ニースやカンヌなどヨーロッパ屈指のリゾート地を有する南フランスのプロヴァンス地方。紀元前からワイン造りが行われてきたフランス最古のワイン産地の一つであり、現在はロゼワインの産地として知られています。
一方で、プロヴァンス地方で造られるワインは、そのほとんどが世界中から訪れる多くの観光客によって地元で消費されてしまうこともあり、日本ではあまり多くの種類を見かけません。ロゼワインしか生産していない産地と思っている方も多いのでは?
そこで今回はプロヴァンス地方で造られるワインについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
プロヴァンスのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
気候と風土
プロヴァンス地方はフランス南東部に位置し、地中海沿岸の地域。映画祭で有名なカンヌ、ビーチ沿いに高級ホテルが立ち並ぶニース、フランス最大の港湾都市マルセイユなど、観光地として人気です。
南に地中海を望むプロヴァンス地方は、典型的な地中海性気候で夏は暑く乾燥していますが、ミストラルと呼ばれる強く冷たい風が吹き抜けていくためいくぶん暑さが和らげられます。
乾燥した気候のおかげで湿気に由来する病害も少なく、プロヴァンス地方の認証済み有機農法の畑は全体の24%と、フランスのワイン産地の中でも高い数値を誇ります。
土壌は大きく分けて二つに分けられ、西部から北部は石灰岩土壌、海に面した東部は結晶化した岩石やシスト(結晶片岩)からなっています。全体的に水はけが良い痩せた土壌であることも病害が少ない要因の一つです。
そんなプロヴァンス地方で造られる約90%がロゼワインで、2022年には1億5700万本のAOC認定のロゼワインが生産され、フランス国内のロゼワイン生産の38%、世界の4.2%を占めました。どれだけロゼワインの一大産地であるかが分かります。
ワイン産地としてのプロヴァンス地方は非常に広大なため、造られるロゼワインにも地域による違いはありますが、一般的にフレッシュな辛口で早飲みタイプが主流。
また、ロゼワインが有名ではありますが、長期熟成にも耐えうる高品質な赤ワインや白ワインなども造られています。
栽培されている主なブドウ品種
ロゼワインの一大産地であるプロヴァンス地方ではどんなブドウ品種が栽培されているのでしょうか。
サンソー
プロヴァンス地方のロゼワインの主要品種。風味豊かなサンソーは古くから食用ブドウとしても栽培されていました。
サンソーは果皮が薄いためタンニンが少なく、しっかりとした酸が特徴で、造られるワインはラズベリーやザクロなどのフレッシュな果実の香りがします。
赤ワインのブレンドにも用いられ、酸味と赤系果実の香りをもたらす役割があります。
グルナッシュ
グルナッシュはスペイン原産の品種ですが、プロヴァンス地方でも広く栽培されておりサンソーと同様、ロゼワインの主要品種です。
グルナッシュをブレンドすることでワインにコクや力強さをもたらします。
若いワインにはベリーのエレガントなニュアンスを、より熟成したワインにはスパイシーで肉付きの良いニュアンスを与えます。
シラー
ロゼワイン用、赤ワイン用として栽培されるシラー。
濃密で深い色合いのワインを生み出すため、色味が薄く出やすいブドウ品種とのブレンドなどに用いられることもあります。
プロヴァンス地方のシラーは、力強くフルボディでありながらも、繊細で滑らかなタンニンと豊かなフルーツの風味が特徴です。熟成させることで、バニラやスパイスのニュアンスが増し、複雑味が加わります。
ロール(ヴェルメンティーノ)
プロヴァンス地方で造られる白ワインの代表品種がロール。イタリアでヴェルメンティーノと呼ばれる白ブドウ品種です。
ロールはプロヴァンス地方で古くから栽培されており、広く普及しています。熟すのが遅く、温暖な気候が必要ですが、このような品種の特徴がプロヴァンスの気候条件とマッチしているのです。
シトラスフルーツ、洋梨などのフルーティーな香りのワインが仕上がります。
ソムリエ解説!プロヴァンスのワイン造りの特徴って?
プロヴァンス地方は南フランスの地中海沿岸エリアに広がり、暖かい地中海性気候に適した様々なブドウ品種が存在しています。比較的乾燥したエリアで有機栽培もしやすく、内陸部と比較して寒暖差も大きくなく、豊富な日照量によってブドウがよく熟し、酸味は穏やかになりやすい傾向があります。 このような環境の中、多くの種類のブドウが育ち、それぞれの持ち味を活かすためにブレンドをして個性を生み出すのがこのエリアのワイン造りの特徴です。海の幸や南仏野菜によく合うロゼワインを多く生み出す産地としても世界的に注目されています。
有名産地
プロヴァンス地方の主な生産地と田邉さんおすすめワインをご紹介いたします。
コート・ド・プロヴァンス
コート・ド・プロヴァンスはプロヴァンス地方最大のAOCで、面積は約20,000haに及びます。この地で造られる約90%がロゼワインです。
面積の広さから様々な気候条件が当てはまり、さらに地質も多様であることから、多彩なワインが造られます。
赤とロゼワインの主要品種はサンソー、グルナッシュ、ムールヴェードル、シラーなど。補助品種としてカベルネ・ソーヴィニヨンやカリニャンも認められています。
赤とロゼワインの醸造では2品種以上をブレンドすること、主要品種を必ず一つは含むこと、主要品種の合計が全体の50%以上を占めることが定められています。
白ワインはロールやクレレットの使用が認められています。
田邉さんおすすめワイン バイ・オット・ロゼ / ドメーヌ・オット★
日本においても長年にわたって人気の生産者で、この地方屈指のロゼの造り手の一つがこのドメーヌ・オット★です。 こちらは近年注目されているセカンドラベル的存在の1本。ピンクグレープフルーツやクランベリー、貝殻のアロマ、フレッシュ&フルーティーでドライな味わいが、新鮮なシーフード料理ととてもよく合います。
田邉さんおすすめワイン ウィスパリング・エンジェル / シャトー・デスクラン
日本のレストランにおいても長年にわたってワインリストにその存在を輝かせ、 多くのソムリエやジャーナリスト、ワインラヴァーから注目され続けている生産者。 「プロヴァンス ロゼ」のクオリティの高さを世界に広めたきっかけとなったワインの一つと言っても過言ではないのが、この「ウィスパリング・エンジェル」です。爽やかな香りと味わいの中に奥行きを感じます。
2022年
3,410 円
(税込)
※在庫切れの際はご了承くださいませ。
田邉さんおすすめワイン ブラン・ド・ブラン・クロ・ミレイユ / ドメーヌ・オット★
ドメーヌ・オット★は、プロヴァンスにおけるロゼワインの品質を飛躍的に向上させた第一人者として知られ、日本においても長年にわたって人気の生産者で、その名は業界の中でも広く知られています。 この白ワインは、海のテロワールの影響を充分に受けており、柑橘フルーツのアロマに加えて、貝殻や潮風の香りが感じられます。味わいにも心地よい塩味があり、魚介類を使ったお料理との相性は抜群です。
※在庫切れの際はご了承くださいませ。
バンドール
地中海沿いのバンドールを中心に八つの村からなるA.O.C.で、1941年に認定されました。生産量のおよそ7割がロゼワインですが、ムールヴェードルを主体とした力強く、長期熟成も可能な赤ワインが有名です。
丘陵地帯に囲まれたこの地域一帯は、レスタンクと呼ばれるテラス状の段々畑が広がっており、石灰質を多く含む痩せた土壌でブドウが栽培されています。典型的な地中海性気候で夏は暑く乾燥し、南向きの斜面は年間3,000時間にも及ぶ日照時間をもたらします。
そのため、しっかりと熟したブドウからフルボディの赤ワインが、また白ワインやロゼワインも飲みごたえのあるものが造られています。
バンドールで造られる赤ワイン
カシス
カシスは1936年、ソーテルヌ、シャトーヌフ・デュ・パプとともにフランスで最初に認定されたAOCで、マルセイユの東に位置する地中海に面したカシスの町のみに認められています。赤、白、ロゼが生産されていますが、この地方では珍しく白ワインの比率が高く、全体の67%を占めています。
バンドール同様に段々畑のレスタンクが広がっており、海からの微風が絶えず吹き、夏の暑さを和らげるとともに、潮風の影響からミネラル感のあるワインが生まれています。
クレレットとマルサンヌ主体で造られるカシスの白ワインはしっかりとしたボディの辛口で、この地方の郷土料理ブイヤベースなど、魚料理と最高の相性をみせます。
プロヴァンスのワイン豆知識
プロヴァンスのワインをさらに楽しむための豆知識をご紹介いたします。
ソムリエ解説!どんな飲み方がおすすめ?
プロヴァンスのロゼや白ワインは、フレッシュで爽やか、フルーティーでドライなスタイルが主流で、8〜10度程度によく冷やして、小ぶりのスリムなグラスに注いで、持ち味のフレッシュ感を生かすのがおすすめの飲み方です。 それに対して、赤ワインは主に、果実味豊かでタンニンとボディのしっかりとしたタイプが多く造られており、飲用温度はやや高めの17〜20度で、大きめのボルドーグラスに注いで飲んでいただくのがおすすめです。 基本的にデキャンタージュは必要ありませんが、ハイクラスのものをいただく際は、香りを開かせる目的でのデキャンタージュをすると、より美味しく召し上がっていただけるでしょう。
プロヴァンスのワインにピッタリの料理
ロゼワイン以外にも白ワインや赤ワインが造られるプロヴァンス地方。ピッタリな料理や食材、ペアリングのコツを田邉さんにお聞きしました。
ソムリエ解説!ロゼワインにあう料理は?
ロゼワインと料理のペアリングでは、特に「色調」を意識することが大切です。ロゼワインは特にその色調が多くの人の目を惹き、心理的影響も大きく、食材の色素との親和性が高く、色を合わせることで、香りや味わいの相性の良さが高まりやすくなります。 例えば地中海沿岸エリアの野菜としても有名なトマトや赤パプリカを使用したラタトゥイユ、トマトソースの冷製カッペリーニ、ツナやオレンジを使ったサラダは、色調、風味、味わいの強さ等、さまざまな観点から、その相性の良さを実感できる組み合わせです。
ソムリエ解説!白ワインにあう料理は?
プロヴァンスの白ワインは、フレッシュな柑橘フルーツやリンゴ、スイカズラや菩提樹等のフローラルなアロマに加えて、貝殻や潮のニュアンス等、海のテロワールを感じ、味わいは生き生きとした果実の味わいと酸味のバランスの取れたドライなタイプが主流。 こちらに相性の良い料理としておすすめしたいのが、タコのカルパッチョです。オリーブオイルをたっぷりとかけて、レモンを搾り、セルフィーユを添えることで、タコの繊細な旨味と海のニュアンス、レモンの風味と酸味、ほのかなハーブの香りが、ワインの個性としっかりと重なり、双方の味わいがより一層引き立ちます。
ソムリエ解説!赤ワインにあう料理は?
プロヴァンスの赤ワインに使用されるブドウ品種として有名なのがムールヴェードルとグルナッシュ。これらから造られる赤ワインは、熟したベリーフルーツやナツメグやクローヴ等のスパイス香、ブラックオリーブ等のアロマが感じられ、果実味とタンニンが豊かで、ボディのしっかりとしたタイプとなります。 こちらに相性の良い料理としておすすめしたいのが、スパイスでマリネした仔羊のグリルにナスやパプリカのソテーとブラックオリーブを添えた一皿。仔羊の独特の風味にマッチしながら肉の旨味を引き出し、スパイスや野菜の風味とワインのフレーヴァーが調和し、より豊かな味わいを楽しめます。
まとめ
プロヴァンスのワインは、その美しい風景と豊かなテロワールから生まれる魅力がたっぷり詰まっています。地中海の温暖な気候と多様な地質が育むブドウから造られるワインは、果実の豊かな香りと華やかな風味が特徴です。
特にロゼワインはプロヴァンスの象徴であり、軽やかでフルーティーな味わいは夏にピッタリです。
プロヴァンスのワインは、その土地の豊かな歴史と伝統を感じさせ、食事との調和も楽しめます。一度味わえば、その虜になること間違いありません。
プロヴァンスのワイン一覧