フランス南西地方で造られる赤ワイン「カオール」。
ボルドーとさほど離れていない場所で造られていながら知名度が低く、なんとなく垢抜けないワイン……というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
でも実は、フランス産の赤ワインの中でカオールほどお手頃で飲み応えのある赤ワインはそうそう見当たりません。
そんなカオールの魅力をお伝えします。
カオールとは
ボルドーの東から中央山麓にかけて、南はピレネー山脈に至るまでのフランス南西部一帯に点在するワイン産地、南西地方。その範囲は広大で、土壌、気候、栽培されるブドウ品種はそれぞれ異なり、個性的で多彩なワインが造られています。
中でもカオールは南西地方中でも需要なA.O.C.です。
カオールは、フランスのボルドー地方を流れるガロンヌ川に流れ込む支流の一つ、ロット川の流域に東西60kmに広がるワイン産地であり、そこで造られる赤ワインを指します。
紀元前3世紀末から始まるガロ・ローマ時代からブドウ栽培がなされていた歴史ある土地で、カオールで造られるワインは12世紀には既に名高く、南西地方を統治していたアキテーヌ公爵家のアリエノールと後のヘンリー2世との婚礼の宴を飾り、アヴィニヨン教皇ヨハネス22世や歴代のフランス国王が愛飲していたと伝えられています。
カオール一帯は大西洋による海洋性気候と地中海による地中海性気候の影響を受け、夏は暑く乾燥し、冬は寒く、昼夜の寒暖差が大きい気候です。また、秋にはオータンと呼ばれる南西風が吹き付け、ブドウの完熟を促進させています。
土壌は大きく二つに分けられ、一つは標高250〜350mの石灰岩台地で、もう一つはロット川の河岸段丘にあり、中央高地から流されてきた沖積土です。
石灰岩の台地では、よりタンニンが強く、長期熟成もできるワインが産出されます。一方、プラトーと川の間にある砂利質の斜面や段丘では、より親しみやすく、果実味豊かなワインが造られます。
カオールの味わい
カオールの主要品種はこの地が原産地である黒ブドウのマルベックで、70%以上使用することが義務付けられています。補助品種はメルロとタナです。
マルベックはこの地方ではコット、またはオーセロワとも呼ばれています。
実が小粒で果皮が厚いため、タンニンが豊富で非常に濃い色合いのワインを生みます。そのため、マルベック主体で造られるカオールは「黒ワイン」と呼ばれるようになりました。
マルベックは20世紀半ば頃まではボルドーでも人気の品種でしたが、もともと花ぶるいの被害を受けやすい上に、霜、ベト病、腐敗にも冒されやすいブドウ品種のため、1956年にフランスを襲った冷害で大きな被害を受け、フランスでの栽培量が激減してしまいました。フランスでは現在、マルベックを主体とするワインはカオールを除くとほとんど見かけません。
カオールの最大の特徴はやはり「黒ワイン」と言われる由縁でもある、黒みがかかった濃厚な色合いです。
若いうちはブルーベリーやプラムといった果実の香りとともに、スミレやバラのような花の香りや、杉やインク、皮のような香りがします。
同じくマルベックを主要産地とするアルゼンチンのワインと比べると、果実味が豊かで濃厚な印象が強いのがカオールの特徴です。アルゼンチンのマルベックは口当たりが良く、なめらかな印象を持ちます。
カオールと相性の良い料理
カオールはなんといってもお肉料理との相性が抜群です。牛肉(特に赤身肉)や鴨肉、羊肉がおすすめ。
シンプルにグリルしたステーキはもちろん、甘辛いタレを付けた焼肉、バーベキューともよく合います。
また、ボディのしっかりしたカオールは、個性の強い食材と合わせることができます。
例えば、青カビチーズのロックフォールや、フォワグラのソテー、スパイシーなサラミやソーセージなど。ロックフォールもフォワグラもカオールのある西南地方の特産品ですから、その相性は言わずもがなです。
家庭料理なら、レバニラ炒めやタンシチュー、豚の生姜焼きなど。こういった少しクセのある濃厚な味わいの肉料理も、カオールのしっかりとしたタンニンが口の中の油分をしっかりと受け止めてくれるため、思わずワインが進んでしまいます。
まとめ
隣接する産地ボルドーの繁栄とは裏腹に、これまで南西地方のワインは土着的で垢抜けず、商業的にも出遅れた感が否めませんでしたが、近年の新世代の台頭につれてカオールも洗練されたワインに進化しています。
またカオールのワインは、同じように重厚感のあるボルドーやカリフォルニアに比べ、お手頃なのも魅力です。
飲み応えのある赤ワインが飲みたくなったら、カオールを検討してみてくださいね。
参考文献:日本ソムリエ協会 教本 2021
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