【解消!ツレヅレハナコのワインもやもや Vol.6】ワイン産地って世界中にあるけど、何が違うの?
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お酒と食と旅を愛する文筆家・料理研究家のツレヅレハナコさん。日々、ワインもたっぷり飲んでいます。ただし、品種、産地、ヴィンテージなどが複雑に絡む独自の世界にはお手上げのよう。
Vol.5では基本の6品種を知ったハナコさん。初夏に訪れたインドのワイナリーで赤ワインをテイスティングし、濃厚でパワフルな味わいに感激したそう。同時に各国に広がる産地の違いが気になり始め、エノテカのソムリエである河に疑問を投げかけました。
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酒と食と旅を愛する文筆家・料理研究家。著書にサクッと作れる&ちょっとヘルシーな酒の肴のレシピ『47歳、ゆる晩酌はじめました』(KADOKAWA)や、おばあちゃんになっても元気に楽しく飲むために腸をぐるぐる動かす惣菜を仕込んだ記録『ツレヅレハナコのからだ整え丼』(Gakken)などがあり。ムンバイから4時間かけて向かったワイナリー「スーラ」では、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーのスパークリング、デザートワインを購入。スーツケースに保管して持ち帰ってきた。
J.S.A.ソムリエ、J.S.A.SAKE DIPLOMA。京都府出身。ワイン好きが高じて2018年にIT企業からエノテカへ転職。都内2カ所で販売職を経験後、マーケティング部にてコンテンツの作成に携わる。山形で醸造されるシャルドネもお気に入り。
ハナコさん
先生、質問です!前回の「Vol.5 ブドウ品種ってたくさんありすぎ!」では、品種の違いを理解することができました。この前訪れたインドで飲んだカベルネ・ソーヴィニヨンは、これまでに飲んだものよりもしっかりとしていて、スパイシーさを感じました。インド料理ともとても相性が良かったです。同じ品種でも産地によって受ける印象が違う気がします。これはなぜですか?
河
さすが、ハナコさんは鋭いですね。「品種」に加えて「産地」も味わいに深く関わっています。前回もお伝えしたようにワインは基本的にブドウだけで造られるので、品種の特徴に加えて、その土地の個性が反映されるんですよ。
ハナコさん
なるほど。そうすると各国の特徴を覚えなくてはいけないのでしょうか?
河
世界中にある「産地」の個性を記憶するのは大変です。だから、ここも要点を2つに絞りますね。
ハナコさん
よ!待ってました!
河
「暖かい産地」と「涼しい産地」で大まかに二分します。なぜ、このカテゴリーにするかというとブドウの熟し方が変わってくるからです。
ハナコさん
ブドウの熟し方……。ワインは農産物だというのが、なんとなく分かってきました。
河
そうなんですよ。それぞれについて詳しく解説していきますね。まずは世界地図をご覧ください。
河
まず、北緯及び南緯30〜40度付近に位置するのが「暖かい産地」です。国を挙げると、アメリカ・カリフォルニア、オーストラリア、チリ(※1)になります。太陽の光をたっぷりと浴びてブドウはしっかりと熟します。 そのため、ここでできたワインの香りや風味は凝縮感のある果物に例えられることが多いです。白ワインならマンゴーやパイナップル、赤ワインならプルーンやブラックベリーなどで表現されます。
※1 該当の国にも、標高が高い、海が近いなどの理由による冷涼なエリアが存在します。
ハナコさん
私が好きな「ふくよかでジューシー」な白ワインは、このエリアで造られていそう。
河
ご名答です! 続いて「涼しい産地」は北緯及び南緯40〜50度付近に該当します。フランス・シャンパーニュ地方、ドイツなどがそうです。涼しい産地ではブドウが高い酸度を保ったまま熟すことができます。 そのためここでできたワインの香りや風味はよく爽やかな果物に例えられます。代表的なのものとしては白ワインなら青リンゴ、グレープフルーツ、赤ワインならイチゴやラズベリーといったところです。
ハナコさん
日本はどちらになるのでしょうか?
河
南北に伸びる地形のためひとまとめにはしづらいですが、北海道は「涼しい産地」、九州は「暖かい産地」となります。山梨は中間となりますけれど、夏は暑い地区がある一方で標高の高いエリアでは涼しい。そのためどちらとも言い切れません。 このように各国で例外のエリアは存在していますけれども、まずは「暖かい産地」「涼しい産地」の2つに大別できることを覚えていただくと大枠を掴めるようになります。
ハナコさん
はい!そうします!
河
では、ここでテイスティングをいたしましょうか。
ハナコさん
わーい!
河
ハナコさん、シャブリは飲んだことありますか?
ハナコさん
はい。牡蠣にはシャブリだと漫画『美味しんぼ』に教え込まれておりますから!爽やかでキリッとした味わいがおいしいですよね!
河
そうです!シャブリはフランスを代表する白ワインで、シャルドネから造られます。
ハナコさん
なんと!シャルドネは「ふくよかジューシー」だと聞いていましたが、全然違うじゃないですか!
河
その違いを飲み比べいただきながら説明します。シャブリと以前試して気に入られていたアメリカ・カリフォルニアのシャルドネです。まずは「シャブリ」からどうぞ。
ハナコさん
香りから別物です。シャブリはスモーキーでカリフォルニアのシャルドネはバターみたい。
河
香りもはっきりと違いますよね。シャブリはキリッとした酸味を感じられる一方で、カリフォルニアのシャルドネは酸味が控えめで濃厚な口当たりかと思います。
ハナコさん
うーん……。どちらもおいしい!
河
よかったです。同じ品種でもここまで差が生まれるのはシャルドネが育った産地の影響を特に受けやすいためです。 シャブリはフランス北部の涼しい産地で造られるので、「キリッとフレッシュ」に。一方、カリフォルニアのシャルドネは暖かい産地で育ったので「ふくよかジューシー」になるんです。 もちろん気候だけでなく、土壌や生産者の造りなどさまざまな要素によって味わいは決まりますが、まずは「暖かい産地」、「涼しい産地」と大まかに覚えておきましょう!
ハナコさん
シャルドネは柔軟性が高いんですね。おかげで2つの産地の違いがよくわかりました。
河
他の基本品種も同様です。暖かい産地では豊かな果実味と柔らかな酸味を持つワインに、涼しい産地では繊細で上品な果実味としっかりした酸味を持つワインにできる傾向にあります。
ハナコさん
なるほど。だんだんワインを選べるようになってきた気がします。
河
さらに、今回飲んでいただいたシャルドネは、熟成させるときの容器でも味わいが大きく違ってくるんですよ。 容器は大まかに2つあって、一つはステンレスタンク。ワインをステンレスタンクに保存しておくと、ブドウのピュアでフレッシュな風味が感じられるスタイルに仕上がります(※2)。今回では涼しい産地で造ったシャブリがステンレスタンクを用いて造られています。 二つ目は、木樽(オーク樽)です。造ったワインを木樽に保存しておくと、木樽の成分がワインに染み込んでいき、複雑なスタイルになります(※3)。今回のカリフォルニアのシャルドネは、木樽を用いて造られているんですが、バニラのような香りを感じませんでしたか?
※2 ステンレスタンクは空気を通さないことからフレッシュさがそのまま保たれるため、ピュアなワインに仕上がります。 ※3 木樽はステンレスタンクに比べて酸素を通しやすく、ワインが空気と触れ合うことでまろやかな印象に仕上がります。
ハナコさん
言われてみると、バニラみたいな香りもします。
河
白ワインだとその香りが木樽で熟成をしているサインです。赤ワインだとコーヒーやシナモンのような香りが感じられたら、木樽で熟成しているかもしれません!
ハナコさん
熟成方法はラベルで確認できるんですか?
河
ラベルには基本的に記載されていないので、私たちでもラベルから読み解くのは至難のワザです。だから臆せずにソムリエにたずねてみてください。
ハナコさん
その会話ではツウ気分も味わえそうですね。 「Vol.5 ブドウ品種ってたくさんありすぎ!」で「品種」はとても大事だと分かりました。正直に打ち明けると「産地」はそこまで重要視していなかったです。でも、「品種」の違いと同様に、「産地」の気候の違いがワインの味わいに大きく、関係していることがわかりました。 好みの味わいに出合うためには「産地」も外せないですね。国単位でワインを見られるようになって、また視野が広がりました。ワインって学ぶほどに新しい扉が開きますね。
河
どんどん吸収してくださっていて、うれしいです。
ハナコさん
復習を兼ねて今夜は冷涼な産地生まれの「シャブリ」で晩酌いたします〜。
文=松岡真子 イラスト=鈴木七代
ハナココラム:取材を終えて
ワインビギナーが、挫折しがちなのが「品種」に加えて今回の「産地」。
「これも、みっちり暗記しなきゃなのかな~」と思っていましたが、さすが河先生!まさかの地名ではなく、まずは「暖かい産地」と「涼しい産地」で判断すれば良いだなんて……。しかも、その理由が明快で「これなら理解できそう!」とやる気が出てきました。
前回までの内容で、ブドウの味わいと品種がなんとなく紐づいてきた私。だからこそ、今回の飲み比べもかなり納得感がある~。少しだけワインの共通言語を手に入れたようでうれしいぞ。
面白いなと思ったのは、「ワインの原材料はブドウだけ」だからこそ、気候によって仕上がりの味わいがかなり変わるということ。あ、これがもしや聞いたことのある「テロワール」ってやつ?
そういえば以前、ビールを造っている方が「極端に言えば、ビールはどこの地域でも同じように造れます。だからこそ最近のクラフトビールは、地域の特産品などを加えて特色を出すのです」と言っていたのを思い出しました。同じお酒でも、原料との付き合い方が全然違うんだなあ。
また、品種によって環境の影響を受けやすい品種があるというのも実際飲み比べて納得。シャルドネの味わいの違いのポイントは育った環境だったのか……これからシャルドネを指定するときは産地を意識すると好みのものに出合えそう。私の場合は、「カリフォルニアのシャルドネが好き」がヒントになる気がします。
品種と産地をかけ合わせはもちろん、容器の種類によっても仕上がりは変化。本当にワインの世界は奥深いなあ……。以前ならここで「もう難しすぎる」と挫折していたような気がしますが、今回は「もっと知りたい!」とワクワクが止まらないのでした。
今回のおつまみは、爽やかなシャブリに合わせて「塩サバのソテー ミニトマトソース」を。サバの脂を、濃厚なうまみのミニトマトソースとともにスッキリさせてくれますよ。
レシピ:塩サバのソテー ミニトマトソース
【材料 2人分】
塩サバ 2切れ
小麦粉 大さじ2
ミニトマト 10個
A酒 小さじ1/2
Aしょうゆ 小さじ1/2
Aみりん 小さじ1/2
Aしょうがのすりおろし 1/2かけ分
オリーブオイル 大さじ1
好みの葉物 適宜
パン 適宜
【作り方】
1.塩サバは小麦粉をまぶす。ミニトマトは半分に切る。器にAを混ぜる。
2.フライパンにオリーブオイルの大さじ1/2を入れて中火で熱し、サバの皮目を下にして並べ入れる。こんがりと焼けたら裏返し、さらに2~3分焼いて器に取り出す。
3.同じフライパンをペーパータオルでさっと拭き、残りのオリーブオイルを弱火で熱し、ミニトマトを入れて炒める。とろりとして水分が出てきたらAを加えて火を止め、サバにかける。葉物を盛り合わせ、パンを添える。
文=ツレヅレハナコ 写真=福田喜一