奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!
あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。
ワインのマナーなどについて話すとき「“飲みやすいですね”は、一番言ってはいけない感想ですよ」と言うことがあります。レストランでホストテイストを求められた時、ワインコレクターの方からとびきりのボトルを開けてもらった時、その言葉は相手を少なからず傷つけます。笑
聞いている側からすると、「無難」、「響いてこない」、さらに「他のでもよい」と同義に感じてしまうのです。
1990年代はとにかく「強いワイン」が求められました。白ワインであれば樽香がしっかりついていてオイリーなもの、赤ワインであれば色が濃く、渋みが強いものです。当時、トゥール・ダルジャンにいましたが、ポイヤックのグラン・クリュ・クラッセを「飲みやすいね」と言われ、傷ついたものでした。言い換えれば、「飲みやすい=軽い=ワイン選び失敗」という時代で、その世代は今もワイン消費者層の中心ですから、「濃厚なワイン」はいまだに根強い人気があります。
「ワインは社会、世相を照らす」と言われる通り、時代が変わり、求められるワインは随分変わりました。もちろん生産者、ワイン消費者も若返り、趣向、価値観は違いますから、自然な流れです。
ドリンカブルDrinkable という言葉がよく聞かれるようになりました。「飲用に適した」が直訳ですが、要は「飲みやすい」です。低アルコール飲料がそれを指し、ビールにおいても低アルコールのものが日本でもよく見られるようになりました。ワインでもアルコール12%以下のものが好印象になり、渋みや苦味が軽いワインが求められる傾向は強くあります。ロゼやオレンジワイン、プロセッコの人気はその象徴です。そう、現代では「飲みやすさ」はネガティヴではなくなったといえます。ソバーキュリアス、スマートドリンキングといったライフスタイルがこれからますます広がることを考えると「飲みやすさ」はますますポジティブなワードになってゆくでしょう。
飲みやすさ
ボデガ・ノートンプリヴァーダ・マルべック2020は、濃いダークチェリーレッド、濃縮感がありますが、輝き、艶もあります。香りは非常に深く、凝縮感がありながらも洗練されています。鮮やかでかつ控えめです。相反する個性を併せ持つ豊かさを感じるワインです。ブラックチェリー、ダークヴァイオレット、チャコール、ピート(泥炭)、ジュニパー(杜松の実)など重層的でディテールに富んでいます。味わいはスムース、シームレス、はっきりと際立ったアルコール感は全体としてうまくまとまっており、ジューシーかつチューイー(噛めるような)なボディ。ヴィロードのような触感の渋みとともにきめ細かな酸味が味わいを見事にまとめてくれます。緻密で、精巧、グロリアスな赤ワインです。
アルゼンチンのプレミアム・マルベックといえば、「あの頃、ワインリストにこんなワインがあったら」と羨むほど、飲み手にインパクトを与える濃厚ワインの代表のような存在なのですが、このプリヴァーダ・マルベックには、スムースさ、ドリンカブルという表現ができる、まさに「今日のマルベック」だなと実感することができました。
今回ご紹介したワインはこちら
アルゼンチン随一の老舗ワイナリーが手がけるマルベック100%のワイン。マルベックの持つピュアさが表現された、パワフルかつエレガントなスタイルがお楽しみいただけます。