シャンパンとスパークリングワイン、どちらも特別な瞬間を華やかに彩る泡立ちのあるワインですが、その違いをご存知ですか?シュワシュワと泡が弾けるワインがすべて「シャンパン」だと思っていませんか?
この記事では、混同されがちな「シャンパン」と「スパークリングワイン」の違いについて、ソムリエの解説付きで詳しくご紹介します。
解説してくれるのは、紫貴あきさん
ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。初心者から上級者まで唸らせる質の高いレッスンが評判で、その指導実績は3500人超。その他、企業研修、メディアへの執筆・監修・取材協力、出演など幅広く活動している。 著書『ゼロからスタート! 紫貴あきのソムリエ試験1冊目の教科書』(KADOKAWA)を2024年3月28日に出版。
スパークリングワインとは?
スパークリングワインとは、その名の通り発泡したワインのことで、炭酸ガスを瓶の中に閉じ込めたワインの総称です。
つまり、世界各国どこでどんな風に造られていようと、発泡しているワインはすべて「スパークリングワイン」と言えます(※)。
つまりシャンパンもスパークリングワインの一つということです。世界にはシャンパン以外にもカヴァやプロセッコ、ゼクトなど、他にもさまざまなスパークリングワインが存在します。
※ O.I.V.の規定では、スパークリングワインは20℃で3.5bars以上の炭酸ガスを有するものと定義している
前述したように発泡しているワインを「スパークリングワイン」と言いますが、スパークリングワイン(Sparkling Wine)は英語ですから、発泡性ワインを意味する呼び名は国(言語)によって異なります。
フランスではヴァン・ムスー、イタリアではスプマンテ、スペインではエスプモーソ、ドイツではシャウム・ヴァイン。これらも「スパークリングワイン」との違いがややこしくなりがちなワイン用語ですが、各国のスパークリングワインの総称です。
スパークリングワインの特徴である泡立ちを生む方法は大きく分けて三つ。「トラディショナル方式」「シャルマ方式」「トランスファー方式」に分けられます。
トラディショナル方式(シャンパン方式)
一つ目がトラディショナル方式。一次発酵を終えたスティルワイン(発泡していないワイン)に酵母と糖分を加えて瓶詰めし、密閉した瓶内での二次発酵で泡を発生させる方法です。
ゆっくりとワインを発酵させるため、きめ細かな泡が生まれます。時間と手間、コストもかかることから造られるスパークリングワインは高価格帯になることが多いです。
シャンパンもこの製法で造られるため、シャンパン方式と呼ばれることもあります。
シャルマ方式(タンク方式)
シャルマ方式はスティルワインを大きなタンクで二次発酵を発生させる方法です。トラディショナル方式よりもコストがかからず、短期間で大量に生産できます。
製造の過程で空気に接触しないため、フレッシュでフルーティーな味わいに仕上がります。
トランスファー方式
最後がトランスファー方式。瓶内で二次発酵させたワインを加圧したタンクに移し冷却、ろ過してから新しいボトルに詰め替える方式です。
トラディショナル方式の工程を一部省いたものでコストを抑えることができます。
スッキリとした味わいのスパークリングワインに仕上がります。
どうしたらシャンパンと名乗れるの?
スパークリングワインの一種がシャンパンということはご説明しましたが、ではどうしたら「シャンパン」と言えるのでしょうか。それにはワイン法で定められた厳しい規定をクリアする必要があります。
紫貴さんに以下の三つの条件について詳しく解説いただきます。
- 産地
- ブドウ品種
- 製造方法
紫貴さん
最も重要な規定のうちの一つは産地です。シャンパンと名乗れるのは、フランスのシャンパーニュ地方で生産されたものだけです。同じフランス国内でも、ブルゴーニュ地方やアルザス地方で作られたスパークリングワインはシャンパンとは名乗れません。 次に使用するブドウ品種です。ワイン法では八つの品種を使用することが認められており、それ以外の品種を使った場合は「シャンパン」とは名乗れません。 八つの品種の中でも、黒ブドウ品種のピノ・ノワールとムニエ、白ブドウ品種のシャルドネの三つが主要品種として使われています。 最後に製造方法です。シャンパンは「トラディショナル方式」という、もっとも手間暇がかかる手法で造らなくてはなりません。 この他にも、醸造や貯蔵工程の中で、ブドウはどれくらいまで搾っていいか、最低どれくらい熟成させなければならないか……などなど気が遠くなるほど、細かな規定がたくさん設けられているのです。
このような厳しい法律が定められたのには歴史が関わっています。
18世紀以降、シャンパンが商業化されると、この地方の一大産業に発展しました。華やかなシャンパンはフランス宮廷でも人気となり、シャンパンを愛飲していたナポレオンの遠征にともなってヨーロッパ各地に広まりました。
その後、高品質で評判の良いシャンパンは、「シャンパン」と名乗れば高く売れたため偽造品が横行したのです。
それを防ぐため、厳しい法律が定められるようになりました。
ちなみに日本で馴染みのある「シャンパン」という呼び名はCHANPAGNEの英語読み。フランスでは「シャンパーニュ」と呼ばれます。
価格と味わいの違い
他のスパークリングワインと比べてシャンパンの価格が高いなと思ったことはありませんか?この理由を紫貴さんに教えてもらいました。
どうしてシャンパンは高いの?
紫貴さん
シャンパンが高価な理由は、栽培からワイナリーまで、すべての段階で高いコストがかかるためです。 まず、シャンパンの原料となるブドウを栽培するのは簡単なことではありません。シャンパーニュ地方はフランス最北部に位置し、冷涼な気候と春霜の脅威にさらされています。春先、ブドウの芽が出てきたところで霜が降りれば、芽が台無しになり、その年の収穫に大きな影響を及ぼします。そのため、ブドウの栽培コストが高くなりがちです。 次に、上述したようにワイン法で厳しい規定がたくさん設けられているからです。例えば、ブドウは優しく搾る必要があり、4000㎏のブドウから最大2550ℓの果汁しか搾ることは許されていません。 また、シャンパンは熟成期間が長く、ノンヴィンテージ(収穫年表示なし)の場合でも最低15ヶ月、ヴィンテージ・シャンパン(収穫年表示あり)では最低36ヶ月の熟成が必要です。多くの生産者はこれらの最低期間を超えて、5年、10年……と長期間熟成させるため、キャッシュフローが悪くなることも一因です。 これらのことから、シャンパンは他のスパークリングワインに比べて高価になるのです。
シャンパンの味わいは?
手間暇かけて造られるシャンパンの味わいについても訊きました。
紫貴さん
シャンパンの味わいを語るうえで外せない、二つのキーポイントがあります。 一つは、酸の高さです。シャンパンは高緯度で造られているために酸が高く、爽やかですっきりとした味わいがあります。この高い酸は長期熟成にも一役買っています。 二つ目に、長期熟成されていることです。シャンパンを造る過程で、瓶内で「オリ(アルコール発酵をつかさどる酵母が活動を終えて堆積したもの)」と一緒に寝かされます。このとき、ワインに焼いたパンやブリオッシュなどの香りが付与され、ワインの香り・味わいに深みが増します。同時に、泡が細かく繊細になるばかりか、なめらかな口当たりのワインにもなるのです。
このように手間暇かけて造られたからこそ高品質になり、他のスパークリングワインより価格が高くなります。スパークリングワインの中でも一目置かれる存在なのはそのためです。
シャンパンの有名生産者
知っておきたいシャンパンの生産者をご紹介します。とっておきのシャンパンを選ぶ際などの参考にしてください。
ルイ・ロデレール
紫貴さん
1776年創業の名門シャンパンメゾンです。 以前より持続可能なワイン造りを目指して、ビオディナミという農法を取り入れています。伝統と革新を融合させた醸造技術により、繊細でバランスの取れた味わいが特徴です。 豪華なパッケージのプレミアムシャンパン「クリスタル」は、ロシア皇帝が寵愛したことでも有名です。一度は飲みたい憧れのワインではないでしょうか。
モエ・エ・シャンドン
紫貴さん
自社畑と契約農家のブドウを使用して造られた「モエ・アンペリアル」は、世界で最も売れているシャンパンです。実際、その販売数は、3秒に1本世界のどこかで開けられている計算になるとか。 人気の秘密は、フルーティーでバランスの取れた味わい。誰が飲んでも美味しい味わいはクセがなく万人受けするスタイルです。
モエ・エ・シャンドン モエ・アンペリアル [ボックス付]
泡
エレガント&コンプレックス
世界中で愛され続ける、屈指のシャンパーニュ・メゾン。1869年の誕生から世界中の愛好家に愛され続ける、フレッシュでエレガントなスタイルの1本。 詳細を見る
3.9
(9件)8,745 円
(税込)
WS 92
ドン ペリニヨン
紫貴さん
シャンパンの進化に大いに貢献をした伝説的修道士ドン・ペリニヨン(1638年-1715年)の名を冠したシャンパンメゾンです。 厳選された収穫年のブドウを使用し、ヴィンテージシャンパンのみを造ります。 圧倒的に豊かなアロマと複雑な風味、滑らかな泡立ちは、ラグジュアリーな気分に誘ってくれます。
シャンパン方式で造られる世界のスパークリングワイン
スパークリングワインにはさまざまな造り方がありますが、シャンパンと同じトラディショナル方式(シャンパン方式)で造られるスパークリングワインは、もちろん!シャンパンだけではありません。
ここではそんな世界のスパークリングワインをご紹介します。シャンパン同様、高品質なものが多いのでぜひ選択肢に入れてみてくださいね。
クレマン
紫貴さん
フランスのシャンパーニュ地方以外(ブルゴーニュ、ロワール、アルザス、ボルドーなど)の場所で産出されるスパークリングワインです。 シャンパーニュ地方同様、トラディショナル方式で造られますが、使用して良い品種が地方ごとに違います。 シャンパンと比べるとたいてい熟成期間が短いため、香りが穏やかで、お財布に優しいものが多いのが特徴です。
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カヴァ
紫貴さん
スペインの北東部で造られるトラディショナル方式のスパークリングワインです。 ブドウ品種はマカベオ、チャレロ、パレリャーダといった地元の品種主体に造られます(昨今、ピノ・ノワールやシャルドネも許可されました)。 一般的に、シャンパンと比べると熟成期間が短いために、フレッシュで軽く気軽に楽しめるものが多いです。品質の高さとコストパフォーマンスの良さが人気の秘密です。
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フランチャコルタ
紫貴さん
イタリアの北部のロンバルディア州で産出されます。シャンパン同様、トラディショナル方式で造られますが、品種にはシャルドネ、ピノ・ノワールに加えてピノ・ビアンコ、エルバマットが使われます。 ロンバルディア州は、シャンパンと比べると低緯度に位置するために、酸が穏やかで、フルーティーな味わいが特徴です。一方で、長期熟成を経て産出されるために、シャンパンに比肩する細やかで繊細な泡立ちが楽しめます。
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シャンパンにピッタリな料理
スパークリングワインは、泡立ちによる爽やかな飲み心地や綺麗な酸味からさまざまな料理と相性が良いのも人気の理由の一つです。
乾杯のお酒としてその場に華を添えるだけでなく、サラダや前菜、魚料理や肉料理などどんな食事にも寄り添うでしょう。
紫貴さんにおすすめのペアリングを訊きました。
紫貴さん
特におすすめしたいのが寿司とシャンパンのペアリングです。ネタごとに白ワイン、赤ワインと変えるのは忙しいもの。オールラウンダーなシャンパンなら最初から最後まで1本で通せます。ラグジュアリーな雰囲気を合わせるという点でもピッタリです。 デザートとのペアリングもおすすめです。映画『プリティーウーマン』ではリチャード・ギアが娼婦演じるジュリア・ロバーツに、「淑女の組み合わせ」として、シャンパンとイチゴをすすめるシーンがあるほど。イチゴのショートケーキやムースと合わせてみたいですね。
まとめ
シャンパンにも他のスパークリングワインにもそれぞれの良さがあるので、例えば、贅沢な気分を味わいたいならシャンパン、気軽にたくさん飲みたいなら手頃なスパークリングワインというように、TPOに応じて選び分けると良いですね。
ぜひお気に入りのものを見つけてみてください!
文=川畑あかり
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