ボトルの底に何やら黒い塊のようなものが沈殿しているのを見たことがありますか?
この堆積物は「オリ」と呼ばれます。何故、こういった物体がワインボトルの中に現れるのか?また、オリがあるワインはどのように取り扱ったら良いのか?今回はワインのオリについてご紹介します。
目次
なぞの黒い塊
セラーからお宝ワインを発見。しめしめ飲んでみよう。そう思ってボトルを見てみたら黒い堆積物が見受けられた。はたまた、ワイン会で古酒をテイスティングするチャンス到来とワクワクしていたのに最後に自分のところにボトルが回ってきたときには黒い塊が大量にグラスに交じっていた。そんな経験はないでしょうか?
これらの黒い物体は「オリ」と呼ばれるものです。あまり強くはオススメしませんが「勉強」ということで、一度はペロリと舐めてみるのもありかもしれません…きっと飛び上がるほど渋いに違いありません。
オリの正体
この堆積物は簡単に言うと渋みと色素の塊なのです。悶絶するほど渋く感じるのも無理はありません。ワインが若いうちは渋みや色素の成分は別々に液体中で浮遊しています(図1)。
ところが月日が経つうちに穏やかな酸素の混入が起こります。酸素の混入が起こることで、これまで別々に浮遊していた渋みと色素の成分が引き寄せあうようになるのです(図2)。
このことをサイエンス的には「重合(じゅうごう)」と呼びます。初期の段階では、重合が進むことによって、渋みのテクスチャーがなめらかで柔らかなものになります。ところがさらに歳月を重ねていくと、この重合がより進み、やがて重力に逆らえないぐらい大きな塊になり瓶底に「オリ」として沈殿するのです(図3)。
赤ワインの熟成に関連
前回のコラム「ワインの魅力!熟成によってワインはどう変化するのか」では、赤ワインは熟成が進むと、色が淡くなり、渋みが穏やかでマイルドになるとご紹介しましたが、そういった変化が起こるのは、この重合がボトル内で起きているからです。
若いワインでもオリがあるのは何故?
さほど熟成が進んでいないはずのヴィンテージなのにオリが見られることもあります。これは何故でしょうか。最も考えられる原因は、醸造工程で清澄・濾過が行われなかったということです。
特に自然派の生産者の中にはブドウ本来の風味を残すために、清澄・濾過を好ましく思わない人が多いようです。自然派ワインで若いうちからオリが見受けられることが多いのはそのためです。
何年目ぐらいからオリは発生する
ワインは農業生産品の側面を持つお酒です。ですから何年目からオリが発生するというのは、はっきり言えません。ワインそのものの状態がオリを発生させる年月に影響を与えることもありますし、貯蔵環境によっても熟成のスピードは変わってきますので、オリが発生するまでの期間も当然異なってきます。
取り扱いの注意点
オリが発生したワインは取り扱いに気をつける必要があります。
乱暴に扱うと瓶中でオリが舞ってしまい、グラスに注いだ時に美しくありません。また熟成したワインと渋みの塊を一緒に口に含むと、繊細な味わいが台無し時なってしまいます。ですから、一般的にはデキャンターを使ってオリのない上澄みだけを移し替えていきます。この時、ライトやろうそくの光源をボトルの肩に当て、オリがデキャンターに入らないように細心の注意を払います。
デキャンターを使わないこともある
オリがあるからといっても必ずしもデキャンティングするのが正解ではありません。熟成がかなり進んだ古酒の場合、移し替えることによってワインそのものが台無しになってしまうこともあるからです。理由は「熟成=酸化が進む」ことなので、そもそもかなり酸化が進んだワインをデキャンティングすれば、移し替えている最中にさらに空気と触れ合い、より酸化が促進され、ワインが「お亡くなり」になる…そんな最悪の事態も有り得るからです。
このような悲惨な状態になるのを避けるためには、デキャンティングせずボトルから直接、ワインを注ぐしかありません。
①一般的にワインはラベルを上に横に寝かされて貯蔵されます。
②試飲の1週間程前に冷蔵庫などで縦にして保管しましょう。
③試飲直前にもう一度ラベルを上にして横に寝かします。
こうすることでラベルとほぼ対角線上にオリが堆積しますので、グラスに直接注ぐときにボトルの肩にオリを溜め、グラスに入らないように注ぐことができます。オリの程度にもよりますが、ボトルの瓶底にワインを残すかたちとなるでしょう。自宅にデキャンターを持っていないという方もこの方法を試してみてください。
デキャンティグするか迷ったら
もし、レストランでデキャンティングするかどうか迷った場合は【一度断る】ことをオススメします。理由は1回でもデキャンティングしてしまえば後戻りができないからです。もし飲み進めていって「デキャンターに移し変えたほうがいいな」と思ったらその段階でお願いすればいいのです。
まとめ
ワインの魅力は長期熟成能力を有していることです。オリとうまく向き合えるようになればその楽しみは倍増します。優しく丁寧に取り扱ってワインを美味しくいただきたいものです。