広大な自然と多様な気候に恵まれたオーストラリアは、実は世界屈指のワイン生産国です。
新旧の伝統が融合したワイン文化が根付くこの国では、豊かな土壌と先進的な技術を活かし、様々な個性を持つワインが生まれています。
今回はそんなオーストラリアで造られるワインについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
オーストラリアのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
目次
気候と風土
オーストラリアは南半球に位置する島国で、日本の約20倍の国土面積という広大な国です。
そんな世界一大きな島であり、世界一小さな大陸でもあるオーストラリアは、その広さゆえ、地域によって気候風土の特徴が異なります。南部では地中海性気候が一般的で、夏は乾燥し冬は湿潤ですが、地域によっては海洋性気候や乾燥した内陸部の影響を受けるワイン産地もあります。
ワイン産地は、シラーズの銘醸地として最も有名なバロッサ・ヴァレーをはじめ、東端のニュー・サウス・ウェールズ州から西端の西オーストラリア州まで3,000km超にわたって点在しています。
オーストラリアワインの歴史が始まったのは1788年。英国海軍アーサー・フィリップ大佐によってシドニーにワイン用ブドウが持ち込まれました。その後、「オーストラリアのワイン用ブドウ栽培の父」と呼ばれるジェームズ・バズビーによってフランスやスペインから多くのブドウ品種が持ち込まれ、ワイン生産が広まっていきました。
当時のオーストラリアで生産されていたのは甘口のデザートワインが主でしたが、徐々にテーブルワインが盛んになり、近年では最新技術を導入した世界的に評価される高級ワインも生産されています。
また現代のオーストラリアで見逃せないのが、自由な発想で既成概念を打ち破る新世代のワインメーカーを中心に巻き起こっている「ナチュラルワイン・ムーブメント」。オーガニックやビオディナミ農法で栽培され、自然発酵で亜硫酸をごく少量あるいはまったく使わないで造られるナチュラルワインが若い消費者を中心に人気を集め、オーストラリアのワイン文化に新しい側面を与えています。
栽培されている主なブドウ品種
オーストラリアでは多様なブドウ品種が栽培されており、地域ごとの気候と土壌に適応したワインが楽しめます。代表的な五つのブドウ品種をご紹介します。
シラーズ
オーストラリアで最も有名な品種の一つがシラーズ。特にバロッサ・ヴァレーやマクラーレン・ヴェイルが銘醸地として知られています。
オーストラリアのシラーズは、フルボディで熟した果実味が特徴で、ブラックペッパーやスパイスのニュアンスも感じられ、世界中で高い評価を受けています。
フランスなどで栽培されるシラーと同じ品種ですが、オーストラリアでの呼び名はシラーズ。どのような違いがあるのか田邉さんに聞きました。
ソムリエ解説!シラーとシラーズの違いって?
シラーはフランスのローヌ地方北部が原産とされていますが、もう一つの有名な産地として、オーストラリアが挙げられます。オーストラリアでは、シラーのことをシラーズと呼ぶことが一般的で、現代においてはこのシラーとシラーズは別の個性をもったワインとして広く認知されてきています。 原産地であるフランスのローヌ地方のシラーは、ミディアムボディで渋みは中程度、酸味は比較的豊かで、綺麗に余韻まで続いていきます。ブルーベリーやスミレの香り、品種特有の香りであるブラックペッパー、やや動物的なニュアンスも感じます。 それに対してシラーズは、フルボディで果実味豊か、豊かなタンニンとなめらかな酸味をもつタイプになる傾向があり、ブラックベリーやメントール香、チョコレートのようなフレーヴァーも感じるスタイルが主流となっています。
カベルネ・ソーヴィニヨン
黒ブドウの中でもよく知られた品種の一つであるカベルネ・ソーヴィニヨン。カシスやブラックベリー、そしてタバコやシダーのニュアンスが感じられることで有名です。
オーストラリアでのカベルネ・ソーヴィニヨンは特にユーカリやミントのようなフレッシュなハーブ系のアロマが感じられ、オーストラリア独自のスタイルを持っています。これにより重厚感と複雑さを備えたエレガントなワインに仕上がることが多いです。
シャルドネ
シャルドネは白ブドウの品種で、非常に適応力が高く、さまざまな気候で育つことができるため、ワインのスタイルも多様です。
オーストラリアのシャルドネは、トロピカルフルーツやシトラスの風味を感じるフレッシュで酸味のあるスタイルから、樽発酵によるバターやナッツのような香りのリッチでクリーミーなスタイルまで幅広く見られます。特に近年は冷涼な産地で造られた爽やかな飲み口のシャルドネの白ワインが評価されています。
ソーヴィニヨン・ブラン
ソーヴィニヨン・ブランは、緑がかった白ブドウの品種で、柑橘系の果実やハーブのような香りが特徴。軽快で爽やかな酸味が印象的なワインが多いです。
オーストラリアでは冷涼な気候で特に栽培され、ハーブやトロピカルフルーツのニュアンスを持つフレッシュなスタイルが一般的です。オーストラリア産のソーヴィニヨン・ブランは、ニュージーランドのものと比較してやや丸みのあるスタイルが多く、爽やかな飲み口が特徴です。
ピノ・ノワール
ピノ・ノワールは繊細な黒ブドウ品種で、イチゴやラズベリー、スパイス、土っぽさなど、複雑なアロマを持つワインを生み出します。
冷涼な気候を好むピノ・ノワールは、ヤラ・ヴァレーやタスマニアといった地域で特に高品質なものが生産されています。オーストラリアのピノ・ノワールは、フランスのブルゴーニュ産に比べて、やや果実味豊かで、スムースなタンニンを持つことが特徴です。
有名産地
オーストラリアで知っておくべき産地と合わせて田邉さんおすすめワインをご紹介します。その産地の特徴を表した1本を選んでいただきました。
南オーストラリア州
南オーストラリア州は、温暖な気候が特徴のワイン産地です。この地域にはバロッサ・ヴァレーやイーデン・ヴァレーなどがあり、シラーズが特に有名です。
バロッサ・ヴァレーでは、リッチでフルボディな赤ワインが造られ、イーデン・ヴァレーでは、爽やかでフルーティーなリースリングが楽しめます。温暖な気候により、ブドウがしっかりと熟し、豊かな風味が生まれるのが魅力です。
田邉さんおすすめワイン イーデン・ヴァレー・リースリング
ロルフビンダーは、国内外で高い評価を獲得する1955年創業のワイナリーで、こちらはオーストラリアにおけるリースリングの銘醸地であるイーデン・ヴァレーで造られる白ワイン。個人的にもSNS等でおすすめさせていただいた経験があります。 ライムやレモン、白い花の華やかな香り、フレッシュでジューシーな果実味を楽しめます。
西オーストラリア州
西オーストラリア州は、マーガレット・リヴァーが有名な産地です。この地域は、温暖な気候と海からの風に恵まれており、カベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネが特に人気です。
マーガレット・リヴァーのカベルネ・ソーヴィニヨンは、しっかりとした果実味とタンニンが特徴で、シャルドネはクリスプでフルーティーな味わいが楽しめます。この地域のワインは、フレッシュでバランスが良いのが魅力です。
マーガレット・リヴァーはオーストラリアの中でも特にナチュラルワイン造りが盛んな地域の一つです。オーストラリア全体でナチュラルワインの人気が高まっている中、マーガレット・リヴァーは特にその流れの中心となっているエリアとされています。
田邉さんおすすめワイン ブラインド・コーナー・オレンジ
独特なブレンド(ソーヴィニヨン・ブラン、シュナン・ブラン、セミヨン、ピノ・グリ)で造られる、個性的でありながらも調和の取れたエレガントでナチュラルなオレンジワイン。 アプリコットやドライハーブ、ジンジャーのフレーヴァー、爽やかさと共にコク、旨味が感じられます。監修を務める焼き鳥のお店でオンリストしていた経験がありますが、鶏の塩焼きや野菜串との相性は抜群です。
ブラインド・コーナー・オレンジ
橙
アロマティック&フルーティー
注目のブティックワイナリーが生み出すフードフレンドリーなオレンジワイン。何杯でも飲みたくなる「クリーンナチュラル」な味わい。 詳細を見る
4.0
(9件)2022年
4,730 円
(税込)
ビクトリア州
ビクトリア州は、多様な気候を持つため、さまざまなスタイルのワインが生産されています。特に近年はヤラ・ヴァレーのピノ・ノワールとシャルドネが評価されており、エレガントで繊細な味わいが特徴です。
田邉さんおすすめワイン アップルジャック・ヴィンヤード・ピノ・ノワール
オーストラリアのワイン産地の中でも、ピノ・ノワールにおける屈指の銘醸地として知られるヤラ・ヴァレーに位置するワイナリー。 こちらのワインは同生産者が大切にしている単一畑シリーズの一つです。熟した赤い果実の豊かな風味があり、ブルゴーニュを彷彿とさせながらも、この土地ならではの個性が感じられます。
アップルジャック・ヴィンヤード・ピノ・ノワール
赤
エレガント&クラシック
ブルゴーニュの強力なライバルと絶賛される注目の造り手が手掛ける単一畑キュヴェ。熟した果実の風味と生き生きとした酸が魅力。 詳細を見る
4.5
(8件)2023年
7,700 円
(税込)
タスマニア州
タスマニア州は、オーストラリアで最も冷涼なワイン産地です。このため、特に白ワインやスパークリングワインが高く評価されています。冷涼な気候が、ワインにエレガンスと深みを与えるのが魅力です。
オーストラリアワイン豆知識
オーストラリアワインの豆知識を田邉さんに聞いてみました!
ソムリエ解説!どんな飲み方がおすすめ?
オーストラリアの赤ワインは、シラーズやカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にしたものが多く存在しますが、どちらも主に樽での熟成を経た、果実味豊かなフルボディのワインが造られており、グラスは「ボルドー型」と一般的に呼ばれる、口の部分が比較的広い形状の大きめのグラスを使用して、温度は18〜20度程度で飲むのがおすすめです。デカンタージュをして、さらに香りを開かせるのも良いでしょう。 白ワインは大きく分けるとリースリングを使用した爽やかなタイプと、シャルドネから造られる樽のニュアンスを感じるスタイルが主流ですが、前者は細身のスリムな形状のやや小ぶりのグラスで、8〜10度までよく冷やして、後者は口径の広いグラスで、樽由来の複雑なアロマやボディのある味わいを活かすために、やや高めの11~14度程度で飲むのが理想的です。
ソムリエ解説!スクリューキャップのワインってどうなの?
オーストラリアにおいては、スクリューキャップのワインが2000年以降増加し、現在では90%以上のワインにスクリューキャップ栓が使用されていると言われています。 スクリューキャップのメリットは、まず開栓が容易であり、道具を使用することなく簡単に開けられること、そして大きな利点として、ワインの天敵とも言えるコルク臭が発生しないこと。保存においては、コルクのように乾燥のリスクがないため、立てて保存が可能であることなどが挙げられます。 スクリューキャップは低価格帯のワイン向けだと思われている傾向もありますが、長期熟成の実績も積まれてきており、現在は高価格帯のワインでの採用も進んでいます。
オーストラリアのワインにピッタリの料理
最後にオーストラリアのワイン(シラーズ、ピノ・ノワール、シャルドネ)にピッタリな、田邉さんおすすめの料理をご紹介します。
ソムリエ解説!シラーズの赤ワインにあう料理は?
シラーズの赤ワインの香りに感じられる黒系果実の凝縮した果実感とスパイシーさ、ロースト感にドライハーブのニュアンス。豊かな果実味としっかりとしたタンニン、なめらかな酸味、これらの個性に対して非常に相性の良い料理としておすすめしたいのが、骨付きラム肉のグリルにローズマリーを添えたメインディッシュ。 お肉の独特の風味とグリルの香ばしいニュアンス、ローズマリーの香りにワインのユーカリのアロマが重なります。ラム肉は事前にタイムやオレガノでマリネしておくことで、ワインのもつドライハーブのニュアンスとより一層相乗します。
ソムリエ解説!ピノ・ノワールの赤ワインにあう料理は?
ピノ・ノワールから造られた赤ワインの特徴である赤系果実の風味と緻密でシルキーなタンニンと豊かな酸味は、まろやかな味わいで適度な脂質を持つ鶏肉を使用したお料理との相性が抜群です。 樽のニュアンスを強くつけないスタイルが主流のピノ・ノワールには、グリルではなく、じっくりと煮込むような調理法が特におすすめ。ワインの果実風味と繊細なタンニンが煮込み料理の味わいの中に溶け込んで風味がより豊かになり、伸びやかな酸味が肉の旨味をさらに引き出してくれます。 オーストラリアのピノ・ノワールの独特の熟した甘い果実風味に対しては、鶏肉と一緒にトマトやパプリカ等を加えて煮込むとより相性が高まります。
ソムリエ解説!シャルドネの白ワインにあう料理は?
シャルドネの白ワインの中でも、樽を使用していない控えめなアロマを持つフレッシュ辛口タイプであれば、魚介のカルパッチョのようなシーフードを使用したオードブルがおすすめ。小エビとホタテ貝柱のアヒージョ等、温製のお料理にもよく合います。 一方で、オーストラリアにおけるシャルドネの白ワインの主流と言えるのが樽熟成したコクのあるまろやかなタイプ。こちらのスタイルには、樽由来の香ばしいフレーヴァーに同調させるように、サーモンのグリルやローストチキン等、焼いた魚や香ばしさを感じる白身のお肉料理とのペアリングがおすすめです。その場合、クリーム系のソースよりもオリーブオイルを使用した方がより相性が高まるものが多く存在します。
まとめ
オーストラリアのワイン産地は、その多様性と個性によって、世界中のワイン愛好家から注目されています。気候や土壌、醸造家の情熱によって生み出され、それぞれに独自の魅力があります。
そんな多彩な魅力がいっぱいのオーストラリアワイン。ぜひ選択肢の一つに入れてみてくださいね。
オーストラリアのワイン一覧
文=川畑あかり