第60回 Typicity

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公開日 : 2022.4.26
更新日 : 2023.7.12
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奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!


あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。

「男らしくない」、「女らしくする」。あるべき姿、既存概念に縛られた考え方、ものの捉え方です。


今日、ワインの世界はその途方もなく多様な解釈が混在しています。「ワインは経済や社会情勢により変わってゆく」と聞いたことがあります。好景気では力強いワインが求められ、不況下ではスムースなワインが求められると言われましたし、またこうも言います。「消費者がワインをつくる」、消費者の嗜好、ニーズが影響を与えるということです。


イギリスがワイン市場を牽引していた1980年代は(今も重要な消費国ではありますが)、熟成したワインが求められ、90年代はアメリカンテイスト、果実味豊富で甘みのある豊潤なスタイルが求められました。


食のトレンドの影響も大きいです。フランス料理全盛時にはクラシックなスタイル、オーセンティックなワインが求められ、食事時間が短くなるにつれバイザグラスが、つまり注いですぐに楽しめるワイン、健康・ダイエット志向が高まると低アルコール、エクストラ・ブリュットのスパークリングワイン、そしてヴィーガンフレンドリーと移り行きます。


ブドウ品種の個性も多様になってきました。かつてソーヴィニヨン・ブランはハーブの香り、リースリングは重油香、カベルネはピーマン香、シラーは黒胡椒……。そうステレオタイプに覚えておけばよかったのですが、栽培テクノロジーの発展と生産者の解釈の広がり、またワイン生産地域の広がりにより、そうは言えなくなっています。「ソーヴィニヨンは猫のオシッコ」とはもはや誰も表現しなくなったのです。甲州も水みたいに薄く、淡いワインというのは時代錯誤もいいところです。


そんな中、白ブドウ品種のキング(誰もそうは呼びませんが)シャルドネはニュートラルなブドウ品種として認知されてきました。そしてマロラクティック発酵由来のバタリーまたはミルキーな香りと樽熟成によるトーストやバニラの香り。そんなキングも今日その個性に明らかな変化がみられます。

ワー・ドリームス 2018は、よく熟し、濃縮感があり、かつ抑えのきいた香りの立ち上がりで、カリン、ネクタリン、マイヤーレモンと甘やかかつ華やかなフルーツ、さらにライラック、マグノリア、ネクタリン、レモングラス、レモンバーベナ、加えてオリエンタルスパイスに、スモーク、かすかに火打ち石、香りがワックスと層を成し、次々と湧き上がってきます。


味わいはドライで厚みがあり、粘性をはっきりと感じるメロウな食感、しなやかな酸味、後半にかけて広がる苦味がボディを与え、シリアスなフィニッシュをつくります。


このアロマティックな白ワインをテイスティングしていて、私はこのワインがシャルドネであることをすっかり失念していました。決してニュートラルなワインではないからです。


しかしこのワー・ドリームスが生まれたのは、シャルドネ=シャブリ、はたまたモンラッシェという認識の時代です。イエルマンはなんと大胆、勇敢な造り手なんだろう、と感服しました。


Typictyという言葉があります。「典型的な」といった意味合いの造語で、最近よく耳にします。これは「らしい」「らしくない」の話ではなく、「このワインは広く認知されている個性を忠実に表している」という意味合いと理解しています。それは、「既存の概念に囚われたないワイン」の肯定を意味しているとも言えます。


1987年にこのワインを誕生させたイエルマン、未来を予見していたのでしょうか。

今回紹介したワインはこちら

ワイナリーの記念碑的作品となり、高い評価を受け続けている、ワー・ドリームス。こちらのワインは、クリーミーで濃厚なアロマと驚くほど長い余韻が魅力。まさに夢のようなひとときをもたらしてくれます。

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