スティルワインに薬草類や果実、甘味料、エッセンスなどの香味を加え、独特の風味を添えたフレーバードワイン。その代表的なものがヴェルモットです。

よく知らないし飲んだこともないと言う人が多いかもしれませんが、有名なカクテルの材料として使われていることが多いため、そうとは知らずに口にしたこともあるかもしれません。

今回はワイン好きなら知っておきたいヴェルモットを解説致します。

ヴェルモットとは白ワインをベースに数種、多いものでは数十種もの香草・薬草類や糖分、植物性香辛料などを配合し、さらにスピリッツを加えて造られるフレーバードワインで、名前はドイツ語の「wermut＝ニガヨモギ」に由来しています。

アルコール度数は14％〜20％で、日本の酒税法上では果実酒ではなく甘味果実酒として扱われています。

主にイタリア、フランス、スペインなどで生産されており、産地や造り手ごとにそれぞれ味わいは異なりますが、香草や薬草の風味の影響を受け、やや苦味があるのが特徴です。

配合される材料はニガヨモギをはじめアンジェリカ（セリ科の植物）、ビター・オレンジの皮、カルダモン、フェンネル、ジュニパー・ベリー、ナツメグ、コリアンダー、グローブなどで、全容は基本的に造り手の企業秘密とされています。

イタリア発祥の「マルティーニ」や「チンザノ」、フランス発祥の「ノイリー・プラット」といったブランドが有名です。

ヴェルモットには甘口のスイートと辛口のドライがあり、配合される材料はそれぞれ異なります。

かつてフランスではドライ、イタリアではスイートのベルモットが造られていましたが、現在は両国でスイートとドライ両タイプのベルモットが造られています。

イタリアのピエモンテ地方で主に造られていたため イタリアン・ヴェルモットとも呼ばれます。

カラメルで着色している淡褐色のベルモットは「ロッソ」と呼ばれ、着色を行わないフレッシュでさっぱりとしたテイストのベルモットは「ビアンコ」と呼ばれます。

ロッソはビアンコに比べて全体的に香りや苦味などが強いのが特徴ですが、どちらも甘口となります。

エントロイド・ベルムット・ブランコ ／ バルミニョール

主にフランスで造られていたためフレンチ・ヴェルモットとも呼ばれます。

スイート・ヴェルモットよりもクセがなく、スッキリとした味わいです。

ヴェルモットはイタリアやフランスでは食前酒や食後酒として親しまれています。ドライ・ヴェルモットは主に食前酒に、スイート・ヴェルモットは食後酒で楽しむのが一般的ですが、特に決まりはありません。

カクテルから料理まで様々な楽しみ方ができるベルモット。そんな飲み方について解説します。

ヴェルモットは様々なカクテルの材料として使われています。一度は飲んだことのある、あの有名なカクテルにもヴェルモットが使用されています。

それぞれの飲み方とレシピについては後述します。

カクテルの材料として使われることの多いヴェルモットですが、もちろんワインのようにストレートで飲んでも構いません。ポイントはスイートでもドライでもしっかり冷やしておくことです。

また、ゆっくり楽しむならオンザロックもおすすめです。

通常のワインよりアルコール度数が高いのでソーダで割ると飲みやすくなり、お酒の弱い方にはおすすめです。

なお、開栓した後は通常のワイン同様少しずつ風味が劣化しますので、冷蔵庫に保管し、早めに飲み切る方が良いでしょう。

爽やかな香草の風味が楽しめるスイート・ヴェルモットのソーダ割は食前酒としても人気です。

ヴェルモットは料理にも使えます。例えば、魚介をソテーした後のフライパンにドライ・ヴェルモットを入れて火にかけ、煮詰まったところにバターと塩胡椒、最後にレモンをしぼれば絶品ソースの出来上がりです。

スイート・ヴェルモットはステーキの仕上げにフランベすると、香り良く焼きあがります。また、バルサミコと一緒に煮詰めたところに醤油を少し垂らせば、ステーキのソースにも。是非、お試し下さい。

ヴェルモットを使ったカクテルについて、レシピとともに紹介します。

辛口カクテルの代表的な存在で“カクテルの王様”と言われています。偉大なカクテルだけにアレンジしたレシピが数多く存在しますが、第二次世界大戦以降、味わいはよりドライ化しています。

レシピはあくまでも参考例で、今日ではジン3～4に対してヴェルモット1が標準的とされ、これよりジンが多い場合はドライ・マティーニと呼ばれます。

アメリカの32代大統領フランクリン・ルーズベルト氏や英国の首相ウィンストン・チャーチル氏筆頭に、多くの著名人に愛されたカクテルです。

中でも有名なのが、ウィンストン・チャーチルの逸話。超辛口派だったチャーチルは、マティーニにヴェルモットを入れることなく､ベルモットの瓶を横目で見ながら（正面から見ると甘すぎるため）ジンを飲んだと言います。

また、映画007シリーズの主人公ジェームスボンドもことあるごとにマティーニを嗜んでいますね。

世界で最も有名なカクテルの一つ、マンハッタン。赤みがかった美しい色のカクテルで“カクテルの女王”と呼ばれ、マティーニと並び称されています。

英国のチャーチル首相の母親がニューヨークのマンハッタン・クラブでパーティーを催した時に、ウイスキーとスイート・ヴェルモットの組み合わせを提案したところ好評を博し、クラブの名前にちなんで「マンハッタン」と名づけられたと言われています。

ベースのウイスキーはライ・ウイスキーを使うことが多いですが、バーボンを使用する場合もあります。一般的には、カナディンアン・ウイスキーを含めてアメリカンタイプのウイスキーを使用します。

スイート・ヴェルモットをドライ・ヴェルモットに変えればドライ・マンハッタンになります。

イタリアで生まれた歴史の古いカクテル。

レシピには2通りあり、本来はカンパリではなくビター・ヴェルモット（※3）を使うレシピが正式とされていますが、現在はカンパリをビター・ヴェルモットの代用として使うレシピが広く認知されています。

イタリアのフィレンツェの老舗リストランテ「カソーニ」の常連客だった美食家のカミーロ・ネグローニ伯爵の名に由来するカクテル。

1919年、ネグローニ伯爵のアメリカーノを少し強くしてほしいという要望に「カソーニ」の名バーテンダー、フォスコ・スカルセーリが応え、ソーダをジンに代えて提供したのが始まりと言われています。

キャロルとは「讃歌」という意味。ブランデーベースのマンハッタンと言えます。

マラスキーノ・チェリーの代わりにバールオニオン（カクテルオニオンとも呼ばれ、豆粒ほどの小さなオニオンの酢漬け）を飾ることもあります。

食前酒や食後酒として、ワインのようにストレートはもちろん、ロックでもソーダ割でもおいしく飲め、カクテルの材料として多用されるほど他のお酒との相性も良く、その上様々な料理の隠し味にもなるヴェルモット。

こんなに汎用性の高いお酒も珍しいのではないでしょうか？

おまけに日本で手に入る有名ブランドのヴェルモットは安定した品質で比較的リーズナブルです。

今度はバーではなくご家庭で、是非自分好みのヴェルモットの楽しみ方を見つけて下さい。