スペインを代表するブドウ品種、テンプラニーリョ。スペイン産の長熟で高品質な赤ワインは、ほとんどテンプラニーリョを主体として造られているといっても過言ではありません。
しかし、同じ赤ワイン用ブドウ品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールに比べると個性は控えめです。そのため、テンプラニーリョの印象は薄いという方も多いのではないでしょうか?
今回はそんなテンプラニーリョについてソムリエの解説付きで詳しくご紹介します。
テンプラニーリョのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
特徴
テンプラニーリョはスペイン北部原産の黒ブドウ品種です。
名前はスペイン語の「Temporano=早生の、早熟な」に語源があり、この地で栽培されているものが他のブドウ品種より早く成熟することに由来しています。
紀元前1100年頃から紀元前500年頃にスペイン東海岸全域を征服していた古代ローマ人やフェニキア人が故郷からブドウの樹や醸造技術を持ち込んだのがスペインワインの始まりと言われています。テンプラニーリョの歴史は古く、その頃からイベリア半島に存在していたようです。
果粒はやや小さく厚い果皮を持つブドウで、病害への耐性は弱いのですが、他の品種に比べて芽吹きが遅いため、春の遅霜の被害を受けにくいのが特徴です。
また、生育期間が非常に短いので夏から初秋にかけて暑くなると作柄が良くなります。ただ、ある程度冷涼な気候のもとで育てる方が、優雅さや長期熟成に必要な酸を持ったワインを造ることができます。
テンプラニーリョから造られるワインは、若いものは明るいルビー色で、熟成期間に応じて茶色味を帯びてきます。
ストロベリーやプラムの赤系果実の風味が特徴で、若いワインはフルーティーな印象です。ボディは中程度からフルボディで、しっかりとした骨格がありながら、柔らかさやまろやかさも感じられ、程良い酸味とのバランスも良いワインに仕上がります。
また、長期熟成に向いているのもテンプラニーリョの特徴です。
ソムリエ解説!熟成させるとどうなるの?
樽と瓶内での熟成により、次第に熟成のニュアンスが現れ始め、香りと味わいの複雑性が増し、凝縮した果実香に加えて、干しプラムや乾燥イチジク等のドライフルーツ、キノコやリコリスを想わせる香りも現れます。 渋みと酸味は果実味に溶け込んだ状態となり、骨格がしっかりとしていながらもテクスチャーはなめらかで、複雑性のある風味が感じられるようになります。
ソムリエ解説!テンプラニーリョは他の品種とブレンドされる?
テンプラニーリョから造られる赤ワインには、補助品種としていくつかの品種をブレンドしてその個性を生み出す場合もあります。 ガルナッチャはワインにボディを与え、マスエロ(カリニャン)は、タンニンや濃い色合いを加えることもできます。 その他にも、グラシアーノという品種をブレンドすることもありますが、こちらは華やかなアロマとしっかりとした酸味を加えることができます。 それぞれがテンプラニーリョと相性が良く、ブレンドされることで、色調、アロマ、タンニン、酸味と果実味とのバランスをとりながら独自のスタイルをもったワインに仕上がります。
代表的な産地
テンプラニーリョの栽培地域はほとんどがスペインとポルトガルに限定されています。代表的な産地の特徴をご紹介します。
スペイン リオハ
首都マドリードの北北東約250kmにある、スペインを代表するワイン産地。ローマ帝国による征服以前からワイン造りが行われていた古い歴史を持つ産地です。
南西のデマンダ山脈がメセタ(イベリア半島中央に位置する広大な乾燥高原)からの過酷な夏の熱波を遮り、北に連なるカンタブリア山脈によってビスケー湾から吹き寄せる冷たい北西風から守られます。そのため夏は暑さが抑えられ、冬は比較的穏やかで、テンプラニーリョの栽培に非常に適した気候です。
この地域の栽培面積の約50%を占めるリオハ・アルタはエブロ川上流域の左岸と右岸の一角にあり、鉄分の多い粘土質の土壌で、しっかりとした骨格を持つ熟成向きのテンプラニーリョのワインが造られています。
また、リオハではテンプラニーリョはガルナッチャ(グルナッシュ)やマスエロ(カリニャン)などとブレンドされることが多いのも特徴です。
スペイン リベラ・デル・ドゥエロ
リベラ・デル・ドゥエロはスペイン北部にある、カスティーリャ・イ・レオン州の産地。
「夏と冬しかない」と言われるほど夏は乾燥した酷暑となり、冬は寒さが厳しい大陸性気候です。この寒暖差の厳しさがテンプラニーリョに凝縮した味をもたらします。
リオハ同様にワイン造りは長い歴史がありますが、1980年代になるまで「ベガ・シシリア」を除き特筆すべきボデガ(ワイナリー)はありませんでした。
しかし、1982年に原産地呼称(D.O.)に認定されてから、この地のテンプラニーリョのワインで世界的な名声を得る生産者が増え、今ではスペインを代表する赤ワインの産地となりました。
ちなみに、今なおスペインのトップ生産者として名を馳せる「ベガ・シシリア」は、テンプラニーリョにカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロといった国際品種をブレンドし、長期間セラーで熟成させてからワインをリリースします。
ポルトガル
ポルトガルではテンプラニーリョは「ティンタ・ロリス」として知られています。
ポートワインの産地として有名なドウロ地方ではポートワインの原料として、またポルトガル中部のダンでは、他の品種とブレンドして赤ワインが造られています。
テンプラニーリョのシノニム(別名)
テンプラニーリョはどのようなテロワールでも適応するため、イベリア半島の各地で栽培されており、その土地ごとの特徴がワインに現れます。
そのため、このブドウは各地で独自の呼び名があり、テンプラニーリョはリオハでの呼び名。リベラ・デル・ドゥエロではティント・フィノ、ラ・マンチャではセンシベルと呼ばれます。他にも下記のように多数のシノニム(別名)を持ちます。
ソムリエ解説!産地による味わいの違いは?
スペインでは各地に植えられていますが、リオハやリベラ・デル・ドゥエロ等が主要産地であり、凝縮した果実感としっかりとしたボディをもつ赤ワインが主に造られています。その他にも、ラ・マンチャではセンシベル、カタルーニャではウル・デ・リェブレ等、その土地ならではの名称で呼ばれ、それぞれのスタイルをもっています。 中でも特にトロで造られるテンプラニーリョは特徴的で、ティンタ・デ・トロと呼ばれ、他地域と比較してアルコール度数の高い、フルボディでしっかりとしたタイプの赤ワインが造られています。 スペイン国内でもさまざまなスタイルが存在していますので、ぜひ飲み比べをしてみてください。
相性の良い料理
フルーティーでまろやかなテンプラニーリョのワインが洋食、和食、中華それぞれどんな料理が合うのか、田邉さんに聞いてみました。
ソムリエ解説!洋食ならどんな料理が合う?
テンプラニーリョの赤ワインの香りに感じられる熟したベリーや甘苦いスパイス感とスモーキーなニュアンス、味わいに感じられるまろやかさと緻密なタンニン、しなやかな酸味、こちらに対しておすすめしたいのが、コリアンダーやクミン等のスパイスでマリネした豚肉のグリル。 ワインのまろやかな甘み、緻密なタンニンと酸味がお肉の旨味をさらに引き出してくれます。グリルによる香ばしくスモーキーなフレーバーとスパイスの風味にワインの樽熟成由来のロースト香や樹脂のニュアンス、スパイス感が重なり、豊かな味わいが口いっぱいに広がります。 樽のニュアンスが控えめな軽やかなタイプには、スペインが誇るハモンイベリコやハモンセラーノ等の生ハムとよく合います。
ソムリエ解説!和食ならどんな料理が合う?
テンプラニーリョのワインにバランス良く調和する和のお料理としておすすめしたいのが、すき焼きです。 じっくりと煮込んだお肉の旨味と脂質に、テンプラニーリョの熟した果実の甘さを感じる味わいと緻密なタンニンが溶け込み調和します。まろやかな卵や煮込んだ野菜の風味に、テンプラニーリョがもつ風味とテクスチャーが重なり、料理とワイン双方の味わいが広がります。
ソムリエ解説!中華ならどんな料理が合う?
中華料理をペアリングする場合は、中華風の豚の角煮がおすすめです。 肉のまろやかな味わいと豊かな旨味にワインの熟した果実の甘みと熟成からくる複雑性、溶け込んだ味わいが調和し、五香粉(ウーシャンフェン)の独特のスパイスの風味とワインから感じられる甘苦いスパイスのニュアンスもよく合い、双方の味わいのボリューム感もバランスがとれていて、それぞれの味わいが引き立ちます。
おすすめワイン
最後に、田邉さんおすすめのテンプラニーリョを使ったワインを3本ご紹介します。
アルトス・イベリコス・クリアンサ / トーレス
日本においても早くから人気のワイナリーとなり多くのファンを持ち、「世界で最も称賛されるワインブランド」にも選ばれた経歴を持つスペインの名門トーレス。こちらのワインは、リオハならではの個性と魅力を体感いただける1本。 豊かな果実のアロマと味わい、樽熟成由来のスパイスのニュアンスが心地良く広がります。デイリーワインとしてもとてもおすすめです。
セレステ・クリアンサ / トーレス
先にもご紹介したとおり、「世界で最も称賛されるワインブランド」にも選ばれた経歴を持つ名門ワイナリー「トーレス」が生み出すリベラ・デル・ドゥエロの赤ワイン。熟したベリーフルーツのアロマと味わい、ローストやスパイス感を感じるオーク樽の由来の風味も豊かに感じられます。 同生産者のリオハのワイン「アルトス・イベリコス・クリアンサ」との飲み比べもおすすめです。
2021年
3,520 円
(税込)
マルケス・デ・ムリエタ・レゼルヴァ / マルケス・デ・ムリエタ
マルケス・デ・ムリエタは現存するリオハ最古のワイナリー。こちらは同ワイナリーが誇るフラッグシップワインであり、凝縮した果実味と長期熟成に由来する複雑性のあるアロマと、緻密で滑らかなタンニン、美しい酸味との調和を楽しめる1本。 テンプラニーリョを主体にグラシアーノ、マズエロ、ガルナッチャを使用した見事なブレンドの妙も体感できます。
マルケス・デ・ムリエタ・レゼルヴァ
赤
パワフル&ストラクチャー
スペイン・リオハの頂点に君臨する造り手。彼らのスタイルが集約された、渾身のフラッグシップワイン。力強くエレガントな味わい。 詳細を見る
4.3
(43件)2019年
4,290 円
(税込)
WA 93
2018年
4,290 円
(税込)
WA 94
まとめ
テンプラニーリョは、控えめながらも奥深い魅力を持つスペインの宝石とも言えるブドウ品種です。カベルネ・ソーヴィニヨンの力強さや、ピノ・ノワールのエレガントさを求める方にも、そのバランスの取れた味わいはきっと満足いただけるでしょう。そんなテンプラニーリョは幅広い料理に合わせやすく、日常の食卓から特別な場面まで、さまざまなシーンで活躍します。
この記事でテンプラニーリョの魅力を再発見していただけたのではないでしょうか。ぜひワインを選ぶ際には、テンプラニーリョを候補に入れて、その優雅で繊細な味わいを楽しんでみてください。
テンプラニーリョのワイン一覧
文=川畑あかり