テイスティングするとき「このワインは木樽由来の香りがある/ない」など話題になるものです。
今ではワイン造りで定番となった木樽。いったいどのような役割・効果があるのでしょうか。今回はそんな木樽がワインに与える影響についてご紹介します。
木樽の歴史
樽職人のことを「Cooper」と呼びます。これはラテン語の「Cuparius(容器)」に由来しており、紀元前900年にはすでに木製の樽が存在していたことがわかっています。
その大きさや素材は様々ですが世界各国で使われており、日本では酒をはじめ味噌、醤油を発酵・貯蔵するのに杉樽が使われてきました。
木樽は側板(staves)と蓋になる鏡板(head boards)板を締めているフープ(hoop)の主に3つの部分で構成されており、側板は接着剤など使わずフープの力だけで締められています。このため板と板が接する部分は精密に削られており職人技ともいえるでしょう。
余談ですが「タガが外れる」という日本語はこのフープが外れて板がばらばらになって収集がつかなくなることに由来しています。
木樽の役割
それでは木樽でワインを寝かすといったいどんな役割を期待できるのでしょうか。
代表的な効果として挙げられるものに、【1】穏やかな酸素の混入によって赤ワインの渋みがマイルドになること、【2】木樽からの成分抽出によって風味が複雑になることがあります。具体的な香りと成分名(カッコ内は芳香成分名)をご紹介します。
ヴァニラ(ヴァニリン)、ココナッツ・ミルク(ラクトン)、丁子(オイゲノール)、燻製香・焦げ臭(グアイアコール)、キャラメル(マルトール、シクロテン)、加えて渋み成分であるタンニンも抽出されます。
木樽の種類による変化
このような木樽の効果は種類によってある程度変わります。もちろん熟成するワインそのものボリューム感や骨格によっても左右されますので、あくまで目安とされてください。(同じ新樽でワインを寝かしても、ワインがしっかりしていればさほど樽香目立たなくなるので)
項目 | 比較 | |
1 | 大きさ | 大樽(1000ℓ前後)<小樽(225ℓ前後) |
2 | 新旧 | 旧樽(何年も洗って使っている樽)<新樽(おろしたての樽) |
3 | 原産地 | フレンチオーク<アメリカンオーク |
一般的に大きさによって効果が変わるのは、木樽が小さいほうが液体の接触面積が増えるからです。新旧比較なるならば、新しい木樽のほうが香り成分の含有量が豊富だからでしょう。
それでは原産地によってどのような違いが表現されるのでしょうか。ここでは代表的な産地としてアメリカとフランスをあげてみました。
フランス産vsアメリカ産
木樽の原料にはナラが使われます。中でもフランス産は主にセシルオーク(Quercus Sessilis)、アメリカ産では主にアルバオーク(Quercus Alba)が有名です。
樽内部の焼き具合にもよるので一概にはいませんが、アメリカンオークはフレンチオークと比べて年輪幅が広いため、短期間で樽成分抽出量がされます。そのため、樽由来の香りがはっきりと感じられるワインとなります。
それに対して、フランスは気候が比較的冷涼なため木がゆっくり成長し、木質に蓄積される成分の密度が高くなります。そのため、樽成分の抽出には時間がかかりますが、繊細できめ細やかな樽の香りや味わいが抽出されます。
アメリカンオークのほうが「やや派手」と考える造り手も多く、最近では減少傾向にあるようです。ただし、全くアメリカンオークの使用がなくなったわけではなく、スペインのリオハ、豪州バロッサのシラーズ、カリフォルニアのジンファンデルの造り手の一部では使われ続けているようです。
このほかにも、ハンガリー産、ロシア産、クロアチア産など様々な産地があり、ワインのイメージに合わせた樽の選定がなされています。
ロースト具合によっても変わる樽風味
上述以外でも、どれくらい樽の内部を焼くかによっても樽香は変わってきます。下記は社団法人日本ソムリエ協会の教本からの抜粋です。
ロースト具合 | ||
1 | ライト・ロースト | 軽いヴァニラ香 |
2 | ミディアム・ロースト | スパイス、ヴァニラ、ココア、チョコレート |
3 | ヘヴィ・ロースト | 煙、コーヒー、カラメル |
このように樽の大きさ、産地、新旧だけでなく、わずかなロースト具合の違いによっても、ワインに与える影響は大きく変わっていきます。そのため最近の造り手では世界中から複数の樽を取り寄せてミックスして使っている生産者もいます。
中には自社で樽工房を所有しオーダーメードで1から造っているところもあります。ただし樽職人を抱えることは経済的にかなり余裕がないとできないことで、ボルドーでは、ラフィット、マルゴー、オー・ブリオン、スミス・オー・ラフィットぐらいのようです。
最近の傾向
一昔前は「樽の香り=高級」というイメージがあったため、必要以上に樽の風味が強いワインが散見されました。しかし、最近では、果汁由来のピュアさを覆い隠すとして敬遠されるようになっているようです。
例えば、オーストラリアでは「Less Oak」という合言葉が近年叫ばれており、新樽比率(ワイン全体に対して何%新樽を使うかのこと)を下げて寝かす傾向にあります。ボルドーでも「Non-toasted head」といって鏡板を焼かない造り手が増えています。
飲み手の私たちも、樽香が強いか弱いかでワインの品質を決めるのではなく、果汁との樽香との融合性を見極める能力が求められそうです。