ワインは醸造方法の違いにより大きく四つに分類されます。通常のスティルワインとスパークリングワイン(発泡性ワイン)、フレーヴァード・ワイン(混成ワイン)、そしてフォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)です。
スティルワインとスパークリングワインはみなさんもよくお分かりですね。フレーヴァード・ワインはその名称からワインに他の材料を加えて風味を添えたものとイメージできます。
それでは、酒精強化ワインとはどんなワインでしょうか?酒精強化ワインには、歴史のある世界的に有名なワインがいくつかあります。
今回はそんな酒精強化ワインについて解説します。
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酒精強化ワインとは
酒精強化ワインとは、醸造工程中にアルコールを添加して、ワイン全体のアルコール分を高め、味にコクを持たせ保存性を高めたワインのことで、フォーティファイド・ワインとも呼ばれます。
代表的な酒精強化ワイン
・シェリー(スペイン)
・ポート(ポルトガル)
・マデイラ(ポルトガル)
・マルサラ(イタリア)
・ヴァン・ドゥー・ナチュレル(フランス)
・ヴァン・ド・リキュール(フランス)
酒精強化ワインには、赤ワインと白ワインがあり、味わいは甘口〜辛口まで幅広くあります。また、製造過程で熱を加えて熟成させるものや、意図的に酸化させるものなど、通常のワインとは異なるユニークな造り方をするものも多く、同じ酒精強化ワインでもスタイルは多様です。
酵母はアルコール分が一定量を超えると働かなくなり、糖の分解も止まるため、通常のワインより糖分が残った状態になります。
そのため基本的にブドウ果汁の発酵中に酒精強化を行うと果汁の糖分が残って甘口となり、発酵完了後に酒精強化を行うと辛口になります。なお、ヴァン・ド・リキュールは発酵する前のブドウ果汁にブランデーを添加するので全て甘口となります。
酒精強化ワインと普通のワインの違い
酒精強化ワインと通常のワインとの大きな違いはまずアルコール度数です。通常のワインのアルコール度数が概ね10%〜14%であるのに対して、酒精強化ワインは15%以上となります。
また、通常のワインに比べて酒精強化ワインはアルコール度数が高いため保存性も高くなります。一般的に糖度、酸度、タンニンの高いワインほど酸化のスピードが緩やかになるため、糖度の高い甘口タイプが多い酒精強化ワインは、長期熟成が可能であると同時に、開栓後も酸化しにくいのです。
具体的には、シェリーやポートのスタンダードクラスなら開栓前で3年程度、上級クラスのものなら数十年の保存が可能です。また、開栓後も1ヶ月ほどは美味しく飲めますし、意図的に酸化させながら熟成させたタイプなら、さらに数ヶ月持つものもあります。
マデイラは加熱しながら酸化熟成させた酒精強化ワインですから、開栓後もワインの味わいはほとんど変化しません。
酒精強化ワインの種類
スペインのシェリー、ポルトガルのポート、マデイラが世界の三大酒精強化ワインと言われます。さらに、イタリアのマルサラを加えて四大酒精強化ワインと呼ぶこともあります。
代表的な酒精強化ワインについてそれぞれ解説します。
シェリー
シェリーは、スペイン・アンダルシア州の南西部、大西洋岸地域で白ブドウから造られる酒精強化ワインです。
一口にシェリーと言っても、その製法は様々で、透明で辛口のマンサニージャやフィノ、琥珀色のアモンティリャードやオロロソ、極甘口のモスカテルやペドロ・ヒメネスなどのタイプがあり、それらをブレンドしたものもあります。
シェリーの特徴としては、辛口のシェリーを造る際に発生するフロールと呼ばれる産膜酵母のもとで熟成させるか否かによって味わいに大きな差が生まれることと、熟成段階で行われるソレラシステムという独特の製法が挙げられます。
一般的にフロールの膜のもと空気に触れさせずに熟成させた場合のシェリーはシャープな辛口に。アルコール度数が17度以上になるとフロールが生育できないため、酸化熟成させた場合は複雑な風味を持つシェリーとなります。
クリアデラとソレラのシステムとは、味の安定化を図るために、新しいワインが古いワインと徐々に混じり合いながらボトリングされるシェリーの製法です。
具体的には熟成期間の長いワインが入った樽を1番下の段に並べ、次に古いワインが入った樽をその上の段に並べ、さらに若いワインが入った樽をその上の段に並べて、1番下の段(ソレラ)からボトリングが行われると、ソレラの減った分はすぐ上の段(第1クリアデラ)の樽から補充し、2段目の樽の目減り分は3段目の樽から補充するというシステムです。
辛口シェリーはなんといっても食前酒に最適。オリーブや生ハムなど塩味の効いた前菜やおつまみとは最高の相性です。
また、甘口のシェリーにはフォアグアやパテ、極甘口のシェリーはバニラアイスクリームのソースにすると絶品となります。
ポート
ポートは、ポルトガル北部のドウロ地方で造られる酒精強化ワインで、アルコール度数は19度〜22度までに限定されています。
ポートは黒ブドウから造られる「レッド・ポート」と白ブドウから造られる「ホワイト・ポート」、「ピンクポート」とも呼ばれるロゼのポートに分類されます。主に生産されているのはレッド・ポートで、さらにルビータイプとトゥニータイプに区別できます。
ルビータイプは、平均3年間の樽熟成後に瓶詰めされる若いタイプのポートで、ワインの色が宝石のルビー色をしていることからルビーと呼ばれます。
基本的にポートは複数年の熟成ワインをブレンドして造られますが、ルビータイプには特に優れた作柄のブドウから造られた単一年のヴィンテージ・ポート、またそれに続くと思われる作柄のブドウから造られたレイト・ボトルド・ヴィンテージ・ポート等も含まれます。
比較的リーズナブルでフレッシュな果実味が味わえるものから、100年以上の熟成が可能とされる高級なヴィンテージ・ポートまで様々です。
トゥニータイプは、小さい樽で熟成させるなどして酸化が進み、ワインが黄褐色に変わったことから トゥニー(=黄褐色)と呼ばれます。
10年、20年、30年のように熟成年数が表記されたものや、単一年に収穫されたブドウだけを使い、収穫後7年以上樽で熟成をしてから瓶詰めされるコリェイタがあります。
甘口のポートはチョコレートやブルーチーズとよく合います。ポート最大の輸出国であったイギリスでは、イギリスのブルーチーズ「スティルトン」と合わせるのが今も昔も定番です。
マデイラ
マデイラとは、ポルトガルの首都リスボンから南西に1000kmの北大西洋の沖に浮かぶマデイラ諸島で造られる酒精強化ワインです。
酒精強化ワインの中でもとりわけ寿命が長く、100年以上前のマデイラが数多く現存しており、それらは今でも美味しく飲むことができます。
原料となる主なブドウ品種は白ブドウがセルシアル、ヴェルデーリョ、ボアル、マルヴァジア、テランテス、黒ブドウはティンタ・ネグラで、ブドウ品種によって甘口から辛口まで味わいは異なります。また、マデイラは添加するグレープスピリッツのアルコール度数が96度と高く、アルコール度数は17〜22度と決められています。
マデイラの最大の特徴は酒精強化を行った後に加熱を行うことで、この製法により独特の香ばしい風味が生まれます。
この製法は大航海時代の17世紀、アメリカ新大陸の航路上に位置したマデイラ島で積み込まれたワインが、赤道を横切る暑くて長い航海を終えると特有のフレーヴァーを呈していたことに由来しています。
加熱方法は温水を使う人口加熱(エストファ)と、太陽による自然加熱(カンテイロ)があり、加熱後は3年以上樽で熟成させてから出荷されます。
一般的に辛口のセルシアルとヴェルデーリョは食前酒に、甘口のボアル、マルヴァジアは食後酒として飲まれています。
ただ、より気軽に楽しみたいならソーダ割がおすすめです。辛口でも甘口でも適度な酸味が爽やかでとても飲みやすく、ハイボール感覚で身近な家庭料理と合わせることができます。
マルサラ
マルサラはイタリアのシチリア島の西端で造れられる酒精強化ワインで、色と味わい、さらには製造方法や熟成期間により分類され、呼び名が変わります。
シチリアの土着品種である白ブドウのカタラッロやグリッロ、黒ブドウのネレッロ・マスカレーゼなどから造られます。
マルサラは、ワイン、ワインから蒸留した添加用ブランデー、ブドウジュースを1/3になるまで煮詰めたモスト・コット、ブドウジュースに蒸留したブランデーを加えたミステッラ、これら四つの材料から造られ、色はオーロ(黄金色)、アンブラ(琥珀色)、ルビーノ(ルビー色)、味わいはセッコ(辛口)、セミセッコ(半辛口)、ドルチェ(甘口)と様々なスタイルがあります。
また、マルサラの特徴として必ずオーク樽で熟成させることが挙げられます。そのため、マルサラには香ばしい木の香りやカラメルのようなブーケがあります。
マルサラは料理に使われることも多いのですが、食前、食後酒としてももちろん楽しめます。甘口のマルサラにはシチリア現地で食べられているような素朴な焼き菓子やアイスクリームなどと合わせると良いでしょう。
まとめ
酒精強化ワインの辛口は食前酒に、甘口は食後酒に飲まれることが多いですが、特に決まりはありません。
食前に飲めば強めのアルコールが胃を刺激して食欲が増進するでしょうし、食後にチーズやデザートと合わせれば至福のひと時となるでしょう。是非一度お試しください。
参考: 日本ソムリエ協会 教本 2020
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