ビオディナミ栽培でテロワールを表現する、ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード
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テロワール。ワインの話でたびたび出てくるワードです。
フランス語で「土地」を意味し、ワインの世界ではブドウ畑を取り巻くすべての環境のことを言います。
そんなテロワールを大切にする生産者がオーストラリアの「ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード」。ワインメーカーのピーター・フレイザーさんが来日し、ワイナリーの歴史や哲学を訊きました。
自然との共存
ワイナリーの歴史は1946年までさかのぼります。この土地に植えられたグルナッシュのブドウ樹がすべての始まりです。
その後、時を経て2001年にカリフォルニアの大手ワインメーカー、ジャクソン・ファミリー・ワインズがこのグルナッシュの古樹にポテンシャルを感じ、畑を購入。「ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード」を設立し、今に至ります。
今回来日したピーター・フレイザーさんは2000年からヤンガラのワインに携わる醸造家。それまではオーストラリアやスペイン、アメリカのワイナリーで経験を積んでおり、ワインメーカーとして多数の輝かしい経歴を持ちます。
そんなピーターさんの仕事は「ワインができる工程の1%に過ぎない」と語ります。それ以外はブドウ畑にあるそうです。
「ワイン造りにおいて重要視するのは、テロワールを表現すること。そのため、ヤンガラが所有する敷地の半分にはブドウ樹が植えられていません」と教えてくれました。
「そこには小川が流れていたり、草花やハーブが植えられたりしています。例えばこのハーブが様々な益虫を呼び寄せ、ブドウ樹に活力を与えてくれます。
こうして動植物と共存する自然な生態系でブドウを作っています。
そしてとにかく土壌に元気でいてほしいので、化学的な農薬は使いません。何よりもこれに尽きます」
土壌のバイタリティを回復させることで、ブドウ樹が強くなり、その土地のテロワールを表現したブドウができるそうで、これは2023年の収穫時にも感じたことだと言います。
「今年は非常に雨の多い収穫期を迎え、天候に恵まれなかった。それでもブドウは一切病気にかかりませんでした。
こうしてビオディナミ栽培を実践することでブドウの耐性が強くなっていることを実感しています」
ヤンガラは2008年からビオディナミ栽培を実践し、2012年にオーストラリアの認証機関によってビオディナミ認証を受けています。
ヤンガラの哲学に加えて認証を得たことで、お客様からの信頼を獲得したと感じているそうです。
テロワールを表現する。ではこの土地で表現されるのはどんなワインなのでしょうか?
グルナッシュの重要性
ジャクソン・ファミリー・ワインズがこの土地の畑を購入した際、惚れ込んだのがグルナッシュの古樹でした。
「グルナッシュは樹齢が若いうちは可愛らしくチャーミングで軽やかなワインとなり、樹齢が15年を過ぎると凝縮していき、30年経つとそれがさらに凝縮したものになっていきます」
この土地の開墾当初から植えられているその樹は、今年で77歳。ヤンガラの神髄を表すとも言えるオールド・ヴァイン・グルナッシュは、このブドウを100%使用し造られます。
「オーストラリアのバロッサ・ヴァレーでは200年近い樹齢のブドウを使っているワイナリーもあります。なので、私たちもこの樹が少しでも実を付ける限り使い続けていきたいと思っています」と古樹の可能性について語りました。
また、そんなグルナッシュがヤンガラにとって最も重要なブドウ品種だと言います。
「グルナッシュは酸が際立つ品種ではないと思っていますが、この地で造られるグルナッシュのワインは綺麗な酸が特徴です。
他の土地との違いはこの酸にあると思っています。それができるのは、海岸沿いにあることが大きいです。
冷涼さがワインにフレッシュ感を与え、上品な唯一無二のグルナッシュとなります。ビオディナミ栽培をすることでそんなテロワールの表現ができていると実感します」とピーターさん。
そしてこのグルナッシュがヤンガラにさらなる可能性を広げました。
「この地でグルナッシュがよく育つ、ということは南ローヌのブドウ品種と相性が良いということ。それでそれらの品種に目を付けたんです。
こうした南ローヌのブドウ品種はオーストラリアでヤンガラが商業的に初めて植えて成功させたものもありますが、この地に合っていると感じます」
例えば、ヤンガラ・ブランはグルナッシュ・ブランを主体に南ローヌの品種がブレンドされています。こうしたブレンドをすることでワインに複雑味が生まれると言います。
「このワインもテロワールがよく反映されています。冷涼な地で造られるからこそ、果実味が全面に押し出されているわけではなく、繊細な味わいが特徴です。和食にもよく合いますよ!」と教えてくれました。
ワインはテロワールを表現するもの
最後に今後の展望を伺うと「模索し続けることが大切だ」と語りました。ワイン造りの裏には、いくつもの挑戦と失敗があるのでしょう。
地球温暖化など外部環境の影響をダイレクトに受けるブドウ栽培は一筋縄ではいきません。それでもテロワールを表現するため模索を続け、将来の可能性を求め続けているのです。
ヤンガラのワインを飲んで、そんなストーリーに想いを馳せてみてください。
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