トスカーナ州モンタルチーノ村で造られる「イタリアワインの女王」とも呼ばれるブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。トスカーナの最高峰のDOCGに君臨していますが、その歴史は案外浅いものです。
今回はそんなブルネッロ・ディ・モンタルチーノについてご紹介します。
国民的人気を誇るサンジョヴェーゼ
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはサンジョヴェーゼ100%で仕込まれるワインです。
正確にはブルネッロと呼ばれサンジョヴェーゼの亜種にあたります。この品種はイタリア20州のうち16州に植わっており栽培面積はイタリア第一位と国民的支持を集めているブドウです。
イタリアに広く栽培されているといっても、サンジョヴェーゼの傑作品を生むのは簡単なことではありません。
その理由の一つは長い生育期間を必要とする品種なため、完熟させるには温暖な気候でなければなりません。しかし単純に暑ければいいというわけでなく、高温になるとジャムのようになり繊細さが損なわれてしまいます。つまり、程良い気温の場所を探すのが非常に難しいのです。
二つ目はこの品種は樹勢が非常に強い品種で、やせた土壌を選ばないと樹のバランスをとることが難しい点です。
最後にサンジョヴェーゼについて特筆すべきことを挙げるならば、突然変異しやすい特徴をもっているということです。クローンの数はなんと35もあるといわれています。前述の通りブルネッロ・ディ・モンタルチーノで用いられるブルネッロも亜種で、小粒で果皮が厚いために、色が濃く渋みの強いワインになりやすいのです。
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モンタルチーノ村の歩み
今では価格・名声ともにキャンティを凌駕しているブルネッロ・ディ・モンタルチーノですが、その歴史は想像以上に浅いのです。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノが造られるモンタルチーノ村はもともと貧しい村でした。1960年までは、ランブルスコの輸入販売で一財を成しえたバンフィという会社がモスカデッロ種(マスカット・オブ・アレクサンドラ)から甘口の発泡性ワインを造っていることで知られているぐらいでした。
それでは、なぜ今日のように成功することが出来たのでしょうか。ことのはじまりは19世紀後半に端を発します。
ちょうどその頃、キャンティ地区ではリカゾーリ男爵がサンジョヴェーゼの独自のブレンド法を考案しているような時代でもありました。そういった時代背景の中、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの始祖であるビオンディ・サンティの一族はこのワインの型を造り始めていたのです。
そして1888年に、一族はブルネッロ100%で仕込んだワインを「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」の名で売り始めました。
その後、このワインが世界中を魅了する存在になったため、1980年にはトスカーナ州で初のDOCGに認定され、モンタルチーノ村の人々が転換を急ぐようになったのです。1970年代にはたった20名ほどしかいなかった生産者も現在では約250名まで急増しました。
恵まれたテロワール
キャンティ・クラシコとブルネッロ・ディ・モンタルチーノを飲み比べるなら、たいてい後者が濃く渋みがしっかり感じることでしょう。
一つには前述の通りブルネッロという小粒で果皮の厚い亜種を使っていることも挙げられますが、テロワールも関係しているのです。
モンタルチーノ村はフィレンツエから110キロメートル南に位置します。標高はキャンティ・クラシコエリアよりも全体的に低めです(それでも高いところでは500m以上あります)。
トスカーナDOCGの中で最も年間降雨量が少なく700mm前後しかありません。
つまりキャンティ・クラシコよりも緯度が低く、標高が低いこと、加えて乾燥していることがワインの力強さを与えているのです。
しかし、ブドウが過熟せず決してオーバーパワーにならない良い条件も備えています。それはティレニア海から50㎞しか離れておらず、日中から午後にかけて涼しい海風が大地を冷やしていることです。
幅広い個性を持つブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
モンタルチーノ村は幅広いテロワールをもっており要約するのは簡単ではありません。
しかし、もし北部と南部に分けていうならば、北部はガレストロと呼ばれるやせた頁岩で形成されています。やせた土壌と相性の良いサンジョヴェーゼは十分な実力を発揮します。加えて標高が500mはあるので昼夜の気温差が生まれ、程良いブドウの成熟度を保つという観点でも理想的です。
そんな北部には、ビオンディ・サンティやサルヴィオーニなどの優良生産者が軒を連ねます。
南部は北部と比べ標高が低く、やや粘土質土壌が増えていきます。そのため華やかさというよりフルボディ気味のワインになります。つまりこの多彩なテロワールゆえ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノといってもフレッシュなものから、濃厚スタイルなど幅広いものが産出されているのです。
この数年間、土壌、地形、斜面、標高といった観点からサブゾーンを制定すべきだという声が生産者から活発に上がっているのはこのためです。
ブルネッロゲート事件
2008年、ワイン業界が震撼しました。
超有名生産者を含む一部のブルネッロ・ディ・モンタルチーノにカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロがブレンドされていることが明らかになったのです。
たいていのサンジョヴェーゼを使うDOCGはブレンドを認めているのに対して、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCGだけが認めておらず、サンジョヴェーゼ100%で仕込まなければなりません。この事件の背景には「ブレンドすれば複雑になる」という安易な考えがあったことは間違えありません。
興味深いのはイギリスのワイン評論家ジャンシス・ロビンソンは、この事件をポジティブにもとれるような発言をしていることです。
「この問題が明るみに出たことで、よりピュアな本物のワインを生み出すことにつながったのではないだろうか」と。この言葉の裏側にはトスカーナのDOCGの中でブルネッロ・ディ・モンタルチーノは卓越した自然要因をもっているから、他品種の助けを必要としないのだ、ということが読み取れるように思うのです。
まとめ
ワイン史に華やかに登場したブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。その歴史はまだ浅く、これからどう進化していくか目が離せません。
あと数年後には、議論の通りサブゾーンもできているかもしれません。いずれにしても優れたテロワールのポテンシャルを十分発揮し、これからもイタリアワインの女王の名にふさわしいワインを世に送り続けてほしいものです。
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