ドン ペリニヨン、ブランドアンバサダーのティモシー・ベック氏
高級シャンパンの代名詞、ドン ペリニヨン。おそらく世界で最も有名なシャンパンでしょう。しかし、日本では特にラグジュアリーなイメージが先行し、ドン ペリニヨンがどんなシャンパンなのか、知っているようで知らない人が案外多いのではないでしょうか?
先日、ワインショップ・エノテカ GINZA SIX店にて、ドン ペリニヨンのスペシャルテイスティングイベントが開催されました。世界一のシャンパンと呼ばれ、今も昔も多くの人々を惹きつけて止まないドン ペリニヨンの魅力を、ブランドアンバサダーのティモシー・ベック氏にたっぷりと伺ってきましたので報告致します。
目次
修道士ドン・ピエール・ペリニヨンの偉業
まず、ティモシー氏はドン ペリニヨンという名前の由来となった修道士ドン・ピエール・ペリニヨンのストーリーを紹介してくれました。ご存知の方も多いと思いますが、ドン ペリニヨンというシャンパンを語る上でこのストーリーを割愛することはできません。
1668年、若き修道士ドン・ピエール・ペリニヨンはシャンパーニュ地方のオーヴィレーヌ大修道院の醸造責任者になりました。そして、その後の人生を「世界最高のシャンパンを造る」ことに捧げます。
シャンパンの歴史においてドン・ピエール・ペリニヨンが残した功績は数多くありますが、そのうちの一つが高気圧に耐えうる瓶の導入です。通常、スティルワインの気圧は1気圧ですが、シャンパンの気圧は6気圧もあります。ちなみに車のタイヤは1.5気圧。シャンパンの気圧がどれほどのものか想像できますね。
ドン・ピエール・ペリニヨンがシャンパンを製造していた当時の大きな問題は、造ったシャンパンの瓶が破裂してしまうことでした。造られていたシャンパンのおよそ8割が破裂していたということですから、新しい瓶の導入はシャンパンの発展に大きく寄与しました。
また、初めて黒ブドウからシャンパンを造ったこと、複数の畑から高品質なブドウのみを集めて安定した品質のシャンパンを造ったことなど、ドン・ピエール・ペリニヨンの功績ははかり知れません。
彼の哲学は、300年以上経った今日まで脈々と受け継がれていることをティモシー氏は教えてくれました。
ドン ペリニヨンがこだわる「熟成」
ドン ペリニヨンはブドウの作柄が良かった年にのみに造られるヴィンテージシャンパンです。年によって、セパージュに1〜2%の差異はありますが、基本的にはシャルドネとピノ・ノワールが50%ずつで造られます。
「シャルドネは優雅さや新鮮さを、ピノ・ノワールは力強さをシャンパーニュに与えますが、熟成ポテンシャルの少ないピノ・ムニエは使用していません。(注1) なぜなら、ドン ペリニヨンの原料ブドウの条件として最も大事にしていることは熟成ポテンシャルだからです。ドン ペリニヨンには最低でも30年は熟成可能と思われる、ポテンシャルの高いブドウしか使用しないのです。」とティモシー氏は熱く語ります。
現在のドン ペリニヨンのラインナップのうち、最も熟成期間の短いドン・ペリニヨン・ヴィンテージ(P1)ですら最低9年の熟成期間を経てからリリースされるので、ドン ペリニヨンの熟成へのこだわりはただものではありません。
(注1) シャンパーニュの原料として使用できるブドウ品種はシャルドネとピノ・ノワール、ピノ・ムニエの3種とフランスのワイン法で定められています。
オリジナル熟成サイクル
ドン ペリニヨンは2000年からオリジナルの熟成サイクルを導入しました。エチケットに表示されている「P2」の「P」は熟成を意味するプレニチュード(Plénitude)の頭文字で、「P2」は第二の熟成ピークを迎えたことを意味します。
そもそも、ドンペリニヨンは3回の熟成ピークを迎えるよう造られています。よって、最初のリリースは1度目の熟成ピークを迎えたものになります。
ティモシー氏によると「ドン ペリニヨンはヴィンテージシャンパンなので、年によって個性は異なります。2008年は10年以上の熟成が必要だったから、2009年よりも後からのリリースとなりました。つまり、ドン ペリニヨンはどの段階のプレニチュードでもリリースされた時が飲み頃です!」とのこと。
さらに、P2は16年以上の熟成期間を要し、P3は通常25年以上熟成させるそうです。残念ながらP3はフランス本国のメゾンでのみで販売しており、一般販売は今のところしないそうです。
また、ティモシー氏は「P1とP2ではP2の方が良いという意味ではなく、スタイルの違い」とも教えてくれました。P1はアペリティフにぴったりな洗練されたフレッシュな味わいで、P2はP1より落ち着いた味わいになり、メインディッシュに合うフードフレンドリーなシャンパンになるそうです。
ちなみに、「P1を購入して自宅のセラーで熟成させたらP2になりますか?」という質問に対しては、
「澱とともに熟成させることに意味があるので、自宅のセラーで寝かせてもP1はP2にはなりません。」とのこと。
「澱引きした後のシャンパンを自宅で熟成させた場合はドライフルーツの風味が強く、色合いもダークな黄色になり、熟成感がしっかりと現れてくるでしょう。でも、P2のようにメゾンのセラーで澱とともに完璧な状態で熟成させた場合は、若々しくフレッシュな果実味が残ります。」ということでした。
絶妙なバランスで造られた芸術品
ティモシー氏の解説を聞きながら、ドン ペリニヨンの現行アイテム3種をテイスティングしました。コメントは以下の通りです。
ドン・ペリニヨン ヴィンテージ 2009(P1)
ドン・ペリニヨン ヴィンテージ 2009(P1)
ドザージュ5gのエクストラブリュット(極辛口)。9年間の熟成期間を経てリリースされました。青くスパイシーなグレープフルーツの皮と軽くトーストしたブリオッシュのような香りが特徴です。生き生きとしたフレッシュさがありますが、泡は絹のように滑らかでクリーミー。シャルドネの華やかで洗練されたエレガントさと、ピノ・ノワールに由来する熟成感のある肉厚なボディが見事に調和しています。
ドン・ペリニヨン P2 ヴィンテ-ジ 2000
ドン・ペリニヨン P2 ヴィンテ-ジ 2000
P2は16年間の熟成期間を経てリリース。ドザージュ4gの極辛口スタイルですが、粘性の高さと甘い風味が芳醇さを演出しています。トロピカルフルーツや蜂蜜のニュアンス、スモーキーな香りがアクセントになっており、気品のある長い余韻へ続きます。まだまだ熟成可能なポテンシャルがあるのと同時に、P1とは異なる力強さも感じられました。
ドン・ペリニヨン・ロゼ 2005 (P1)
ドン・ペリニヨン・ロゼ 2005 (P1)
ドン・ペリニヨン・ロゼP1の熟成期間は10年以上。ドン ペリニヨンのロゼは赤ワインの比率が他のメゾンのロゼシャンパーニュに比べて高く、27%となっています。ですから、ピノ・ノワールの個性が強いロゼシャンパンと言えます。
ティモシー氏曰く、ドン ペリニヨン・ロゼのイメージは「ダークジュエル(宝石)」。色はブロンズ色に近いピンク色で、赤いフルーツの香りや少しのタンニン、甘いキャンディのニュアンスも感じられ、鴨肉など肉料理と合わせられるフードフレンドリーなシャンパンに仕上がっています。ティモシー氏はドン・ペリニヨン・ロゼと生ハムのマリアージュが大好き、と笑顔で話してくれました。
ドン ペリニヨンのブレンドの秘密
最高品質を追求するドン ペリニヨンは99%グラン・クリュ(特級畑)のブドウから造られます。でもなぜ、99%なのでしょうか?残りの1%はグラン・クリュではありません。格下のプルミエ・クリュ(1級畑)のブドウです。ドン・ピエール・ペリニヨンが1668年からブドウ栽培を手がけたオーヴィレール大修道院の畑のブドウを使用しているのです。
「今、皆さんの目の前にあるグラスの中の1%、ドン ペリニヨンの全てのボトルの中に入っている1%はドン・ピエール・ペリニヨンの魂なのです。それが、ドン ペリニヨンのブレンディングの真髄です。」というティモシー氏の言葉に、多くの参加者が深く頷いていました。
シャンパンの中でも圧倒的な存在感を示すドン ペリニヨンですが、個人的には、このイベントに参加する前と後でドン ペリニヨンというブランドに対するイメージが随分変わったような気がしています。今後ドン ペリニヨンを飲む機会があるならば、このブランドストーリーを思い起こし、じっくりと味わってみたい。そう思いながらイベント会場を後にしました。
ドン ペリニヨンのアイテム一覧
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