バローロの歴史 ~バローロ・ボーイズの登場と伝統派VSモダン派論争~

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公開日 : 2019.2.27
更新日 : 2022.5.23
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小樽

「王のワインにして、ワインの王」として名高いバローロ。イタリアを代表する、長期熟成向きの辛口赤ワインとして知られていますが、意外なことにその歴史は浅く、名声が広がり始めたのは僅か170年前のことです。

今回は古くからワイン文化の中心地であったバローロの歴史と、バローロを知る上で重要なキーワードとなる「バローロ・ボーイズ」、そして「伝統派VSモダン派論争」について取り上げます。

目次

甘口ワインから長期熟成向き辛口赤ワインへ

赤ワイン

バローロに使用されるブドウ品種、ネッビオーロに関する文献が登場し始めるのは13世紀頃。この頃から既にピエモンテ州ではネッビオーロが栽培されていたようですが、造られるワインは甘く、フルーティーな微発泡性のものであったと言われています。

今の辛口バローロのスタイルが出来上がったのは、ピエモンテを拠点としていたサヴォイア家が中心となり、イタリアが統一された19世紀半ばのことです。当時のピエモンテ州、グリンツァーネ・カヴール村長であり、後のイタリア国初代首相となるカミッロ・カヴール伯爵が、フランスの醸造家ルイ・ウダール氏を招聘。新たに導入した最新の醸造技術によって、バローロは甘口ワインから長期熟成向き辛口赤ワインへと生まれ変わったのです。

その後、イタリア王国の宮廷でバローロのワインが供されたことで、バローロの名声が確立。19世紀末から1900年代になると、自家消費や宮廷での消費だけのワインから抜け出し商業化されました。そのことで、品質が向上していくのと同時に、万博などでもメダルを多く獲得し、地元の造り手も増えていきます。

“バローロ・ボーイズ”の登場

ロータリー・ファーメンター

ロータリー・ファーメンター

高い名声を築いたバローロですが、20世紀後半になると世界的な市場では、よりフルーティーでソフトなタンニンの早くから楽しめるワインが主流となり、飲み頃になるまで10年以上もかかる堅固なバローロが流行遅れになっていきます。そこで登場したのが、“バローロ・ボーイズ”と呼ばれるモダン派の生産者たちです。

1980年代、ワイン商マルク・デ・グラツィア氏が、コンサルタントとして、パオロ・スカヴィーノロベルト・ヴォエルツィオエリオ・アルターレ、ドメニコ・クレリコ、ルチアーノ・サンドローネといった生産者たちを先導しました。それまで長期熟成が前提だったバローロを、早くから楽しめる味わいへと変えるため、グリーン・ハーヴェスト(注1)の実施やバリック(小樽)の使用、またロータリー・ファーメンター(注2)を使った短期マセラシオン(醸し)など、ブルゴーニュから取り入れた醸造法を含む、様々な手法を導入したのです。

彼らは“バローロ・ボーイズ”と呼ばれ、そのモダンなバローロは、アメリカを中心にロバート・パーカー氏や各評論家から高い評価を獲得し、一大ムーブメントとなります。

(注1)収量を減少させる目的のために、果房を未熟な状態で収穫すること

(注2)回転式の発酵槽のことで、果実の風味と色素をより抽出できる

伝統派VSモダン派論争

大樽

早飲みスタイルでオークのニュアンスと果実味が強い味わいのバローロを生み出す「モダン派」。これに対し、ジャコモ・コンテルノやジュゼッペ・マスカレッロなど、旧来から実施している大樽熟成や長期間のマセラシオンにこだわり、長期熟成が前提の、タンニンが強く堅固なバローロを生み出す人々は「伝統派」と呼ばれました。

この伝統派VSモダン派論争は、世界のワイン評論家やジャーナリストを中心に注目を集め、その結果、バローロの知名度が更に高まることになります。

“バローロ・ボーイズ”による改革は、伝統派とモダン派という言葉をもって醸造スタイルや味わいを定義し、伝統派VSモダン派の対立図式のように捉えられがちです。しかし、モダン派側にはそれまでも高品質なワインを生産していた伝統派と対立する思惑はありませんでした。むしろ、地域を想う自家栽培ワイナリーの面々が、当時バローロの評価低下の一因となっていた大手ネゴシアン寡占状態をなんとか打開することや、本来のネッビオーロのポテンシャルを最大限に引き出せるようにすることが改革の目的なのです。

また、自家元詰のワイナリーが増加したことにより、同じ時期に新たな別の変化も起こり始めました。それが、「クリュ」の概念の浸透です。小さな栽培農地しか持たないワイナリーがその単一の畑のポテンシャルを伝えようとし始めた事が大きなうねりとなり、イタリアでいち早く単一畑文化がこの土地に根付き始めたのです。

まとめ

ミックス

こうしてバローロは新しい時代へと突入しましたが、栽培技術や醸造技術が世界的に共有化されていく時代背景の中で、バローロの生産者も伝統派とモダン派の切り口だけで語ることが非常に難しくなってきています。

例えば、バリック熟成のイメージが強いモダン派の代表格パオロ・スカヴィーノは、現在は上記の写真のようにバリックと大樽のダブル熟成を採用しています。また、伝統派と言われるカヴァロットでは、モダン派のイメージが強いロータリー・ファーメンターを使用するなど、両者の境はあいまいになってきています。

このように現在は、伝統派VSモダン派論争も収束し、伝統派とモダン派の技術をミックスした折衷型で造る生産者が多くなってきています。各生産者が理想とするスタイルを目指すことで、多種多様な味わいのバローロが生み出されているのです。

現代のバローロには、そうした生産者ごとの異なる個性を理解し、自分にとって本当に美味しいワインを探せる、フランスのブルゴーニュワインにも似た愉しみがあると言えるでしょう。

参考文献・日本ソムリエ協会 教本 2018

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