ワインの楽しみ、それは豊かなアロマではないでしょうか。
1杯のグラスの中に200種類以上の香りが含まれているとも言われています。
そんなワインの香りの秘密についてお伝えします。まずは赤ワイン編です。
白ワイン編はこちら
まずは気軽に試してみよう
まずは鼻をグラスに近づけて、さっと手短に香ってみましょう。
このとき大切なのは、長い時間、嗅ぎ続けないことです。
なぜなら、五感の中で嗅覚はもっとも疲れやすいからです。香り成分がグラスから立ち上がると同時にアルコールも揮発しているので、嗅ぎ続けることで、アルコールで鼻が麻痺してしまいます。
ポイント:空気をふくませる
グラスの下部に軽く手を添えて、反時計周りにグラスを回しましょう(このとき左利きの人は時計回りに回します)。
その後、すぐにグラスに鼻を近づけると、回す前よりも香りが豊かに感じられるでしょう。これは、グラスを回すことによって、ワインが空気と触れ合い揮発が盛んに起こるからです。
このことをスワリングもしくはエアレーションと言います。
身の回りの名詞に例えてみよう
いざワインを香ると、「いい香り」「甘い香り」といったことくらいしか浮かばないものです。そのままでは、すべてのワインが「いい香り」になってしまい、特徴を覚えることはできません。
そこでワインの世界で長らく行われてきたのが、身の回りの名詞に置き換えることです。ワインに感じた香りを「イチゴ」「プラム」といった風に、例えることでより具体的になり、人にも伝わりやすくなります。
何よりも香りは形もなく、色もないですから、このように言語化することで、ワインの特徴を思い出しやすくもなるのです。
果物の香り
最初に探してほしいのが果物の香りです。ワインはブドウから造られています。そのためか、果物に似た香りがもっとも見つかりやすいのです。
特に赤ワインの場合は、ベリーやチェリーに似た香りが見つかりやすいでしょう。ここでポイントなのは、いきなりカシス、ブラックベリーと具体的に探しに行く必要はなく、慣れるまでは、赤系果実、青系果実、黒系果実といったぼんやりとしたアウトラインを探しに行くので十分ということです。
赤系⇒青系⇒黒系となるにしたがって、酸っぱい果物から甘いものへと変化していきます。このことから読み取れるのは、酸っぱいブドウから造ったのか、甘いブドウから造ったのかということです。
ワインではこのことを「ブドウの熟度」といいます。イチゴやラズベリーのような赤い果実を感じたなら、そのワインは熟度の低いブドウから造られている可能性があります。
ブラックベリーやダークチェリーのように黒い果実を感じ取ったなら、そのワインは熟度が高いブドウから造られていることが読み取れるのです。
品種ごとに現れやすい果物
赤い果実を感じやすいワイン、その反対に黒い果実を感じやすいワインがあります。
赤系を感じやすいブドウ品種の代表選手はピノ・ノワールです。
この品種は早熟なために、冷涼から温和な気候タイプで栽培されます。フランスなら緯度48度付近のブルゴーニュが適地です(北海道の宗谷岬が緯度45度と比較するなら、ブルゴーニュがかなり北に位置することがわかります)。
そのため、ブドウの熟度がさほど高くならないのが一般的です。
その一方で、黒系を感じやすい代表選手がカベルネ・ソーヴィニヨンです。
果皮が厚く、熟すのに熱が必要ため、温和から温暖な気候タイプで栽培されます。そのため一般的に熟度が高いブドウが収穫されます。
花の香り
赤ワインからは花びらの赤い花の香りが見つかるでしょう。例えば、赤バラ、スミレ、牡丹などです。
基本的にこれらの香りは、醸造中に生成される香りですので、ほとんどの赤ワインに見つかるといっても過言ではないでしょう。
ただ、果実やこのあと紹介する別の香りの要素が強ければ、それらに圧倒されて感じられないこともあるかもしれません。
植物の香り
メントールの香りは、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロといったボルドーにゆかりのある品種が熟さないときに感じやすいでしょう。これはトマトが熟さないと青っぽいフレーヴァを感じるのと似ています。
原因はピラジンという香り成分で、冷涼な産地や雨が多い年などに香りやすいことが報告されています。
タイムやローズマリーといった地中海ハーブの香りは、シラーやグルナッシュなどのローヌで栽培されている品種に感じることがあるかもしれません。
理由はローヌではこういったハーブがブドウ畑の近くに栽培されていて、その香り成分が揮発して、ブドウに付着するからです。
日本酒と違って、ワイン造りでは原料のブドウを洗わないので、ときには畑周辺の影響を受けやすいのです。
スパイスの香り
黒コショウを感じやすいのがシラーです。2008年に香りの原因物質がロタンドンであると突き止められました。現在では、イタリアの土着品種ヴェスポリーナやスキアペッティーノなどにも含まれていることも判明しています。
シナモン、ナツメグのようなスイートスパイスは、何年も使った木樽でワインを寝かしたときに現れやすい香りです。
ワインを樽熟成させるとき、一般的に洗って翌年も使います。このような一度使った熟成樽を「旧樽」と言います。旧樽を中心にワインを寝かすのはピノ・ノワールです。
上述の通り、ピノ・ノワールは赤系果実など繊細な香りをもつ品種です。そのデリケートな香りを圧倒しないように、旧樽で寝かされるのが一般的なのです。
その他の香り
ヴァニラ、チョコレート、コーヒーといった甘い香りは、おろしたてのオーク樽に由来する香りです。上述の旧樽に対して、今度は「新樽」と呼ばれます。
カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロは、黒系果実などはっきりとしたアロマが現れやすいので、こういったパワーのある香りもうまく馴染みます。そのためか、これらの品種に強く感じやすいものです。
無限に広がるワインの楽しみ
ワインを飲み始めた頃は、ぼんやりと「甘い香りがするぞ」と感じていたのが、現れやすい香りを知っていると、どんどん香りを分解することができるようになります。
どんな香りがあるかが分かったら、今度はその香りが何に由来するかを探ってみたいものです。
きっと新たな発見があり、ますますワインが好きになることでしょう。まずは気負わず楽しんでみてください。
なんといったって、グラス1杯に200種類以上の香りが含まれているのですから。
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