最近よく耳にする「サステナブル」という言葉。近年、国内外のあらゆる産業で「サステナブル」を意識した取り組みが広がっていますが、ワインの世界も例外ではありません。
では、ワイン造りにおけるサステナブルとは具体的にどのような取り組みをいうのでしょうか?詳しく解説したいと思います。
サステナブルなワイン造りとは
サステナブルとは英語のSustain(持続する)とable(可能な)をかけ合わせた造語で、日本語では「持続可能な」と訳されます。
サステナブルという言葉は1987年にWCED(環境と開発に関する世界委員会)が発表した『Our Common Future(我ら共有の未来)』という報告書をきっかけに世界中に広まりました。
報告書では地球環境破壊の深刻さをデータに基づいて伝え、人類は「持続可能な開発」という考え方に基づいた行動に転換する必要があるということを訴えました。この概念は、環境と開発を互いに反するものではなく共存し得るものとしてとらえ、環境保全を考慮した節度ある開発が重要であるという考えのうえにあります。
では、ワイン造りにおけるサステナブルとは具体的にどのような取り組みをいうのでしょうか?
原料ブドウの有機栽培や醸造時の添加物不使用がまず思いつくと思いますが、他にもたくさんあります。
例えば、水やエネルギーの節約、健全な土壌の保持、生態系の保護、資源のリサイクル、従業員や地域住民との関係改善、経営の持続など。
今やどこの産地でも環境に配慮したワイン造りは不可避であり、さらにワインを造ることで搾取や不均衡がないか、雇用が守られているか、また地元の活性化に配慮した雇用がなされているか、そもそもワイン造りが経済活動として持続可能であるかといったことまで、生産者は社会的責任のもと見直す必要がでてきたのです。
オーガニックとの違いは?
ご存知の通り、オーガニックとは化学的に合成された農薬や除草剤を一切使わない農法です。また、ビオディナミとはオーガニックの一種で、天体の運行に合わせ、自然物質を使った特別な調剤を用いて自然の潜在能力を引き出す農法を言います。
オーガニックやビオディナミはサステナブルなワイン造りの手段の一つであって、オーガニックワイン=サステナブルなワインではありません。
ブドウ栽培においては、健全な土壌を保持するためにトラクターではなく馬での耕作を行なったり、除草剤を使用しない代わりに山羊や羊に畑の雑草を食べてもらったりといったことも、自然環境に配慮したサステナブルな取り組みと言えるでしょう。
サステナブルなワイン造りの例
ここでは、サステナブルなワイン造りに取り組んでいる代表的な産地と生産者を紹介します。
カリフォルニア
カリフォルニアはサステナブルなワイン造りが非常に進んでいる産地の一つです。
中でも、カリフォルニアを代表するワインメーカー、ケンダル・ジャクソンは環境保全の課題が世界的に注目され始めるよりも前からサスティナブルなワイン造りに取り組んできました。
例えば、干ばつに苦しむカリフォルニアにおいて、樽洗浄の水のリサイクル、紫外線照射を用いたタンクの衛生管理、雨水の貯留と利用、点滴灌漑などを行い、2008年から年間約8,300万リットルの水利用を減らし、年間使用量をほぼ半減させています。
太陽光発電パネルも設置しワイン醸造にかかる電力の約3割を自家発電で賄っています。
また、周辺環境への負荷を最小限に抑えるため、所有地の半分以上はブドウを植樹せず自然のままにし、生物多様性を促すようにしています。
2010年にはすべての畑でカリフォルニア・サステナブル・ワイングローイング認証(CCSW)を取得。こうした取り組みが評価され、2016年には、カリフォルニアのワイン業界ではサステナビリティに関して最も名誉とされているカリフォルニア・グリーン・メダル・リーダー・アワードを受賞しました。
その後2019年には、気候変動に対処する国際的なワイナリーグループ「IWCA(International Wineries for Climate Action)」をスペインのワイナリー、トーレスとともに設立。そして2020年には、英国有数の業界誌であるドリンクス・ビジネスにおいて2020グリーン・カンパニー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。
さらにケンダル・ジャクソンを運営するワイン会社ジャクソン・ファミリー・ワインズは2030年までに温室効果ガスの排出を半減するとも発表しました。2050年には排出量よりも吸収量の方が多い「クライメート・ポジティブ」に転換するとしています。
「Rooted for Good」と称するこれらの活動は、温室効果ガスの排出だけでなく、エステート・ヴィンヤードの再生可能な農業への移行、スマートな水管理方法の導入、従業員とコミュニティの健康のためのさらなる投資などを含んでいます。
ボルドー
フランスでは2011年に環境認証全国委員会(CNCE)が発足し、生物多様性の維持、殺菌・殺虫剤の散布戦略、施肥の管理、水のリソースの管理などを基本のテーマとする、レベル1~3までの環境認証が整えられました。
これを受けてボルドーは環境認証取得を目指し、2019年にはブドウ畑の総面積の65%が環境に配慮した取り組みを認知する何らかの認証を取得しました。最終的には100%取得を目標としています。
また、2009年にボルドーが打ち出した「環境計画2020」では、2020年までに温室効果ガス排出量20%削減(2008年起点840,000トン→672,000トン)、エネルギー使用量20%削減、水の使用量20%削減、リサイクルエネルギーの20%創出を目標に掲げました。
2013年にカーボンフットプリント算定を行った時には、770,000トンで、5年間でマイナス9%を達成していました。
具体的な取り組みを上げると、AOCサン・テステフのシャトー・モンローズでは、3,000㎡のソーラーパネルを設置することで、電気の自給自足を達成しました。
温度が15℃と一定した地下水をくみ上げ、これを熱交換器で温度を変えて建物の天井などを通じて流し建物の温度調節を可能にするなど、様々な取り組みが行われています。
また、メドック格付け第一級シャトー・ムートン・ロスチャイルドを所有するバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドでも、サスティナブルな取り組みが行われています。
シャトー・ムートンの血統を受け継ぐ、人気シリーズ「ムートン・カデ」から新たに登場した「ムートン・カデ・ルージュ・オーガニック」。ワイナリー初となるオーガニック認証ワインです。
こちらのワインでは、輸送時の二酸化炭素排出を抑制するリサイクル可能な軽量ボトル、再生紙を使用したラベル、100%リサイクル可能なアルミニウムを使用したキャップといった、環境に配慮したパッケージを採用しています。
「地球環境の保全がこの時代の優先事項の一つである」という、CEOのフィリップ・セレイス・ド・ロスチャイルド男爵の想いから生まれた1本です。
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まとめ
ワインにおけるサステナブルとは、生産者だけが取り組むものでなく、私たち消費者も含まれます。
ワインを買う、飲むという行為が健全な社会や地球環境を維持するための貢献につながるかは、私たちの選択にかかっているからです。
どんな基準でワインを選ぶのか、ワインラヴァーの選択が、数年後のワインの世界を変えるかもしれません。
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参考:国際連合広報センター HP https://www.unic.or.jp/ L’ECOLE DU VIN DE BORDEAUX HP https://www.ecoleduvindebordeaux.com/