ワインの世界では「テロワール」という言葉がよく聞かれます。この言葉を辞書でひくと「風土の、土地の個性の」と記されていますが、もっと身近な言葉でいえば「その場所らしさ」ということができるでしょう。
その中には、日照時間が長い、雨が多いなどの“気候タイプ”もあれば、石灰質なのか砂利質なのか等“土壌の個性”などがあげられます。
今回エノテカでは、このテロワールを存分に表現した日本酒の取り扱いをスタートすることが決まりました!
老舗酒蔵「萬乗醸造」が新たにスタートした「㊈久野九平治本店」です。米を生み出す田のテロワールにこだわり造られるこの日本酒。いったいどんな日本酒なのかご紹介します。
萬乗醸造とは?
萬乗醸造は、“田や畑のドラマを映し出すお酒を造る”という哲学のもと酒を造り、世界的な日本酒の価値を高めている酒蔵です。
その歴史は古く、創業は江戸時代1647年。代々の当主が「九平治」を襲名し、現当主の久野九平治氏は15代目となります。
この15代目九平治氏の情熱こそが、萬乗醸造の原動力です。先代までの機械的な大量生産のスタイルから、手仕事にこだわった高品質な酒造りへ転換すると、新しいブランド「醸し人九平次」をリリース。
瞬く間に世界的な評価を獲得し、フランスの三ツ星レストランなどにオンリスト。2007年にはニューズウィーク誌の「世界が尊敬する日本人100」に選出され、世界的に知られる酒蔵となりました。
そんな九平治氏が2000年にスタートした新たな取り組みが、自社栽培の米を使った日本酒造りにこだわった「㊈久野九平治本店」と、本場ブルゴーニュでワイン造りに挑戦する「DOMAINE KUHEIJI」なのです。
テロワールを表現する日本酒「㊈久野九平治本店」
2010年に米栽培からスタートした「㊈久野九平治本店」。
これまでも萬乗醸造では「醸し人九平次」という日本酒を造っていましたが、「テロワールを表現した日本酒を造りたい」という想いから、2010年に新たにこのプロジェクトをスタートさせました。
その特徴はなんと言っても、テロワールや収穫年の個性を反映させた日本酒造りに挑戦した“ドメーヌスタイル”です。従来、日本酒は買米で醸造するのが一般的ですが、ワインの醸造家はブドウ栽培からワイン造りまでを一貫して行います。
フランスで日本酒の啓蒙活動を行っていたころ、交流のあったソムリエやシェフから「米は自分達で育てているの?」と問われ、勉強はしていたものの彼らの自ら葡萄を育てているという自負には立ち向かえなかったと、九平治氏は言います。
また、彼らの中に入り込もうとしている身としては、幾ら説明しても自分で米を育てていない事への後ろめたさが募ったそう。
そんな気持ちを打破すべく、萬乗醸造は2010年に兵庫県で米作りをスタートします。
本拠地を置く兵庫県黒田庄町の地は、山田錦の原産地であり最適な育成条件が揃う地域の一つ。ここで栽培された山田錦は骨格と複雑味のある日本酒を生み出します。
そしてヴィンテージや田んぼのテロワールを表現するために、ヴィンテージつきの「田高」「福地」「門柳」の3つの区画違いのキュヴェを2021年よりリリース。山田錦の持つ、品と優しさ、そして熟成のポテンシャルに加え、各テロワールの特徴が存分に発揮されたのがこの「㊈久野九平治本店」なのです。
㊈久野九平治本店の日本酒一覧
ブルゴーニュでの新たな挑戦「DOMAINE KUHEIJI」
萬乗醸造が行うもう一つの挑戦が、ブルゴーニュのモレ・サン・ドニで2013年に創業したワイナリー「DOMAINE KUHEIJI」です。
この挑戦のきっかけは2000年代前半の焼酎ブームだったと言います。日本国内の空前の焼酎ブームを目の当りにして、日本酒が売れない悔しさ、このままでは日本酒が衰退してしまうのでないかという危機感が募りました。
そこで「日本酒の価値を何とか上げたい」という想いから決断したのが、フランスでの日本酒普及の挑戦でした。
フランスに渡り、世界のワインマーケットの大きさ、桁違いの取引価格、造り手に対するリスペクトなどを目の当たりにした久野九平治氏は、「ワインを理解しないと世界で日本酒を広めることが出来ない」と考えるように。
ならば、世界が美味しいと認めてくれるワインを自ら造ろうと決意しました。そうして生まれたのが、このDOMAINE KUHEIJIです。
栽培醸造責任者は萬乗醸造で15年にわたり日本酒造りに携わってきた伊藤啓孝氏です。プロジェクトを開始したばかりのころは苦労が絶えなかったと言います。
単身でブルゴーニュに渡ったもののはじめは言葉もわからず、まずは語学学校に通うところから始まり、他にも就労ビザの取得など、ワイン造りを始める前の部分で時間を要したそう。
また、周囲の人ともはじめは距離を感じたそうです。それでも「石の上に三年」という気持ちで努力を続けていくうちに、周囲からだんだん声をかけられ、その存在を認められるように。
そして2020年、ついに2017年ファーストヴィンテージのリリースに至ります。プロジェクト開始から7年の歳月が経っていました。
現在、DOMAINE KUHEIJIでは赤ワイン白ワイン合わせて12銘柄を造っています。生み出すワインの特徴は、総じてエレガント。日本酒におけるクヘイジスタイルの特徴の一つでもある「上品な酸」がワインにおいても表現されています。
ドメーヌ・クヘイジのワイン一覧
まとめ
テロワールにこだわり、その土地の個性を最大限に表現するべく生み出された、日本酒「㊈久野九平治本店」と、「DOMAINE KUHEIJI」のワイン。
その裏には老舗酒蔵の日本酒にかける熱い想いと、原料を自ら生み出しテロワールを表現することへのリスペクトがありました。こうして生み出される日本酒・ワインは、その垣根を超えて飲む人を魅了することでしょう。
萬乗醸造の新たな挑戦の結晶である日本酒とワインを堪能してみてはいかがでしょうか。