アルゼンチンワインはコストパフォーマンスに優れており、近年ではこの土地を代表する品種以外にも国際品種で造られたワインの評価も上昇中です。
今回はそんなアルゼンチンワインについて解説していきたいと思います。
アルゼンチンワインの歴史
16世紀半ば、スペインの宣教師たちが船に積み込んだブドウの種がメキシコの布教地に植えられ、その後南下しワイン造りはペルーに広がっていきました。
そして1550年代、宣教師たちはペルーからアンデス山脈を越えて、当時スペインの支配下だったアルゼンチンのサンティアゴ・デル・エステロにクリオージャ(注1)を運び、植え付けたことがアルゼンチンワイン産業の始まりだと言われています。
しかし、クリオージャは高品質ワインには向かなかったため、ワイン造りは浸透しませんでした。
(注1)チリではパイス、カリフォルニアではミッションと呼ばれる品種
1816年にアルゼンチンはスペインから独立。
1852年には、仏人農業技師がチリにマルベックやカベルネ・ソーヴィニヨン、セミヨンなどのボルドー系品種を伝えます。これらの品種は、その苗木がアンデス山脈を越えてアルゼンチンに伝わったという説と、大西洋経由で伝わったという二つの説が現在伝えられています。
19世紀にボルドー系品種が到達して以降、ようやく本格的なワイン造りが始まりました。
20世紀にはフランスの醸造技術が導入され、ワインの品質がさらに向上。この頃にイタリアやスペインからの移民が多く流入したことで、食やライフスタイルの影響が現在まで色濃く残っています。
1990年代になるとフランス、イタリア、スペイン、カリフォルニアなどの海外生産者がアルゼンチンに進出。数多くの世界的なワインコンサルタントが最新の栽培技術や醸造技術を持ち込みました。
またこの時代、日照に恵まれており降水量が少ないという点、安価な人件費や地価のために生産コストが安いというワイン造りに最適な土地柄や条件に大手企業が目を付けました。彼らは最新技術を取り入れ、アルゼンチンワインの品質を向上させました。
アルゼンチンの気候風土
アルゼンチンは南アメリカ大陸の南部、チリの東に位置しています。
ブドウ栽培地は南緯22度から42度にあり、アメリカ大陸最高峰のアコンカグアが含まれるアンデス山脈が国の西側を南北に貫き、気候に大きな影響を与えています。
西に広がる太平洋からはゾンダ風という湿った風が吹き込み、チリを超えると暖かい乾燥した風となって温度を上昇させています。
降雨量は年間で125mmから400mm程度と少ないため、アンデス山脈の雪解け水や雨を溜める用水池が各地につくられ、この水を使用した灌漑システムが整備されています。
また、ブドウに傷をつける大きな雹が降ることも多く、生産者は雹よけのネットやシートを張ったり、様々な場所に畑を持つなどして対策しています。
土壌はワイン銘醸地に見られる石灰岩や水はけの良い砂地、約1万年前以降に生成された比較的新しい沖積土壌が混ざっており、標高差によっても地質が異なっています。
主なワイン産地
アルゼンチンの主要なワイン産地は北部地方、クージョ地方、パタゴニア地方に大きく分けられます。中でも、アルゼンチンを代表するクージョ地方のメンドーサ州は、たった一つの州でアルゼンチンワイン生産量の約70%を占める一大銘醸地として知られています。それぞれの地方から代表的な州をご紹介します。
北部地方サルタ州
サルタ州は1,280mから3,110mという高い標高にブドウ畑が広がっているために昼夜の温度差が激しい生産地です。
色調や香りが強く、熟したタンニンが感じられるワインが生み出されています。メンドーサ同様に降雨量も平均200mmと少なく、冷涼な気候で造られるトロンテス・リオハーノが高く評価されています。
代表的な産地は、アンデス山脈とアコンキハ山脈に挟まれたカルチャキ・ヴァレーのカファジャテ。この地は標高3,000mを超え、世界で最も高い場所にあるブドウ畑と呼ばれています。
カファジャテは表土に砂利と細かい砂が広がる砂ローム(注2)土壌。
トロンテスをはじめ、マルベックやカベルネ・ソーヴィニヨンなどが栽培されています。
(注2)砂と粘土の中間的なあらさを持つシルトや粘土の含有が25%から40%土壌
クージョ地方メンドーサ州
メンドーサ州は、フランスのボルドーやアメリカのナパヴァレーなどと並ぶ世界10大ワイン首都のうちの一つに認められており、アルゼンチンワインの約8割がこの地で生み出されています。
平均標高は900mと高く、最も高いところでは3,000mにも達します。標高が高く昼夜の温度差が激しいためしっかりとした酸を持ち複雑味のあるブドウが造られます。また、強い紫外線に晒されるため果皮は厚くなり、豊かな香りと凝縮された果実味を持つワインとなります。
平均降雨量は200mmとかなり少なめ。大陸性気候で遅霜や雹のリスクが高い生産地でもあります。
この地はマルベックの産地として有名ですが、他にボナルダ、カベルネ・ソーヴィニヨンも盛んに栽培されています。
そんな赤ワインは評価が高く、ポテンシャルの高いワインが生産されています。
一方で、白品種はアルゼンチンのみで栽培されるトロンテスや、シャルドネ、シュナン・ブラン、ソーヴィニヨン・ブランなどヨーロッパで人気の高い品種も多く栽培されています。
白ワインは酸が穏やかで比較的軽快なワインとなります。
メンドーサは五つに分類されますが、中でも東西に流れるメンドーサ川流域にあるルハン・デ・クージョ県やマイプ県は、レストラン併設のワイナリーが増加しており、海外から多くの観光客が訪れます。
メンドーサ東部は5県からなるメンドーサ最大の産地となっており、デイリーワインから高級ワイン、濃縮果汁、生食用ブドウ、干しブドウまで幅広く生産しています。
パタゴニア地方リオ・ネグロ州
パタゴニア地方はアルゼンチンの中でも標高の低い地域で、最大でも標高370mほどしかありません。この地で標高の代わりに昼夜の寒暖差をもたらしているのは緯度の高さです。
年間の平均降雨量は200mmと他の地域とかわりませんが、標高の高さから来る日照量の強さがないためアルゼンチンワインの特徴ともいえる強いバランスを感じさせず、ヨーロッパのような落ち着いたバランスのワインが多いのが産地としての特徴です。
最も多く栽培されている品種は他と同様マルベックとトロンテスですが、ピノ・ノワールやシャルドネから造られるワインの品質が注目されています。
ワイン評論家ジェームス・サックリング氏の選ぶ2020年のワイン1位に、この地のワイナリー「ボデガ・チャクラ」が選出されたことで一層有名になりました。
栽培されている品種
アルゼンチンを代表する品種は、黒ブドウはマルベック、白ブドウならトロンテスです。
マルベック
マルベックはフランス南西部のカオールが原産で、その地ではオーセロワやコットと呼ばれています。
色調が非常に濃くタンニンも強く感じられるワインを生み出します。アルゼンチンはマルベックの栽培面積が世界一です。
乾燥した日照時間の長いアルゼンチンでは濃厚な色調や芳醇な香りを有し、フルーティーでなめらかなタンニンが感じられるワインとなります。
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トロンテス
トロンテスはスペイン原産で、クロージャとモスカテル・アレハンドリアの自然交配によって生まれたとされています。
リオハーノ、メンドシーノ、サンファニーノという三つの亜種がありますが、ラベルにはトロンテスの名前のみ記載されます。
標高が高く冷涼な土地で持ち味を発揮し、花の香りやエキゾチックな果実の香りが特徴です。
まとめ
ワインに適した素晴らしい土地や気候を持ち、海外の資本が流入したことで高品質なワインを生み出すことに成功したアルゼンチン。
普段はカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなど人気品種のワインを好んで飲んでいるという人は、アルゼンチンのマルベックやトロンテスの個性ある味わいを楽しんでみると新鮮かもしれません。
コストパフォーマンスに優れているという点でも、ぜひオススメしたいワイン産地です。
<参考>
『2019 ソムリエ協会教本』一般社団法人日本ソムリエ協会
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