ白ワインやペティヨン(発泡酒)もじわじわと人気を博しつつある。しかし、ぼくが日本の皆さんに特に、おすすめしたいのは、何より手頃であり、すっきりと飲みやすく、心地よい季節に心地よい人たちと心地よく堪能することが出来る、ボルドーのロゼワインだ。ボルドーのロゼとは珍しい、と思われる皆さんも多いことだろう。しかし、これが侮ることなかれ。
在仏歴22年のぼくが、渡仏した直後、芸術家の友人らにカフェに連れていかれると、まず、よく飲んだのがこのロゼだった。かつてロゼワインと言えば、日本においては甘いドイツのロゼが主流であった。渡仏した直後、辛口の切れ味抜群のロゼをフランスの仲間たちに教えられた。しかも、当たり外れが少なく、心地よい夜の始まりを快適にスタートさせるのに、ロゼワインは最適だった。
ロゼと言えば、プロヴァンス産が有名だが、ボルドーのロゼは製法がちょっと違うからか、ロゼなのに、軽さだけじゃなく、深みもあり、ロゼにしては余韻も長い。赤も有名なムートン・カデのロゼ・オーガニックなどは驚くほど飲みやすい。クラレンドル・ロゼというロゼワインも、エノテカで手に入るが、微かに(個体差もあると思いますが、)舌先に発泡感があって、何よりエレガントで、無駄な酸味も無駄な渋みもなく、つまり、バランスがよく、アペリティフとして最良であろう。
カフェに仲間たちと集まると、手ごろなロゼを一本と、クロックムッシュも頼む、頼む時にぼくはギャルソンにウインクしながら「クロックアペロ」と告げる。相手は、ああ、という顔をして、普通のクロックムッシュに包丁を入れ、9等分して持ってきてくれる。おのおのには爪楊枝がささっている。夏ならば氷を入れたロゼワインをぐいぐい飲んで、クロックアペロをつまみ、大笑いしながら、アート談義に花を咲かせるのが、ぼくの日々のアペロタイムのはじまり。人生は、毎日が、幸福の入り口であり、その時に欠かせないのが、ここのところ、ボルドーのロゼ、ということになる。軽やかに飲むことが出来つつ、その日の締めくくりにも繋がる、日々のワイン。さて、にわかボルドーワイン大使、明日もまた、がんばろうじゃないか、とロゼを舐めた。ハレルヤ。
コラム内に登場したワインはこちら
ムートン・カデ・ロゼ・オーガニック
ロゼ
フレッシュ&ドライ
シャトー・ムートンの血統を受け継ぐカジュアルワイン、ムートン・カデ。ワイン造りの「今」が詰まった、フレッシュなオーガニック・ロゼワイン。 詳細を見る
4.4
(18件)2023年
2,200 円
(税込)