赤ワインの場合、“渋みが強い”とか“穏やかな渋み”とか、とりわけ渋みについて語られることが多くあります。
ワインの中には数多くの成分が含有されていますが、渋みに関与しているのが「タンニン」という成分です。
赤ワインや一部の白ワインにとって、タンニンはとても重要な存在であり、渋みだけでなく様々な風味の形成に寄与しています。ここでは、タンニンについて解説していきましょう。
タンニンとは?
ワインと切っても切れない関係の化学成分が、ポリフェノールです。タンニンは、そのポリフェノール(フラバノール)の一種であり、ワイン中の様々な成分と結合して複合体をつくります。
タンニンには、ブドウ由来の縮合型と樽由来の加水分解型の二つがありますが、主にワインに影響を与えるのは前者のブドウ由来の縮合型タンニンです。
赤ワインの風味や色、さらに熟成など、様々な要因に関与する重要な成分として知られています。
タンニンの由来
タンニンは古くから動物の皮をなめし、革に変化させるために使用されている物質であり、多種多様な植物の樹皮や葉、成熟途中の果実などに含まれています。
タンニンは多くの植物ほか、未成熟のブドウ中にも多く含まれており、非常に強い苦みを呈するため、外敵からの襲撃に備える防御の役割を担っていると考えられています。
試しに、ブドウを一粒皮付きでかじってみてください。果皮、種子に多くタンニンが含まれているため、それらを歯ですり潰した時、口内で強い渋みを感じるはずです。
赤ワインの場合、果皮と果実、種子が一緒に醸されるため、ブドウ由来のタンニンがワイン中に移行し、苦みを感じるのです(一部、スキンコンタクトを経た白ワインには微量のタンニンが含まれています)。
タンニンの働き
ブドウ由来のタンニンは赤ワインには欠かせない成分でとても重要な働きをしています。ここからは、タンニンがワインにどのような影響を与えるか解説していきます。
赤ワインの“赤色”を安定させる
まず、黒ブドウなどの果皮に多く含まれるポリフェノールの一種アントシアニンは、赤色のブドウや黒色のブドウの色のもととなる、フェノール化合物です。
前述したように赤ワインは果皮も一緒に醸されるため、このアントシアニンも液中に移行します。
このアントシアニンはワイン中の様々な成分と結合しますが、特に重要なのが、“タンニン”との結合です。タンニンがこのアントシアニンと結合すると、もともと結合されていない状態のアントシアニン量よりも含有量が多くなります。
アントシアニンはいろいろな成分と結合しやすく、安定しませんが、タンニンと結合したこの成分は酸化(空気中の酸素に触れる)されにくい性質を持っているため、結果的にワインの色合いが安定します。
よく「樽熟成により、色合いが安定します」と耳にすることがあるかもしれませんが、これはタンニンの働きによるものなのです。
ボディに寄与している
ワインは「ライトボディ」「ミディアムボディ」「フルボディ」といったように、ボリューム感でカテゴリされています。
諸説ありますが、このボディを決める要因にはタンニンが関与していると考えられています。
タンニンが豊富ということは、そのワインはポリフェノールの含有量が多いはずです。ポリフェノールは様々な成分と結合して複雑な風味をつくり出す上、豊富なタンニンによって骨格がしっかりとし、口内で“重たさ(充実度)”を感じます。
ボディには、アルコール度数や旨味成分、グリセロールなどの甘みなど、様々な要因が関与していると考えられますが、やはりライトボディに比べれば、ミディアムボディ、ミディアムボディに比べればフルボディ、といったように、ボリューム感のあるワインがタンニン豊富な傾向にあるのです。
ボディについて詳しく知る
熟成に重要な存在
タンニンの重要な働きの一つに「ワインの熟成」があります。
前述したように、タンニンはポリフェノールの一種であり、このポリフェノール量が多いワインは長持ちする(抗酸化作用などが理由)と言われています。
そのためタンニンの量が豊富な品種であるカベルネ・ソーヴィニョンやネッビオーロ、テンプラニーリョ、タナといった黒ブドウは、長期熟成に向いています。
ただし、ピノ・ノワールなどの、タンニン量が少ない品種が熟成に不向きというわけではありません。
豊富な酸やアルコール量、その他ポリフェノール含有量のバランスによっても変わってくるため、一概にタンニン量で熟成期間が決まるものではありません。
タンニンがまろやかになる理由
ワインの渋みの主成分はタンニンです。
それについて詳しくは後述しますが、“ワインを熟成させると、味わいがまろやかになる”と聞いて、不思議に思ったことはないでしょうか。
例えば、カベルネ・ソーヴィニョンの若いワインなどは、「渋くて飲めない」とか「まだ早いね」などと評価されます。
こんなに渋かったワインが、なぜまろやかになるのでしょうか?
実は、この作用にはタンニンが大きく関係しています。
タンニンはワイン中の様々な成分と重合する性質を持っており、時間の経過とともに、苦みを感じる低分子から渋みを感じさせる高分子へと変化していきます。
つまり、もともと苦かったタンニンがワイン中の成分と化学的に繋がっていき、徐々に渋くなっていくということです。
その後、タンニンは一定の重合度を渋みのピークとし、徐々にまろやかになっていきます。一般的に酸素があまりない状態で熟成させると、タンニンは重合し過ぎて沈殿してしまい、ワインのボディ感が損なわれる恐れがあります。
高級ワインを含め、多くの赤ワインは樽で熟成されていますが、樽熟成程度の酸素がある場合、タンニンは不規則に重合し、沈殿の要因となるタンパク質と反応できない構造になります。
つまり、どんなにタンニン量が多いワインであっても、樽熟成による化学反応を経た場合、ワイン中に“まろやかなタンニン”が残存し、口当たりが良くなるわけです。
タンニンの渋みと表現
冒頭から、“タンニンは渋い”とお伝えしていますが、これは“味”ではなく口内の触覚として探知されています。
唾液タンパク質がタンニンと結合して沈殿物をつくるほか、ムチンと呼ばれる口内の潤滑油のような役割を持つ潤滑層を取り除きます。
このため、口に含むと乾いたような感覚になり、私たちはそれを渋みとして認識している、ということになるのです。
ちなみに、タンニンで感じられる渋みは「収れん性」と表現されますが、ワインテイスティングでは、その度合いに合わせた用語が用意されています。
「刺すような」、「粗い」、「ザラついた」などタンニンの強烈さを表現するような言葉から「ビロードのような」、「緻密」、「シルキーな」など、こなれた触覚になってきた時に使う言葉など様々です。
香りや風味と違い、触覚ですので比較的ワイン初心者でも分かりやすい部分かもしれません。
タンニンと調理
調理用に赤ワインを使うこともあるでしょう。実は、赤ワインに含まれるタンニンは幅広い調理効果をもたらすことが分かっています。
まず、肉を加熱調理前に赤ワインにつけ込むと、肉表面のタンパク質とタンニンが反応し、肉汁の放出を抑えることができます。
また、生臭みの抑制、コクや風味の付与にも寄与します。ちなみに、「赤ワインには肉料理」と言われていますが、タンニンはタンパク質と結合する性質があったり、口内に残った肉の脂分を取り去ってくれる働きがあるから、などと言われています。
香りや風味だけでなく、味の無いタンニンもマリアージュに関連している、というのが面白いところです。
まとめ
ワイン中のタンニンと聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、お茶のカテキンやコーヒー、紅茶などにも多く含まれている身近な成分です。
また、数あるワインの健康効果を調査した研究では、このタンニンが重要な役割を担っていることが示唆されています。このように、タンニンはワインと切っても切れない重要な成分と言えるでしょう。