【解消!ツレヅレハナコのワインもやもや Vol.7】私が飲んでるこれって、シャンパンじゃないの?
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お酒と食と旅を愛する文筆家・料理研究家のツレヅレハナコさん。日々、ワインもたっぷり飲んでいます。ただし、品種、産地、ヴィンテージなどが複雑に絡む独自の世界にはお手上げのよう。
Vol.6では「産地」の気候の違いがワインの味わいに深く関わっていることを知り、また一つ新しい扉が開けました。今回は泡の世界へと足を踏み入れます。
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酒と食と旅を愛する文筆家・料理研究家。著書にサクッと作れる&ちょっとヘルシーな酒の肴のレシピ『47歳、ゆる晩酌はじめました』(KADOKAWA)や、おばあちゃんになっても元気に楽しく飲むために腸をぐるぐる動かす惣菜を仕込んだ記録『ツレヅレハナコのからだ整え丼』(Gakken)などがあり。 すっきりとした飲み口のカヴァも好き。
J.S.A.ソムリエ、J.S.A.SAKE DIPLOMA。京都府出身。ワイン好きが高じて2018年にIT企業からエノテカへ転職。都内2カ所で販売職を経験後、マーケティング部にてコンテンツの作成に携わる。 普段飲みのスパークリングワインとして、軽やかでフルーティーなイタリアのプロセッコがお気に入り。
河
ところでハナコさん、シャンパンはお好きですか?
ハナコさん
大好きです!最初の一杯だけでなく締めシャンをすることもありますよ。ただ、シャンパンを楽しむのは特別な日です。
河
おっしゃる通りで、シャンパンを普段飲みするのは経済的なハードルが高いですよね。
ハナコさん
そういえば、ワインを飲み始めた頃にレストランでシャンパンをオーダーしたら、お会計時にびっくりした記憶があります。
河
恥ずかしながら、僕もソムリエになるまではシュワッとしたワインはすべてシャンパンだと思っていたものです。正確にはフランスのシャンパーニュ地方で造られたスパークリングワインのみがシャンパンと名乗ることができます。
ハナコさん
先生にもそんな時代があったなんて!どうしてシャンパンは高級なんでしょうか?
河
非常に手間ひまをかけて造っているからです。具体的には3つのポイントがあります。実は正確にはシャンパーニュ地方で造られただけでは「シャンパン」とは名乗れないんです。 まず、シャンパン用のブドウは必ず一房ずつ手摘みをしています。機械を用いるとブドウが傷つく可能性があり、傷ついたブドウは腐敗しやすく、出来上がるワインの品質に影響を与えるのでそれを防ぐためです。国や地域によっては機械収穫が可能なところもありますが、シャンパーニュでは一房ずつの手摘みが義務づけられています。
ハナコさん
規定で決められているんですか!?それは人件費もかさみますね。
河
そうなんです。広大な畑に実った果実を素早く、丁寧に摘み取るには、たくさんの人手が必要になります。この時点で労力の掛け方が他とは異なります。 2点目は泡の作り方です。ところでどんな風に作られていると思いますか?
ハナコさん
そういえば、想像したことなかったかも。炭酸ガスを注入しているとか?
河
確かに、その製法(※1)もありますが、残念ながら違います。シャンパンはより丹念に造られています。だからこそ、あの繊細な泡が生まれるんです。
※1 炭酸ガス注入法と呼びます。比較的安価なスパークリングワインやコーラなどの炭酸飲料の泡はこのように作られています。
ハナコさん
やっぱりシャンパンって特別なんですね。どうやってあの泡が生まれるんですか?
河
手摘みしたブドウでまずは白ワインを造ります。この工程はシャンパン以外のスパークリングワインも同様です。ブドウを発酵させる過程を「一次発酵(※2)」と呼び、通常の白ワインはこの時点で完成します。 スパークリングワインは泡を作るために、もう一度発酵を行います。シャンパンの場合は、出来上がった白ワインに酵母と糖分を加えて瓶詰めし、酵母が糖分を食べることで炭酸ガスが発生するのです。そして、密閉された瓶内では、その炭酸ガスがワインに次第に溶け込んでいき、シュワシュワとした泡が生まれます。このように瓶内で2回目の発酵をさせて泡を発生させる方法を「瓶内二次発酵」と呼びます。
※2 ちなみに一次発酵で泡ができない理由は、発酵する際に発生する炭酸ガスを空気中に逃がしており、ワインに溶け込ませないからです。
ハナコさん
「瓶内二次発酵」聞いたことあるかも。でも、何を持って「二次」なのかは知りませんでした。前段階で白ワインを醸造しているからなんですね。
河
そうなんです。瓶内二次発酵で作った泡はきめ細やかで持ちが良く、口当たりもなめらかです。この「瓶内二次発酵」はおいしいスパークリングと出合えるためのキーワードでもあります。
ハナコさん
なんと!
河
「瓶内二次発酵」はシャンパンに限らず、他のスパークリングワインでも用いられています。またの名を「シャンパーニュ方式」、「トラディショナル方式」と呼ぶので、これら3つの単語は、おいしいスパークリングワインを選ぶ時に役立つため、覚えておくといいですよ!
ハナコさん
はい!先生!そうするとこの製法で造られたスパークリングワインはシャンパンと同じくお値段もお高くなりますか?
河
お目が高い!ですが、瓶内二次発酵のスパークリングワインでもお手頃なものはあります。 というのも、シャンパンが高価になる理由の3点目が「瓶内熟成の期間の長さ」だからです。シャンパンは、1年以上にもなる、最低でも15ヶ月の瓶内熟成が定められています。この長期間の瓶内熟成によって、シャンパンはより豊かな風味や複雑さを持つようになるのです。しかし、この熟成期間が延びるほど、保管にもコストがかかり、シャンパンを市場にリリースするまでの手間がさらにかかります。このように手間ひまかけた分、シャンパンの価格は一般的なスパークリングワインよりも高価なのです。
ハナコさん
なるほど!シャンパンってすごい!単にシャンパーニュ地方で造られたものをそう呼ぶんだと思っていました。 ちなみにシャンパンとシャンパーニュって何が違うんですか?
河
シャンパン、シャンパーニュの呼び方は英語とフランス語の違いです。ワイン愛好家はシャンパーニュって呼ぶイメージがありますけれど、シャンパンでも間違いではないです!
ハナコさん
なるほど。それにしてもシャンパンがいかに丁寧に造られているかがよく分かりました。だからこそあの味わい……。やっぱり別格ですね。
河
はい。そうなんです。ぜひ、とっておきの日に楽しんでください。 ここからは「瓶内二次発酵(シャンパーニュ方式)」を中心に、その他のおいしいスパークリングワインをお伝えしていきます。
ハナコさん
わーい!待ってました!
河
シャンパンと同じ製法で普段飲みにおすすめなのは、クレマンとカヴァです。クレマン(※3)はフランスのシャンパーニュ以外の地域(ロワール、アルザス、ブルゴーニュなど)で生産されるスパークリングワインとなります。一般的には、シャンパンの複雑な味わいに比べて、フレッシュでフルーティーな味わいが特徴。 続いてカヴァ(※3)はスペインのスパークリングワインです。こちらもクレマンと同じく、フレッシュでフルーティーな味わいが楽しめます。このクレマンとカヴァはシャンパンに比べるとリーズナブルなところが魅力なんです。
※3 クレマンとカヴァの瓶内熟成期間は最低9ヶ月以上となっており、シャンパンの最低15ヶ月以上よりは短く、短い分、シャンパンと比べるとフレッシュでフルーティーな味わいになる傾向があります。
ハナコさん
カヴァは私もお気に入りです。「瓶内二次発酵」がおいしいスパークリングワインに出合うためのキーワードになることが腑に落ちました。
河
うれしいです!ただ、ハナコさん「瓶内二次発酵」だけではないんです。デイリーでおすすめしたいものにプロセッコがあります。こちらはイタリアのスパークリングワインです。 プロセッコはこれまでの泡とは違う造り方をするのが一般的で、シャルマ方式(タンク方式)を取り入れています。瓶内二次発酵のように、1本1本の瓶の中で泡を作るのではなく、大きなタンクの中に一次発酵した白ワインと酵母と糖分を入れた後、タンクに蓋をして、一度にまとまった量のスパークリングワインを造る方法です。 一度に大量のスパークリングワインができるので、瓶内二次発酵と比べて、コスパ良く造ることができます。また、このようにタンクで醸造したスパークリングワインは、ブドウの新鮮な香りや風味がしっかりと感じられるので、ブドウのピュアな風味を活かすために、瓶内二次発酵ではなく、あえてこの製法を選ぶ生産者もいるんですよ。
ハナコさん
泡ひとつとっても奥が深い。瓶内二次発酵のカヴァ、クレマン。シャルマ方式のプロセッコ。また、世界が広がりました。今夜はカヴァを片手に復習いたします。
文=松岡真子 イラスト=鈴木七代
ハナココラム:取材を終えて
細長いフルートグラスの中で、まっすぐ立ち上るきめ細かい泡……。見ているだけでうっとりし、一口飲めばその繊細で華やかな味わいに夢心地。シャンパンには、ワインの中でもひときわ心をときめかせる魔法があります。記念日やお祝い事、大切な方へのギフトなどにも欠かせませんよね。
今回、河先生の解説を聞き、手摘みでのブドウ収穫から、手間ひまをかける「瓶内二次発酵」、長期間の熟成まで、スペシャルな味わいとなる理由に納得。さすが泡界の王様!これからも、大切な日の一杯に味わっていただきたいと思います。
とはいえ、カジュアルなスパークリングワインも大好き。レストランでの乾杯は、たいてい泡をグラスでお願いしています。適度な刺激が味覚を呼び起こし、「さあ、食べるぞ~」と一気に食欲がわいてくる!
私のお気に入りはスペインのカヴァ。自宅で友人と集まるときの定番です。価格もお手頃なので、気楽にポーンとコルクを抜いて乾杯できるのが良いですよね。フレッシュでさわやかな味わいは昼飲みの場にもぴったり。軽めのおつまみと一緒に楽しんでいます。
そうそう。今回驚いたのは、クレマン、カヴァ、プロセッコという3種の泡について。てっきり国の違いだけかと思っていましたが、クレマン、カヴァは瓶内二次発酵、プロセッコはシャルマ方式と、異なる製法だったとは……。いつか3種を並べて、飲み比べてみるのも楽しいかも。
1本あればテンションが上がる泡。今回は大好きなカヴァにぴったりの簡単タルティーヌと合わせてみました。気軽に手でつまみながら、おしゃべりとともに楽しんでくださいね。
レシピ:りんごとブリーのタルティーヌ
【材料 2人分】
りんご(皮つき) 1/8切れ
ブリーチーズ 30g
くるみ 2粒
バゲット(薄切り) 2枚
はちみつ 適宜
粗びき黒こしょう 適宜
【作り方】
1.りんご、チーズは薄切りにする。くるみは粗く刻む。
2.バゲットをトーストし、チーズ、りんご、くるみをのせてはちみつ、黒こしょうをかける。
レシピ:タコとアボカドのタルティーヌ
【材料 2人分】
ゆでタコ 20g
A塩 少々
A砂糖 少々
Aレモン汁 小さじ1/2
Aオリーブオイル 小さじ1/2
アボカド 1/4個
Bレモン汁 小さじ1
Bオリーブオイル 小さじ1
Bわさび 小さじ1/2
Bしょうゆ 小さじ1/2
バゲット(薄切り) 2枚
飾り用レモン(あれば) 適宜
【作り方】
1.タコは5㎜角に切り、Aを混ぜる。アボカドはフォークでつぶしてBを混ぜる。
2.バゲットをトーストしてアボカドペーストを塗り、タコをのせてレモンを飾る。
文=ツレヅレハナコ 写真=福田喜一