現在の食の空間において、「マナーは必要不可欠である!」と、私はいつも思うのですが、皆さま方はいかがお感じでしょうか?
何故かと言うと、世界中のどこの国や地方に行っても食においては様々な決まり事があり、どの社会にも秩序を守るべきルール(作法)が存在すると思うからです。
例えばですが、雨の日の買いもので、デパートに出かければ、当然ながら濡れた傘をビニール袋にしまい、他人が滑らないように配慮を心掛けませんか?
また、晴れの日の両家のお見合いにも当然ながらのしきたりがありますし、極端な場合、フィッシングに行った際にも、規格より小さな魚を釣った場合にはリバースすべきモラルがあるように思います。
このようにケース・バイ・ケースでのルールを認識し、意識を高めれば、更にそのTPOをより楽しめると思います。
食に関する宮廷文化の歴史的な流れ
中世のイタリア、トスカーナ地方の高名な貴族であるメディチ家は多くの方にその存在を認知されています。かつてフィレンツェで資産家としても名を馳せたこの一族のカトリーヌ・メディチ王妃は1533年にアンリ2世と結婚しました。
その際、フランスの宮廷に、イタリアのフィレンツェから料理人と調理器具などを持ち込んだ実話はあまりに有名なエピソードであり、その嫁入り道具の中に、当時2本の歯を持つ、フォークの原型のものがあったと言われています。
この頃から、フォークなどが宮廷でも使用され、その後料理を盛り付けるための皿が用いられるようになり、ナイフも扱われることになりました。
時代は流れ、1789年のフランス革命後、多くの料理人や給仕人は、雇用先の宮殿や貴族から解任をされ、生活を支えるために自らレストランを経営することとなったのです。
一方で、ワイン生産に於いては、ブルゴーニュ地方で修道院や貴族の保有していた有名なクリマは解体され、多くの小作人が所有することとなり、結果、かなりの確率で一つの畑には数人の所有者がそれぞれを管轄するようになりました。
この事は、葡萄栽培を可能にしている各国を見回しても現在の同地方の“作柄も然りだが、造り手も熟知せよ”という評論家達の格言通り、スリリングで唯一無二の独自のスタイルを継承することになるのです。
レストランの起源と歴史
様々な歴史的な背景も考慮しつつ、今度はレストランの起源や歴史にも触れてみたいと思います。
現在でも多くの料理人や食に携わる方々の関心を集めるのは、何と言ってもミシュランやゴ・エ・ミヨなどのガイドブックではないでしょうか?
通年発行されるミシュランのガイドブックは1900年に発売され、ここに掲載された星付きの店舗や施設はこれを機会にその屋号を世に知らしめさせることとなりました。
当時、まだまだ鉄道が普及されていない中、車を利用してでも出かける価値のあるひとつの過ごし方としては、このガイドに掲載された話題の店は当然ながらブルジョワジー達の心をくすぐるものであったと思えます。
店側としては、ゲストからの予約が入れば、メニューやサービス等、良質なおもてなしを心掛け、結果、そのおもてなしに満足した際には、ゲストは十分なチップを置くと予測出来ます。
このチップについては、日本ではさほど習慣はありませんが、欧州やアメリカ等では感謝の度合いをチップ(心付け)で表すことも良くある事です。
このチップは本来(To Insure Promptness)“迅速さを保証する”という語源に遡ります。多かれ少なかれホテルやレストランを利用する際には、常識の範疇での快いチップの習慣は心得ておきたい事です。
このような経緯により20世紀の前半には、もてなす側とそれを受ける側がそれぞれの立場を確立した時代でもあると容易に推測が出来るではないでしょうか?
宿泊も併せ、特にレストランでのマナーは同じ空間を共有する店側とゲスト側にも共通のルールが存在します。
当然、上手にこれらを活用したいと思いますが、では、どのような賢いマナー術があるのかを具体的に挙げさせて頂きます。
大事な会食でホストを務める場合の心得
例えばですが、大事な会食で自身がホストとなる場合は、事前にゲストの食材に関してお好きなものやアレルギー、利き腕が左ならばこれらの情報は店舗へ連絡するべきです。
終始和やかでスムースな会計に至るまで、招いた方と良い時間を過ごすにも店舗の助演なしには難しいかも知れません。
食事の序盤には、魚や肉のデクバージュや野菜のプレゼンテーション等、視覚的であり最もダイニングで相応しいこれらのアクションは、お客様のテンションを高めてくれる事に異論はありません。
当然ながらここでは店の支配人やシェフを始め、体系的なサービスチームと上手くコミニュケーションを円滑にする必要があるのだと思います。
その為には予め日時に余裕をもち、事前の打ち合わせやゲストのサプライズの演出の相談等、これらの事は少なくともきちんと遂行しておく必要があります。
また、店側として満席の中でサーブする際にはゲストは全て公平であるが、入念な打ち合わせをした上記のようなゲストとその日、偶然に予約が取れ来店されたゲストでは、サービスの優先順位が違ってくるのは、店側で携わるスタッフにとっても同じ認識を持つものだと思います。
このような一通りのおもてなしが滞りなく終わり、優雅なひと時を過ごした後に、ゲストからホストに対して “今日はとても良かったよ!ありがとう” とこの言葉がもらえればこのホストにしてみればかけがえのない報酬となるに違いありません。
もてなされる側のマナーとは
こんな話もあるので挙げておきます。
都内にある人気フレンチ料理店の御常連の二組のお客様。一組はいつも殆どのスタッフに挨拶をする日頃から感じが良いAさんは奥様とご来店され、もう一組は、人の話にさほど耳を傾けない横柄な態度のBさん。
この日はボルドーのシャトーワインのイベントで来店をされ、メインは牛フィレ肉のパイ包み焼きでした。
事前にこのフィレの塊はパイに幾つかの香草と粗塩を塗し、じっくり且つ丁寧に火通しされ、ゲストのテーブルごとにプレゼンテーションされます。
周知の通りこのフィレ肉は、細長い形状をした繊維質な部位の事を指しますが、真ん中に少量ながらシャトーブリアンという部位が存在し、この最も上質なお肉を誰にサーブするかは、店のスタッフが阿吽の呼吸で担うことになります。
当然ながらこの日、シャトーブリアンは感じの良いAさん側に振舞われていました。
結果、レストランでは可能な限り良運に肖りたいと願うのは皆同様の想いではないでしょうか?
このような経緯からも、普段から挨拶事は自然に率先して行うべきだと思います。
最後に
私の好きな言葉に、「感謝」という言葉があり、要約すると有難く感じて、「謝意を表すこと」です。
もちろん様々な施設内では、互いにこの感謝心を忘れず物事に接するべきだと思います。
また、このような意思の疎通が図れていれば、もてなす側も場の空気を瞬時に読んでより一流のおもてなしを心掛けられますし、もてなされる側も、より快適に過ごせるでしょう。
何れにしてもお客様や携わる方々にとって、レストラン内での上質なマナー術こそ、さりげない「おもてなしの心」ではないでしょうか。
次回は、ワインのマナーについて述べたいと思います。