スペインはフランス、イタリアとともに、ヨーロッパの3大ワイン生産国の一つであり、ワイン造りにおいて古い歴史を持ちます。
ほぼ全土でワインが造られており、日本でも人気のカヴァやシェリーなど、スタイルも様々です。そんなスペインで造られるワインについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
スペインのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
気候と風土
スペインの地理的条件は、ブドウ栽培に非常に適しており、世界最大のブドウ栽培面積を誇ります。
ヨーロッパの中でも山脈が多い地域で、国土の平均標高は660mと高く、ブドウにとって太陽光がより降り注ぐ最高の立地となっています。
スペインの気候として日照時間が長く、降水量が少ないことが挙げられますが、その特徴は産地によって様々。北西部の大西洋岸にあるガリシア地方のように年間降水量が1,500㎜という地域もあれば、南東部の地中海沿岸のムルシア地方のように200~300㎜と少ない乾燥した地域もあります。また、北東部の地中海沿岸のカタルーニャ州などは比較的穏やかな気候ですが、内陸部は寒暖差が大きく乾燥した大陸性気候のように、気候条件は大きく異なります。これは多くの山脈や海に囲まれた立地によるものです。
ワイン造りの歴史も長く、スペインが位置するイベリア半島では紀元前3000年頃からブドウの栽培が行われていました。本格的なワイン造りは紀元前1000年頃、フェニキア人の商人が東地中海から技術を伝えたことで始まりました。
栽培されている主なブドウ品種
スペインではスペイン固有のブドウ品種が多く栽培されており、中でもテンプラニーリョが有名です。他にもスペインを代表するブドウ品種についてご説明します。
テンプラニーリョ
テンプラニーリョはスペインを代表するブドウ品種です。スペインで最も栽培されているブドウ品種で全体の栽培面積の約2割を占めます。
豊かな果実味が特徴で、適度な酸味としっかりとしたタンニンを持ちます。若いワインではフルーティーな香りが中心ですが、樽熟成を経ることでバニラやスパイスなどの複雑な香りが加わります。
テンプラニーリョはスペイン・リオハでの呼び名で、同じスペイン内でもセンシベル、ティント・フィノなど呼び名が変わります。
田邉さんおすすめワイン アルトス・イベリコス・レゼルヴァ / トーレス
日本においても早くから人気のワイナリーとなり、「世界で最も称賛されるワインブランド」にも選ばれた経歴を持つスペインの名門トーレス。こちらのワインは、リオハならではの個性と魅力を体感いただける1本。 長期熟成由来の複雑なアロマと豊潤な果実の味わいをお楽しみいただけます。豚の角煮や牛肉の煮込み系のお料理との相性も抜群です。
ガルナッチャ
スペインで、2番目に多く栽培されている黒ブドウ品種がガルナッチャ。
原産地である北東部・アラゴン州をはじめ、ピレネー山脈の南に位置するナバーラ州やカタルーニャ州など、日照時間が長く降水量の少ない乾燥した地域で主に栽培されています。
ラズベリーやイチゴなど赤い果実の風味が豊かで、若干スパイシーなニュアンスも感じられます。赤ワインのほか、ロゼワインの原料にも使用されることの多い品種です。
田邉さんおすすめワイン ヴィーニャ・エスメラルダ ロゼ / トーレス
国内外で高い人気を誇る名門ワイナリー「トーレス」が生み出す優雅なロゼワイン。夕焼けのような色調が映えるこちらのロゼは、スペイン原産の土着品種ガルナッチャを100%使用して造られ、この土地ならではのスタイルを楽しめます。 スペイン産の生ハムはもちろん、中華料理との相性も良いフードフレンドリーなロゼです。
アルバリーニョ
1980年代後半から注目されるようになったアルバリーニョ。スペインの北西部で主に栽培されており、リアス・バイシャス産ワインの成功により人気が高まっています。
爽やかな酸味とミネラル感が特徴的な白ワインに仕上がります。その味わいからシーフードとの相性が抜群です。
おすすめワイン
ヴェルデホ
白ワイン用のブドウ品種で、主にルエダで栽培されています。この品種は、フレッシュでアロマティックな白ワインを生み出します。
ルエダで造られるヴェルデホを使ったワインには、ソーヴィニヨン・ブランとのブレンドも多いです。
おすすめワイン
2023年
1,980 円
(税込)
ソムリエ解説!スペインのワイン造りの特徴って?
スペインを代表するブドウ品種として知られているのが、全品種の中でも国内栽培面積第1位を誇っているテンプラニーリョです。スペイン屈指の赤ワインの産地として知られるリオハやリベラ・デル・ドゥエロの代表的な赤ワインの多くがこの品種を主体として造られており、伝統的にアメリカンオーク樽を使用して長期間の熟成を経てからリリースされるのが大きな特徴です。 一方で、ガルナッチャを主体とした果実味あふれる赤ワインにも定評があります。さらには、カタルーニャ州をメイン産地とするシャンパーニュ方式のスパークリングワイン、カヴァも世界的な人気を誇っています。
有名産地
ほぼ全土でワインが造られているスペインの中から、特に知っておくべき産地をご紹介します。
リオハ
フランスの南部に位置する北部地方のリオハは、中心部にあるスペインの首都マドリードから北北東に約250kmの場所にあります。1991年にはスペインで初めての特選原産地呼称であるD.O.Ca.を獲得しました。
鉄分を含む粘土質土壌から高級な長期熟成向きワインを生み出すRioja Alta(リオハ・アルタ)、粘土質と石灰質の土壌から果実味が豊かな若飲みや熟成向きのワインを生み出すRioja Alavesa(リオハ・アラベサ)、そして、乾燥した気候でアルコール度数の高い赤ワインとロゼワインを生み出すRioja Oriental(リオハ・オリエンタル)の3つのサブゾーンがあります。主要品種は、テンプラリーニョ、ガルナッチャ、ビウラ、マルヴァジアなどです。
リベラ・デル・ドゥエロ
リオハと並び、スペイン最高級の赤ワインが造られる産地として知られるリベラ・デル・ドゥエロ。
「ドゥエロ河の川岸」という意味の名の通り、ドゥエロ河流域に沿って、この地ではティント・フィノと呼ばれるテンプラニーリョを中心に栽培されています。
造られるワインは複雑で凝縮したスタイルが特徴です。
プリオラート
2009年、リオハに次ぐスペインで2番目となる特選原産地呼称(D.O.Ca)に認定されたのがプリオラートです。
1980年代後半に、新しいワイン造りに情熱を傾ける醸造家たちが、土着品種のカリニェナとガルナッチャを活かしたワインを生み出し、注目を集めました。
リコレーリャ(カタルーニャ語でスレート)と呼ばれる栄養分が少ない土壌が特徴的で、ブドウの根が水分や養分を求めて深く伸びることで凝縮したブドウに仕上がります。
リアス・バイシャス
リアス・バイシャスはスペイン北西部ガリシア地方にある大西洋沿岸のワイン産地。この地で造られるアルバリーニョのワインが世界的に注目を集めています。
1988年に設立された比較的新しい原産地呼称ですが、アルバリーニョの注目とともに広がっていきました。
海岸近くで造られるアルバリーニョの白ワインはフレッシュでキレがあり、塩味を感じる味わいが特徴です。“海のワイン”とも呼ばれます。
有名ワイン
スペインを代表するワインとして有名なカヴァとシェリーについてご説明します。
カヴァ
カヴァとはシャンパンと同じ伝統的製法で造られる、スペイン産のスパークリングワイン。生産地はカタルーニャをはじめとしてリオハ、アラゴン、ナバーラ、ヴァレンシア、バスクなど、気候や風土の違う多様な地域に3万ha以上の畑が拡がっています。
中でも生産量のおよそ95%は、フレシネとコドーニュという2大生産者が本拠を構えているサン・サドゥルニ・ダノイアという村があるカタルーニャで生産されています。
カヴァの使用に認められているブドウ品種は、9種類。白ブドウではマカブー、チャレッロ、パレリャーダ、シャルドネ、スビラ・パレン、黒ブドウではガルナッチャ、モナストレル、トレパット、ピノ・ノワールです。その中でも、主要な品種がマカブー、チャレッロ、パレリャーダの3種類。マカブーはフルーティーな味わいと爽やかさを、チャレッロは力強さと酸味を、パレリャーダはアロマティックでデリケートな味わいをワインにもたらします。
おすすめワイン
シェリー
スペイン・アンダルシア地方のヘレス周辺で造られる酒精強化ワイン、シェリー。イベリア半島最南端のカディス県ヘレス・デ・ラ・フロンテラ、サンルーカル・デ・バラメダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアの3つの町で熟成されたものだけが、原産地呼称「シェリー」を名乗ることができます。
一言でシェリーといっても辛口ワイン、天然甘口ワイン、これらをブレンドした甘口ワインの3カテゴリーがあり、その多様性が魅力の一つです。
田邉さんおすすめワイン アルマセニスタ マンサニーリャ・パサダ・デ・サンルカール 1/80
エミリオ・ルスタウは酒精強化ワインメーカーの最優秀賞を7年連続で受賞する名門中の名門。世界三大酒精強化ワインであるシェリーの中でも、特に高い人気を誇る銘柄の一つとして、日本でも古くから知られています。 マンサリーニャは潮のアロマと風味を感じるドライなタイプで、特にシーフードとの相性は抜群です。
※在庫切れの際はご了承くださいませ。
スペインワインの豆知識
スペインワインの豆知識を田邉さんに聞いてみました!
ソムリエ解説!スペインワインの「当たり年」って?
近年においては2016年、少しさかのぼると2010年がスペイン、特にリオハやリベラ・デル・ドゥエロ、プリオラートにおけるグレートヴィンテージと言われています。 ワインにおけるヴィンテージの良し悪しは、気候に大きく左右されますが、晴天によるブドウの成熟としっかりとした寒暖差による風味の発展、酸の生成等が上手く進んだ年は、ワインにとって良いブドウが収穫できます。そしてもう一つ重要なことは、ブドウの成熟がピークに達する秋の収穫のタイミングで雨が降らないことです。収穫期と降雨が重なってしまった場合、ブドウが水分を吸い上げることで風味が一気に薄まってしまうことになります。 この点においてスペインは、ボルドーのような海洋性気候のエリアと比べて一般的に降雨量が少なく、日照量も豊富で有利な環境と言えます。
ソムリエ解説!どんな飲み方がおすすめ?
スペインの赤ワインは、大きく分けてテンプラニーリョ主体のものと、ガルナッチャを主体としたタイプが存在しますが、前者は小樽での長期熟成を経たボルドースタイルのワインが造られており、グラスはまさに「ボルドー型」と一般的に呼ばれる、口の部分が比較的広い形状のやや大きめのグラスを使用するのがおすすめです。 ガルナッチャを主体にした赤ワインは赤系の果実のニュアンスを感じるものもあり、タンニンも緻密で、こちらは多くの場合「ブルゴーニュ型」のグラスをおすすめします。 飲用温度に関しては、熟成由来の複雑なアロマやボディのある味わいを活かすために、やや高めの18~20度程度が理想的です。 スパークリングワインは爽やかなタイプが主流で、スリムなフルートグラスで、6〜9度程度までしっかりと冷やして飲むのがおすすめです。
ソムリエ解説!選び方のポイントは?
スペインのワインの中から好みのワインを選ぶ時の大きなポイントが、熟成表示である「クリアンサ」「レゼルヴァ」「グラン・レゼルヴァ」の分類を理解し、意識することです。 こちらは日本では主に赤ワインのボトルに表示されているのをよく見かけますが、クリアンサは樽と瓶内での熟成が少なくとも2年以上、レゼルヴァは同3年以上、グラン・レゼルヴァはトータル5年以上の熟成を経てからリリースされます。 基本的にクリアンサは果実の風味を中心にしたスタイルを比較的低価格で楽しむことができます。後者になるにつれて基本的に価格が上がりますが、ワインの風味や複雑性も増し、さまざまなフレーヴァーや余韻の長さを体感することができます。
ソムリエ解説!熟成させるときに注意することは?
スペインの赤ワインは熟成することで発展するものも多く存在しますが、その際に最も注意したいのが保管温度です。仮にワインセラーがない状態で1年間室温で放置すれば、冬は過度に冷やされ、夏は異常に高い温度での保管となり、ワインに大きなダメージを与えてしまいます。特に高温下での保管は絶対にNGです。また、涼しいところから温かいところへ、そしてまた冷やすというように、保管温度が頻繁に上下するのも良くありません。 冷蔵庫は飲む前に冷やすため、もしくは庫内の乾燥の影響を受けにくいスクリュー栓の白ワインを一定期間保存しておく場合は問題ありませんが、コルク栓を使用したタイプが主流であるスペインの白ワインや、シャンパーニュ方式で造られるスパークリングワインであるカヴァの長期保存には望ましくないため、十分に注意する必要があります。
熟成について詳しくはこちら
スペインのワインにピッタリの料理
最後にスペインのワインにピッタリな、田邉さんおすすめの料理をご紹介します。
ソムリエ解説!赤ワインにあう料理は?
スペインの赤ワインの代表的産地としてまず挙げられるのがリオハです。多くの場合、ブドウ品種、テンプラニーリョを主体とし、長期間オーク樽で熟成させたスタイルが主流で、熟した果実の香りに加え、スパイスやキノコのニュアンスが感じられ、緻密なタンニンとなめらかな酸味をもつタイプが造られています。 こちらには豚肉や牛肉を使用した煮込み系料理、キノコを使ったグラタン仕立て等が、香りや味わいの風味、強さ、テクスチャーの観点からもよく合います。 一方で、ガルナッチャは凝縮した果実感とスパイスの風味とスモーキーさを感じるボディが豊かなスタイルのものも多く、スパイスを効かせた牛肉やラムをグリルや炭焼きにしたお料理とのペアリングがおすすめです。
ソムリエ解説!白ワインにあう料理は?
スペインの白ワインの代表格といえば、北西部 ガリシア州の海沿いに位置するワイン産地リアス・バイシャスのブドウ品種アルバリーニョから造られる爽やかでフルーティーな白。 こちらには、フレッシュオイスターのレモン添えや小エビのカクテル仕立て、シーフードのアヒージョ等、魚介類を使ったお料理と相性抜群です。 一方で、内陸部に位置する白ワインの産地ルエダのヴェルデホから造られた白ワインには、その独特のグリーンフレーヴァーに合わせて、ハーブソーセージ等とのペアリングがおすすめです。
ソムリエ解説!スパークリングワインにあう料理は?
スペインの代表的なスパークリングワインとして知られるのが、カヴァ。こちらは主にカタルーニャ州のバルセロナに近いエリアで造られており、さわやかなスタイルでありながら、シャンパーニュ製法由来の旨味とコクも感じられ、魚介のカルパッチョやシーフードのアヒージョ等、海の幸を使ったオードブルからハモンセラーノのような生ハム、トマトのブルスケッタ等、野菜やお肉の前菜まで、幅広いペアリングを楽しむことができます。
まとめ
スペインワインの魅力は、その多様性と高品質にあります。歴史的な背景と地域ごとの特徴が融合し、世界中のワイン愛好家に愛されるワインが生産されています。
初心者から専門家まで、誰もが楽しめるスペインワインの世界にぜひ足を踏み入れてみてください。
スペインのワイン一覧
文=川畑あかり