「ワインは酸化防止剤(亜硫酸)が入っているので悪酔いする。」「二日酔いでひどい頭痛になる。」「酸化防止剤無添加ワインは頭が痛くならない。」など、一般消費者の方からそんな話をよく聞きます。
確かに亜「硫酸」という言葉は人体に有害なものを連想させます。そもそも亜硫酸とは何なのか。亜硫酸が与えるワインと人体への影響をご説明します。
酸化防止剤(亜硫酸塩)とは?
亜硫酸(SO2または二酸化硫黄とも表記)は酸化した硫黄(SO2)が水に溶けている状態で、簡単に言ってしまえば形を変えた硫黄です。
硫黄は火山など自然界に存在する物質で、数千年前の古代エジプトやローマ時代からワイン造りに利用されていたと言われているワインと非常に関わりの深いものです。
亜硫酸を使うことのメリットは主に2つあります。
酸化防止効果
酸化防止剤と表記される所以です。亜硫酸はとても酸化しやすく、他の成分に先立って酸素と結合することによりワインの酸化を防いでくれます。さらにアルコールが酸化した結果生まれるアセトアルデヒドと結合するなど、すでに酸化した状態からも回復してくれます。
殺菌効果
古代から現代まで変わらず使用されている用途です。樽などの醸造器具の殺菌に利用したり、不潔な香りを生み出す悪玉酵母や雑菌の繁殖を防ぐために添加するなど、醸造中の細菌管理に利用されています。
このように亜硫酸は酸化や細菌汚染の予防と治療をしてくれるワインにとっての薬のような存在。ワイン醸造とは切っても切れない関係と言えるでしょう。
しかしむやみに使用しすぎると、脱色作用があるのでワインの色が薄くなる、亜硫酸の風味のために果実味がなくなるなどデメリットもあります。
そのため現代のワイン醸造家は亜硫酸の使用量をいかに減らすかが腕の見せ所なのです。
頭痛の原因?人体への影響
ワインにとっては良いことだらけの亜硫酸ですが、人体への影響はどうでしょうか。
まず前提としてですが、亜硫酸≒硫黄は高濃度で体内に入れば人体に有害であることは間違いありません。しかし、ワインに含まれる亜硫酸は他の食品と比較しても低濃度。ほとんどの人にとって影響があるレベルではないと言えるでしょう。
一方で、アレルギーの方や重度の喘息患者は低濃度でも発作を引き起こす可能性があり、ワインの摂取を止める医師もいるそうです。喘息の方は気を付けましょう。
では頭痛の原因はなんなのでしょうか?
これまで、ワインを飲んで頭痛になるのは酸化防止剤(亜硫酸)が原因という説がありましたが、近年ではワインに含まれる「ヒスタミン」や「チラミン」などの生体アミンが頭痛の主な原因であると考えられています。ヒスタミンは血管を拡張させる作用を持ち、一方のチラミンは血管を収縮させる作用を持っていて、片頭痛の原因となることがあります。
これらは赤ワインと一部の白ワインの製造過程で発生する物質です。したがって白ワインを飲んでも頭痛はしないのに、赤ワインを飲むと頭痛がするという方の場合には、この生体アミンによる影響を受けている可能性があるのです。
もちろん、頭痛の原因はこの生体アミンだけでなく、単なる飲みすぎやその日の体調にもよるので一概には言えませんが、頭痛の原因=亜硫酸と思っていた方は、認識を改めても良いかもしれません。
食品とワインの基準値
下記表は厚生省が定める食品別の亜硫酸の上限量です。この上限量は無害化した亜硫酸も含む、総亜硫酸量について規定されています。
食品 | 亜硫酸の上限量 |
---|---|
かんぴょう | 5.0g / kg未満 |
乾燥果実(干しぶどうを除く) | 2.0g / kg未満 |
干しぶどう | 1.5g / kg未満 |
乾燥じゃがいも、ゼラチン、ディジョンマスタード | 0.50g / kg未満 |
雑酒、果実酒(ワインはここに含まれる) | 0.35g / kg未満 |
天然果汁(5倍以上に希釈して飲用に供するもの) | 0.15g / kg未満 |
参考:公益財団法人 日本食品化学研究振興財団「各添加物の使用基準及び保存基準(令和元年6月6日改正まで記載)」
ワインに含まれる亜硫酸の約半分が他成分と結合し無害な状態になるため、人体に影響する量は添加量より少なくなります。
こちらはEUワイン法です。甘口ワインの上限量が緩和されているのは、前述のとおり亜硫酸と甘口ワインに含まれる糖分が結合して無効化されてしまうからです。
ワインの種類 | 最大含有量(EU規定) |
---|---|
辛口赤ワイン | 150mg / L |
辛口白・ロゼワイン | 200mg / L |
残糖分5g / L以上の赤ワイン | 200mg / L |
残糖分5g / L以上の白ワイン | 250mg / L |
中甘口ワイン | 300mg / L |
甘口ワイン | 350mg / L |
極甘口ワイン | 400mg / L |
参考:『2018 ソムリエ協会教本』一般社団法人日本ソムリエ協会
なお、ワインに含まれる亜硫酸はボトリング後も時間の経過、すなわち熟成に伴い徐々に減少していきます。
オーガニックワインは身体にいい?
そうは言われても、どうしても亜硫酸が気になる!という方には有機栽培の認定機関の認証を得ているワインがオススメ。
Nature et ProgrèsやDemeterといった有機栽培認証機関はワインの醸造方法にまで厳しい規定を定めており、総亜硫酸量もEU規定より遥かに低く設定しているので含有量が少ないことが保障されます。
また2012年に制定されたEUのOrganic Wine表記基準を満たしているワインであれば、辛口赤ワインで100mg / L、辛口白ワインで150mg / L以下と、その他ワインについても通常のEUワインよりも25%~35%低い基準をクリアしています。上図のEuro leafがその基準をクリアしている認証です。
現在、世界のファインワイン業界は、ワインの品質を高めることを目的としてオーガニック認証の有無に関わらず亜硫酸を極力減らす方向に進んでいますが、数値的な保障がほしい方はこういった認証を得ているワインを選びましょう。
一方でマーケティング的な観点からこういった認証を得ることが目的になってしまい、醸造中に亜硫酸を添加しない為に悪玉酵母に汚染された欠陥ワインや頭痛の原因となる生体アミンを多く含んだワインも出回っている点には注意が必要です。
酸化防止剤無添加ワインは存在しない!?
亜硫酸は添加せずとも、酵母がアルコール発酵する過程で副産物として10mg / L前後はワイン中に生成されます。
ところがワインの亜硫酸表示義務は10mg / L以上から。つまり亜硫酸が添加物として記載されていない、自然なワインはほぼ存在しないということになります。
例えばこちらのワインは製造過程で亜硫酸を添加していませんが、バックラベルには添加物として亜硫酸を記載しています。
そこで気になるのが、バックラベルの成分表を見ても亜硫酸は記載されていない、酸化防止剤無添加を謳うワインです。
製法はメーカーや商品によって様々なようですが、これらのワインはぶどう果汁の加熱殺菌処理やろ過、亜硫酸生成量の少ない培養酵母の使用、人工的な亜硫酸除去などの手法を用いて10mg / L以下という表示基準値以下での販売を可能にしています。
添加物の少ない「自然な」ワインを求めた結果、様々な「科学的な」プロセスを経たワインに行き着くというのは少し皮肉ですね。
まとめ
酸化防止剤(亜硫酸)が使用されている食品は身近にあふれていますし、より危険性が高いと言われている食品添加物も多数あります。
極力そういったものを避けた生活をしている方は酸化防止剤無添加ワインやオーガニックワインという選択肢もありますが、ワインだけを気にしているのであれば考えを改めてもいいかもしれません。
正しい情報をもとに、自分のワインライフを選びましょう。