エノテカのワインバイヤーが、ワイン界で活躍する人々をインタビューしてとことん語り合う企画「ワインバイヤーズトーク」。
プロフェッショナルならではの視点で、料理とのマリアージュや最新のワイントレンドに切り込んでいきます。 第3回目となる今回は、江戸前鮨とワインで知られる銀座の名店「鮨からく」の大将、戸川基成さんと、日本人3人目の「リーデル社認定グラス・エデュケイター」の資格をもつリーデル・ジャパンの白水健さんがゲスト。
4月より取り扱いがスタートしたアルザスの名門トリンバックが誇るフラッグシップのリースリング2種と至高のマリアージュを楽しみました。
目次
鯛だけで6皿
バイヤー:
本日はよろしくお願いします!大将には以前銀座ミレでシャンパーニュに合わせて鮨を握っていただいたりと、何かとお世話になっています。今回のネタは今が旬の「鯛」に絞って、鯛だけで6品という無茶なお願いをしてしまいました。でも、このアイディアは大将が執筆された本の34ページに掲載されていた三段活用からヒントを得ました。家庭だと一晩に何種類ものお魚を揃えられないので、一種類の食材で多くの調理法をご紹介した方がトライしやすいのかな、と思いまして。
大将:
よろしくお願いします。今日は同じ鯛でも、江戸前の仕事で様々な味が楽しめる皿を用意しました。
バイヤー:
それと、本日はもう一人助っ人が。リーデル・ジャパンから白水君をお呼びしました。なぜ白水君かと言うと、実は今日紹介するアルザスのトリンバックに僕と2週間遅れで行ったばかりだから。僕が訪問した1月最終週は午後1時で気温がマイナス6℃と極寒でした(笑)
白水:
偶然でしたね!現地の気温は氷点下。すごい寒波でしたね~。今日は、リースリング2種に合わせてぴったりなグラスも用意してきました。よろしくお願いします。
アルザスの名門
バイヤー:
本日ご用意したのは、ちょうど4月1日からエノテカで取り扱いが始まったばかりのアルザスの名門、トリンバックのリースリング2種。トリンバックは1626年にフランス・アルザスで創業、4世紀13代にわたってアルザスワインの歴史と伝統を家族経営で育んできた名門中の名門です。
白水:
リーデルもちょうど昨年で創業260年を迎えたんです。江戸前鮨と、江戸時代から続くワインメーカーのトリンバック、そして当社。時代を超えて受け継がれる伝統があるという点で、見事につながってますね!
バイヤー:
1本目に紹介するのは、リースリング・レゼルヴ。リースリング・クラシックというスタンダードレンジがあるのですが、こちらはグラン・クリュのブドウも使われる素材力の高いワインです。
鯛の刺身 自家製ポン酢
大将:
一見刺身に見えますが、実は鯛の柵に塩を少々振った後、湯引きして水けを拭くという下処理をしています。刺身そのままをワインに合わせると、どうしても生臭みが出てしまいますからね。ご家庭では、柵で買ってきた刺身に塩をして10分~15分ほど置いて水洗いするとよいでしょう。スダチを絞ってどうぞ。
バイヤー:
リースリングに刺身って、ありがちですがなかなか合わせるのが難しい。なるほど、ポン酢にスダチを絞ったW柑橘で生臭みを全く感じませんね。鯛も塩を振って余分な水分が抜けているから、旨味が凝縮している!
白水:ワインにもかなり旨味がありますね。
バイヤー:このリースリング・レゼルヴは、収穫量を抑え凝縮したブドウに由来する果実味のトロッと感に、旨味とミネラルが豊富。鯛の複雑な旨味と同じくらいのレベルだから味わいが同調しますね~。
お酢にワインを加える
鯛の南蛮漬け
大将:
こちらは、揚げた鯛を南蛮酢に一晩漬けた南蛮漬け。お酢と同量のこのリースリング・レゼルヴを加えることによって、ワインと同調させるマリアージュです。
バイヤー:
酸味がまろやかでワインに合いますね。
大将:
マリアージュの基本は「同調」と「補完」だと思っています。例えば、料理に使うポン酢に飲むワインを少し入れてみると、ワインの香りや酸が食事と同調する。例えば、シラーが飲みたい時、シラーがもつふくよかな果実味に合わせるなら甘いタレのアナゴを、スパイシーさを生かしたいなら、山椒を効かせてみる。これも同調のマリアージュです。白身魚の塩焼きに、レモンを振る代わりに酸味の強いワインを合わせると、補完のマリアージュになります。
鯛の昆布締めの握り
大将:
鯛を昆布でサンドして、一晩寝かせて余分な水分を抜いた昆布締めの握りです。
白水:熟成した生ハムみたいな旨味が出てきてますね!上に乗った柚子の香りも立ってます。
バイヤー:トリンバックのワインはマロラクティック発酵していないので、フレッシュな酸が特徴。シャンパーニュのルイ・ロデレールに通じる上質な清涼感が個人的に好きですが、これが酢飯の酸と同調していますね。それに昆布由来のミネラルもワインのミネラルとぴたりとはまってます。
熟成感のあるワインには、熟成からくる旨味を合わせる
バイヤー:こちらはトリンバックが誇るフラッグシップ、クロ・サンテューヌのセカンド的なワイン、フレデリック・エミールです。19世紀にトリンバックの名声を一層高めた功労者、8代目フレデリック・エミール氏へのオマージュを捧げたワイン。2箇所のグラン・クリュ、オステルベルグとガイズベルグのブドウをブレンドして造られ、本日ご用意した2007年は、冷涼な年だったこともあり残糖度が0.7g/Lとかなり低くドライな味わいに仕上がりました。この淡麗辛口なスタイルは長いワイン造りの歴史の中でも初めてだったそうです。
木樽熟成のワインには、火を通した料理を
鯛のソテー バジルソース
大将:こちらは鯛をソテーして手作りのバジルソースであえたものです。旬のたけのこ、菜の花と一緒にどうぞ。
バイヤー:バジルソースってフルーティな白ワインのように香りが強いもの同士だと難しいんですが、これは本当によく合いますね。ワインの熟成による落ち着いた風味が、ソテーした鯛とバジルソースと見事に同調してます。
よいグラス=よいソムリエみたいなもの
バイヤー:ところでこのグラス、脚が長くて、スリムなアルザスのボトルに合いますね。
白水:このグラスはスーパーレジェーロ シリーズで、イタリア語で「軽い」という意味のグラスです。持っていてボウルの重さが気になるグラスもありますが、これは驚くほど軽いのが特徴です。よい道具は使う人のストレスにならないんです。よいグラス=よいソムリエみたいなものですね。黒子に徹してくれるから食事に集中できるんです。
大将:江戸の粋もそうですね。見えないところにこだわって、そっといいものを使う。料理も控えめにワインと合わせるくらいがいい。
鯛の湯引き ごまだれ
大将:こちらは、タイを湯引きしたものにごまだれを添えました。フレデリックさんは熟成からくる香ばしい香りがあるので、ごまだれが合うんです。
バイヤー:大将がワイン名を呼ぶときの”さん付け”好きです。フレデリックさんと聞くと妙に親近感が湧きますから(笑)。このごまだれ、さらっとしていて甘くなくていいですね。フレデリック・エミールの繊細な味わいに合う。
鯛のごまだれ漬け握り
白水:これはからくのスペシャリテですね!
バイヤー:いや~ これは衝撃的な旨さです。とろける鯛の触感とワインの質感が全く同じで口の中でマリアージュが完成しますね。
白水:わさびが結構効いているけどこれがまたよい。
バイヤー:わさびが合うワインって実はあんまりないですからね。ゴマがマスキングしてくれて、わさびがアクセントになっている。大将、今日も素晴らしい料理の数々、ありがとうございました!!
実はこの取材の後に、自分でも試してみたくなり築地場外に鯛を買いに行きました。自宅で柵を塩洗いした後に素揚げして南蛮漬けを作ったのですが、とても簡単で美味しくできました。飲んだのは日本ワインのデラウエアでしたがこちらのマリアージュも素晴らしく、大将が提案する”食材を活かしながら、調理法と調味料でワインに近づき、ピッタリと同調させる”創造力と技術力には畏敬の念を強く抱きました。これからも、江戸前鮨とワインの第一人者として新境地を開拓し続けて頂きたいです。バイヤー
戸川 基成(とがわ きみなり)
平成元年、本格江戸前鮨「からく」を創業。江戸前への回帰をいち早く30年間研究し続け、NHK他民放各局にも多数出演。 世界50か国以上でグローバルに展開している英国ワイン&スピリッツ協会(WSET)認定の資格を持つソムリエでもある。 著書「鮨からく」流ワイン好きに喜ばれる和のつまみ 江戸前鮨とワインの相性を楽しむ/戸川 基成 (著), 中本 聡文 (監修) 世界文化社
白水 健(しらみず けん)
リーデルジャパン オンプレミスマーケットマネージャー/ソムリエ 2016年に行われた料理男子対決「Cook Boss」初代チャンピオン。 日本人3人目のリーデルワイングラスエデュケイター。 リーデルジャパンのグルメ担当として、様々なワインとのフードペアリングを提案。 監修:プロ直伝! 家飲みワイン おいしさの新法則 「料理」と「ワイングラス」が決め手!
今回ご紹介したワイン
リースリング・レゼルヴ 2014
/ トリンバック
(フランス アルザス)
3,300 円 (3,564 円 税込)
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リースリング・キュヴェ・フレデリック・エミール 2007
/ トリンバック
(フランス アルザス)
8,300 円 (8,964 円 税込)
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