「ネゴシアン」という言葉を耳にしたことはありますか。
ネゴシアンとは、フランス語で「卸売業者」を意味します。ワインの流通に携わる業者を指すことが多く、主にブルゴーニュ地方でブドウ農家がつくったブドウや果汁、ワインを樽で買い付け、ブレンド・熟成・瓶詰を行い、自分たちのラベルを貼って販売する生産者のことをいいます。
そのネゴシアンの中でも、並々ならぬワインへの情熱と奇抜とも言えるワイン造りで世界中から称賛を集めているのが、今回ご紹介するルシアン・ル・モワンヌです。
その実力はワイン・アドヴォケイト誌で「彼は短期間で最も優れたネゴシアンの一つを作り上げた」と称賛され、ブルゴーニュワインを語らせれば右に出るモノはないと言われているほど。
今回は、ルシアン・ル・モワンヌをトップネゴシアンたらしめる理由をご紹介します。
ミクロ・ネゴシアンの先駆け的存在
ルシアン・ル・モワンヌは、当主のムニール・サウマ氏と妻のロテム女史によって1999年に設立されたワイナリーです。
当主のムニール氏は元シトー派の僧侶。シトー派と言えば、ブルゴーニュ全域にワイン造りを広め、現代のブルゴーニュにおいてアペラシオンの基礎を築いたテロワール研究の祖と言われています。サウマ氏は僧侶時代にブルゴーニュワインに開眼し、ワインの世界へ足を踏み入れたというなんともユニークなキャリアの持ち主です。
そんな彼らは、ネゴシアンの中でも小規模な生産者を示す「ミクロ・ネゴシアン」と呼ばれています。ミクロ・ネゴシアンのほとんどは契約しているブドウ畑の仕事を手伝い、果実や果汁の状態で買い付けて醸造を行います。つまり、土地を所有していないだけで仕事の内容はドメーヌとほとんど同じ。
ルシアン・ル・モワンヌは、このスタイルをワイナリー創業当初から貫き、現在ではオリヴィエ・バースタインとともに、ミクロ・ネゴシアンを代表する生産者として世界にその名を轟かせています。
錚々たるアペラシオン
ルシアン・ル・モワンヌが手掛けるワインはコート・ドール全域にわたり、グラン・エシェゾーをはじめ、コルトン・シャルルマーニュやムルソー・プルミエ・クリュ、ヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュなど、錚々たるグラン・クリュやプルミエ・クリュばかり。
ワイン造りのもととなる果汁の購入先は、それぞれのアペラシオンでテロワールをもっともピュアに表現している造り手を毎年厳選し決めているそう。畑の所有者の名は一切公表されていませんが、誰もが知る錚々たる名門ドメーヌばかりが名を連ねているといいます。
究極の目利きで選び抜かれた畑から生み出されるルシアン・ル・モワンヌのワインは、その年の最高キュヴェを集めた夢のコレクションなのです。
型破りなワイン造り
彼らのこだわりは購入する果汁選びだけではありません。ワイン造りにも、その並々ならぬ情熱が注ぎ込まれています。
中でも特筆すべきは、他の生産者と一線を画す特殊な熟成方法です。ブルゴーニュのドメーヌは熟成させるためのセラーが限られていることもあり、熟成期間は基本的に1年です。しかしルシアン・ル・モワンヌは、倍の25ヶ月以上の熟成を行います。
しかもその間、酸化を避けるために澱引き、ピジャージュ、ルモンタージュを一切行いません。さらに酸化防止剤(亜硫酸塩)を添加せず、ワインから出た澱と炭酸ガスで酸化を防ぐという、なんともユニークな手法で熟成を行っているのです。
また、彼らのこだわりは使用する木樽にまで及びます。樽はクーパーと呼ばれる樽職人が作ったものを購入するのが一般的ですが、彼らはなんと自らの手で樽を造っています。使用するオークは、各ワイン(区画)とヴィンテージの特徴に合わせて炭であぶるというこだわりぶり。
このように、随所で彼らのワイン造りへの情熱を垣間見ることができます。
このように特殊な醸造方法をとる理由についてムニール氏は、「できうる限りシンプルにというのが大切。しかし言うのは簡単だが、実際に行おうとすると難しい。ブドウがもつエネルギーを最大限にワインに宿せるというのがポイントで、自然へのリスペクトを考えてこのスタイルとなっている。」とコメントしています。
これらのこだわりから生まれるワインは、ピュアさを突き詰めた味わい。その個性溢れるワイン造りと、美しい味わいで世界中のワインのプロたちをも魅了しているのです。
満を持して自社畑100%でのワイン造りをスタート
彼がブルゴーニュの次に目を付けたのは、南フランスの銘醸地ローヌでした。ローヌではネゴシアンという形ではなく、自社畑を手に入れてワイン造りを開始。
ローヌを新天地として選んだ理由は、ローヌの代表品種グルナッシュとピノ・ノワールの共通点です。
グルナッシュについてムニール氏は、「常にピノ・ノワールとグルナッシュ・ノワールは双子のような存在と考えており、圧搾すると両方とも白いジュースになる。ブドウ自体が個性的なフレーバーを持つシラーやカベルネと違ってニュートラルな品種で、取り巻く環境を反映する”テロワールのベストアンバサダー”である」とコメント。
ピノ・ノワールでブルゴーニュのミクロクリマを追求してきたムニール氏は、今度はグルナッシュでローヌのテロワールを表現しようと決意したのです。
ブルゴーニュと同様、こだわりの醸造方法を実施しており、そのコンセプトは極限まで人の手を介入させない「100年前のワイン造り」と実にユニーク。収穫したブドウは低温浸漬後、発酵から熟成までなんと2~3年もの間、木樽を密閉したままという異例の手法がとられています。
こうして生み出されるワインは、まるでブルゴーニュ グラン・クリュのような極上の仕上がり。満を持して手に入れたローヌの地で、ピュアな果実味、フィネスそして巨大なスケール感を備えたシャトーヌフ・デュ・パプを生み出しています。
ロテム&ムニール・サウマ
まとめ
並々ならぬこだわりと型破りなワイン造り。これらは一重に、ルシアン・ル・モワンヌの「良いワインを造りたい」という強い想いが形となったものだと思います。
ブルゴーニュの至極のコレクションに加え、今後は彼らが念願の自社畑から生み出すローヌワインからも目が離せません。サウマ氏の並々ならぬ情熱を、ブルゴーニュ、ローヌ、それぞれのワインを通して感じてみてくださいね。
ルシアン・ル・モワンヌ