ボルドーワインと一言にいっても、実は「右岸と左岸」で味わいが大きく変わります。
そこで今回は、ボルドー地方の「右岸・左岸」について詳しくご説明したいと思います。これがわかればボルドーワインを飲むことが、もっと楽しくなりますよ。
どこから見て「右岸・左岸」なのか
「右岸・左岸」とは、川の上流から下流方向を見た際に右手側の岸を右岸、左手側の岸を左岸と言います。
ボルドー地方は、大西洋とそこに流れ込むジロンド川の支流に囲まれた地域。このジロンド川は、その東に流れるドルドーニュ川と南を流れるガロンヌ川が合流した大きな河川です。
ボルドー地方の右岸というと、このうちドルドーニュ川からジロンド川が流れる東側の地域を指し、左岸というとガロンヌ川からジロンド川が流れる西側の地域を指します。
ちなみに、ボルドー地方は下流が北にあるため、地図を見た際にそのまま右側が右岸とわかりやすくなっていますが、他の産地の右岸・左岸を語る場合には注意が必要。
例えば、同じフランスのローヌ地方は下流が南になるため、地図の右側が左岸、左側が右岸となります。
ワインの違い
右岸・左岸と分けて語るくらいですから、それぞれの地域で造られるワインの味わいは異なります。
右岸で造られるワインは、左岸と比べると渋味が穏やか豊満で女性的な味わい。もちろん造られるエリアによって味わいは様々ですが、熟成するとブルゴーニュのような優美さを見せるワインすらあります。
左岸で造られるワインは、右岸と対照的に渋味のしっかりとした男性的な味わいです。典型的なボルドーワインの力強いイメージには、左岸のワインの方が当てはまるかも知れません。
ワイン愛好家の間でよくある右岸派・左岸派トークは、このようなイメージを元に話されています。
品種が違う
では、右岸・左岸のワインの味わいはなぜ違うのでしょうか?その答えはとっても簡単。ブドウ品種が違うからです。
とは言っても、右岸のワインも左岸のワインも使用されているブドウ品種は自体は同じ。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フランなど複数品種のブレンドで造られています。
しかしブレンドの比率が大きく異なり、右岸はメルロが主体、左岸はカベルネ・ソーヴィニヨンが主体。このブドウ品種の性質の違いが、右岸・左岸のスタイルの違いになっています。
土壌が違う
「右岸と左岸の違いはブドウ品種の違い」と言われると、同じボルドー地方で使用する品種がなぜ違うのか気になってきませんか?
その理由は同じ川の対岸にも関わらず、右岸と左岸で土壌が異なるため。右岸の土壌は保水性が高く冷たい粘土質が多く、左岸の土壌は排水性が高く保温効果のある砂礫質(砂利)となっています。
この土壌の違いは、ジロンド川を形成する2本の川、ドルドーニュ川とガロンヌ川の水源が異なり、それぞれの川が運んでくる土が異なるために生じています。
粘土質土壌の右岸では、冷たい環境でも成熟できる早熟なメルロが多く栽培され、一方で、砂礫質土壌の左岸では晩熟するために熱量が必要なカベルネ・ソーヴィニヨンが多く植えられているのです。
どんな地区があるの?
ここまでは右岸・左岸と分けて大きく違いを説明しましたが、実際には同じ岸のワインでも地域によってスタイルが若干変わってきます。
ここではより具体的に右岸・左岸の地域ごとの特徴をご紹介します。
右岸の有名産地
右岸の代表的な産地は、サン・テミリオンとポムロルです。
サン・テミリオン
世界遺産にも登録されている美しい中世の街並みが残るサン・テミリオン。このアペラシオンでは、主にメルロとカベルネ・フランがブレンドされ、ワインが造られています。
比較的大きな地域のため、土壌はポムロルに隣接するグラーヴ(砂利)エリアと、街の周囲に拡がるプラトー(台地)エリアの二つに分けられます。
砂利と聞いてピンときた方もいるでしょうが、実はグラーヴエリアでは砂礫質に向いたカベルネ・フランやカベルネ・ソーヴィニヨンが多く栽培されており、右岸の中でも独特なスタイルのワインを生産しています。シャトー・シュヴァル・ブランがこのエリアの代表的なワインです。
一方、サン・テミリオンの街周辺の台地では、粘土石灰質土壌から優美な味わいのメルロ主体のワインが造られています。サン・テミリオンを代表するシャトー・オーゾンヌはこちらに属します。
ポムロル
ポムロルはサン・テミリオンのように格付けを持たない、比較的新しいワイン産地ですが、シャトー・ペトリュスやル・パンなど、ボルドーで最も高価なワインが造られています。
土壌は粘土質と砂礫質のミックス。中でも、クラス・ド・フェールと呼ばれる酸化鉄を含んだ粘土質土壌が有名で、これがポムロルのワインに個性を与えていると言われています。
ポムロルでもサン・テミリオンと同じようにメルロとカベルネ・フランが栽培されていますが、圧倒的にメルロ比率が高く、ワインは果実味豊かで凝縮感のある味わいです。
その最たる例が、メルロ100%で造られているシャトー・ペトリュスでしょう。
左岸の有名産地
一方、左岸の代表的な産地は、オー・メドックとグラーヴです。
オー・メドック
オー・メドックは、1855年にナポレオン3世による有名な格付けが行われた地域です。
格付けされたシャトーはグラン・クリュを名乗ることを許され、さらにその中で1級から5級までにランク分けされています。よく聞く「ボルドーの5大シャトー」とは、この地区の格付け1級に属する五つのシャトーのことです。
カベルネ・ソーヴィニヨン主体で造られるオー・メドックのワインは、世界の高品質カベルネ・ソーヴィニヨンのベンチマークとなっています。
土壌は砂礫質ですが、下流に行くにつれてドルドーニュ川の影響で、粘土質の割合が増える傾向にあります。
グラーヴ
グラーヴ(砂利)はオー・メドックの上流、ガロンヌ川沿いに拡がる産地。
その名が示すとおり、メドックよりも深い砂礫質の土壌が拡がっているため排水性がさらに良く、雨の多かった年には他の地区に比べて品質が高くなる傾向があります。
ワインはカベルネ・ソーヴィニヨン主体で造られていますが、土壌の違いからオー・メドックと比べると軽やかで芳香性の高いワインが多いです。
5大シャトーの一角シャトー・オー・ブリオンは、この地域にありながらも例外的にメドックの格付けに選ばれたことで知られています。なお、1987年にはグラーヴ独自の格付けも導入されています。
右岸・左岸を代表するシャトー
右岸の代表的なシャトーと言えば、やはりシャトー・ペトリュスではないでしょうか。
1本の値段がおよそ30万円という驚くほどの高額なワインですが、ワイン評論家のロバート・パーカー氏はこのワインを「神話の象徴」だと評するほどです。
世界最高峰のメルロと名高く、絹のような舌触りに上品な果実の甘味、そしてトリュフのような熟成香が特徴です。セカンドラベルはなく、高額なファーストラベルでも愛好家からの需要は高く入手困難で、偽造ワインも出回っているので注意が必要です。
左岸を象徴するのは、果てしなく荘厳な世界観を持つと言われているシャトー・ラトゥール。
カベルネ・ソーヴィニヨンを主体とし、強いタンニンだけではなく全ての要素が高い次元でまとまった味わいは飲むものを圧倒します。ラン・クロと呼ばれるラトゥールの畑は、世界で最もカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に適した畑と言われています。
まとめ
それぞれのポイントをまとめると、右岸は「粘土質、メルロ、女性的」、左岸は「砂利、カベルネ・ソーヴィニヨン、男性的」です。このキーワードだけでも頭の片隅に置いておくと、ボルドーのワインを選ぶ際に役立つかもしれません。
まずは右岸と左岸の赤ワインを飲み比べて、どちらが自分の好みかを考えてみましょう!好きな地域がわかったら、さらにお気に入りのシャトーを探しながら飲むともっとボルドーワインが楽しくなりますよ。