アルプスの麓に位置しフランスとスイスに国境を接するピエモンテは、イタリアを代表する銘醸地です。
原産地呼称制度であるDOPの銘柄数はイタリア全20州の中で第1位。土着品種であるネッビオーロから造られるバローロやバルバレルコは世界的に有名な高級ワインです。
また、2014年には南部にあるランゲ・ロエロとモンフェラートと呼ばれる丘陵地帯のブドウ栽培とワイン造りの歴史によって造られた景観が、世界遺産に登録されました。
今回はそんなイタリアきっての高級ワイン産地であるピエモンテについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
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解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 X (旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
目次
気候と風土
ピエモンテはイタリア語で「山の麓」を意味する言葉で、北側・西側にアルプス山脈、南側にリグーリア・アペニン山脈と三方が山に囲まれた地形が特徴です。
温帯・亜寒帯の大陸性気候で、アルプスから多くの雪解け水が流れてきているのに加え、人工水路も整備されており、イタリアでは珍しく水に恵まれている州です。
ピエモンテは山岳部・丘陵部・平野部という三つのゾーンにほぼ均等に分かれており、土壌も気候も地域によってさまざま。そのため数多くのブドウ品種が栽培されており、バラエティに富んだ個性あふれるワインが多数造られています。
栽培されている主なブドウ品種
イタリアワインの特徴は、世界中で栽培されている国際品種に加えて土着品種が多いことですが、ピエモンテはその中で珍しく、単一品種から造られるワインの文化が根付いています。
ネッビオーロ
ピエモンテ原産の黒ブドウ品種で、造られるワインは若いうちは硬いと言われがちですが、しっかり熟成させると他にはないゴージャスな風味に変身します。
発芽が早いわりには収穫時期が遅い晩熟のブドウで、樹木自体が脆弱で扱いにくく、寒さにも弱く、実が密集しているため湿度が高いとカビが発生しやすいので風通しが良い栽培環境が必須。
「ピエモンテのピノ・ノワール」と例えられるほど繊細でテロワールの影響を強く受けるため、上記のような極めて難しい条件下のみでしか栽培ができない気難しい一面を持ちます。
そのためピエモンテ州内でも栽培場所は限られており、高貴なブドウ品種の一つと言われています。この品種から造られるのがネッビオーロの力強さや厳格さが表れた重厚なバローロと、バローロに比べてエレガントで繊細な味わいを備えたバルバレスコです。
また、ネッビオーロはバローロの生産地を擁するピエモンテ州南部クーネオ県での呼び名で、下図のように土地によってさまざまな呼称があります。
バルベラ
イタリアで栽培される黒ブドウの中で、サンジョヴェーゼやモンテプルチャーノと並んで生産量が多い、ピエモンテ原産の黒ブドウ品種です。
暑さにも寒さにも比較的強く生産性が良いのが特徴で、18世紀末に襲ったフィロキセラ禍では大きな被害を受けたネッビオーロに代わって重宝されました。
果実味たっぷりで酸が高く、ライトボディからミディアムボディのワインが仕上がります。
ピエモンテでは、果実味は控えめで長期熟成型のDOCGバルベラ・ダスティと早くから楽しめる安定した高いクオリティのDOCバルベラ・ダルバが有名です。
ドルチェット
ピエモンテ原産の赤ワイン用黒ブドウ品種で、「特別な日のネッビオーロ、普段使いのドルチェット」と言われ、多くの人に親しまれています。
味わいは果実味豊かで酸は少なく、適度なタンニンが感じられます。
早熟で、反対に晩熟であるネッビオーロの栽培が難しいとされる北側斜面や高地などでも栽培が可能なため、多くの生産者がドルチェットを栽培しています。
早くから楽しめるワインに仕立てられることが多いですが、造り方によっては長期熟成も可能です。
コルテーゼ
赤ワインが有名なピエモンテの中でも知名度の高い白ブドウ品種です。
主に南部のアレッサンドリア県とアスティ県で広く栽培されており、病害に対する耐性があり、それによって収穫量も多いことから近年高く評価されています。1659年にはブドウ園で植栽されていたという記録が残っており、非常に古い歴史を持っています。
通常は糖分と酸のバランスがとれたニュートラルな味わいの早飲みのワインができ上がりますがガヴィだけは例外で、地中海の影響を受けた温暖な土地でしっかりと熟成したコルテーゼから、非常に優美なワインが造られます。
モスカート・ビアンコ
ギリシャを原産とする古い歴史を持つモスカートはマスカットの別名で、一般的にモスカートと言えばイタリアで栽培されているモスカート系のブドウ全てを指します。
国や用途によって名前が変わる品種ですが、ワイン用として主に栽培されているモスカートを「モスカート・ビアンコ」と呼びます。
ピエモンテではイタリアの乾杯ワインの定番「アスティ」の原料として、アスティ・アレッサンドリア・クーネオの3県で広く栽培されています。
スパークリングワインのアスティ・スプマンテ、微発泡ワインのモスカート・ダスティ、スティルワインのヴェンデンミア・タルディーヴァなど、さまざまなスタイルの香り高い甘口ワインが生産されます。
アルネイス
洋ナシや白い花のアロマが特徴のピエモンテ原産の白ブドウ品種です。造り手の意図をよく反映させることから、シャルドネに似ていると言われることもあります。
酸が低く熟しやすい傾向を持ち、そのデリケートさからうどんこ病などの病気にかかりやすいため栽培の難易度が高く、「いたずらっ子、へそ曲がり」を意味するアルネイスという名前は、この栽培の難しさが由来とされています。
15世紀には既に栽培が始まっていたという説がありますが、20世紀に入ってからネッビオーロ100%の単一品種ワインのスタイルが主流になった影響で、栽培の難しさや栽培量の少なさも相まって、1979年には栽培面積が45ヘクタールまで減少し、その人気は低迷しました。
しかし1980年代になると栽培・醸造技術が向上し、同時にピエモンテでは土着品種の回帰が見直される動きが起こりました。その結果アルネイスの植栽数は増加、DOCGに認定されるワインも次々と誕生し、今ではピエモンテを代表する白ブドウ品種の一つです。
食用としても人気が高く、昔はタンニンを和らげる目的でネッビオーロにブレンドされていたこともありました。現在では主に軽めの白ワインに使用されています。
ソムリエ解説!ピエモンテのワイン造りの特徴って?
ピエモンテのブドウ品種として有名なのは、黒ブドウではネッビオーロ、バルべラ、白ブドウではコルテーゼやモスカート・ビアンコ、アルネイス等があり、その多くが単一の品種によってワインを造っています。 その中で、ネッビオーロを例にすると、大きな特徴としてタンニン(渋み)が豊富なであることが挙げられます。 それによって酸化に強く長期熟成に耐えるワインを造ることができる一方、ワインが出来上がったばかりの段階で早めに飲むと、渋みを強く感じやすい。 なので、樽の中で長期熟成させてからリリースするというのが伝統的なスタイルがとなりました。そうすることで豊かなタンニンは果実味に溶け込んでやわらかくなり、香りも複雑性を帯びてきます。
代表的な産地
ピエモンテの代表的な産地と、各産地の田邉さんおすすめワインをご紹介いたします。
バローロ
南部のクーネオ県に位置する「ワインの王」と名高いバローロの生産地です。
この地区で生産されるワインは、細やかな酸と重厚感を感じるタンニン、獣(けもの)やなめし革のような香りが特徴。
ラモッラやバローロ村などのある西側は青い泥灰土で、砂も混ざり、マグネシウム、マンガンが豊富。香り高く、優美なバローロが生まれます。
一方で東側はレヴィツィアーノと呼ばれる泥灰土で、鉄分が多く赤茶色をしています。こちらは厳格で、スパイシーなバローロが生まれます。
田邉さんおすすめワイン バローロ / プルノット
古典的なスタイルのバローロで有名。ドラフルーツやキノコ、森の香り、緻密なタンニンが味わいの骨格をつくり、余韻が長く続く。 複雑性のあるアロマと風味、ドライでありながら豊潤さのある味わいは、まさに王のワインの風格を感じます。 プルノットはバローロのみでなく白ワインのクオリティの高さにも定評があり、個人的にもレストランやワインスクールで頻繁におすすめしています。
バルバレスコ
バローロと同じく南部のクーネオ県に位置し、ネッビオーロから造られるバルバレスコの産地。
バルバレスコはエレガントでビロードのような滑らかさから、バローロと並んで「イタリアワインの女王」と形容されます。
石灰粘土質で、砂質の脈層を含む、カルシウムに富んだ土壌が特徴です。畑の中でもエリアによってさまざまな特徴の土壌を備えているため、独特の個性を持つ複雑で力強いワインが生み出されています。
田邉さんおすすめワイン バルバレスコ / ガヤ
世界的な知名度を誇るイタリアワインの帝王が生み出す偉大な赤ワイン。 14の最優良区画のブドウをバランスよくブレンドし、この土地を代表するブドウ品種であるネッビオーロのポテンシャルが最大限に引き出されています。 果実の凝縮感と複雑性を感じるアロマ、奥行きのある豊かな味わい、長い余韻を楽しむことができます。ビーフシチューや煮込みハンバーグとの相性も抜群。
アスティ
アスティは南部に位置する、発泡性の甘口ワインが有名な産地です。
土壌は粘土石灰質土壌で、砂が多く混ざっているところや凝灰岩土壌もあり、大陸性気候で比較的温暖な気候をしていますが、ティレニア海の海風の影響を強く受けます。
同名の発泡性甘口ワイン・アスティは、イタリアのワイン法上最高格付けであるDOCGに認定されており、アスティの他アレッサンドリアやクーネオの52の村で造られています。
中でも有名なアスティ・スプマンテは、そのふくよかなマスカットの香りと甘く爽やかな口当たりで多くの人々から人気を博しています。
田邉さんおすすめワイン アスティ・スプマンテ / ガンチア
世界のワインラヴァーにその名を知られるアスティ・スプマンテの第一人者が生み出す甘口のスパークリングワイン。 マスカットや青リンゴを思わせる香りが華やかに広がり、軽やかでジューシーな果実の味わいを楽しめます。 生ハムとパルミジャーノチーズ、グリーンオリーブとフレッシュトマトを盛り合わせたオードブルとのペアリングがおすすめです。
ガヴィ
東部のアレッサンドリアに位置する、コルテーゼを100%使用して造られる白ワインの産地。
粘土石灰質に凝灰岩が混ざる土壌、夏と冬の寒暖差、アペニン山脈からの雪解け水、温暖で海風の当たる南向きの斜面といったブドウ栽培に適した特異なテロワールが良質なコルテーゼを育み、非常に優美な味わいのワインが多数生み出されています。
もともとガヴィ地域で造られるワインは甘口が中心でした。しかし19世紀にジェノバの富裕層の別荘地としてガヴィが人気になると、地中海沿岸の郷土料理である魚料理に合わせるため辛口のワインが造られるようになり、1960〜1970年代には世界的大ブームも起こりました。
田邉さんおすすめワイン グリフォ・デル・クアルタロ ガヴィ・ディ・ガヴィ / エンリコ・セラフィーノ
国内外で高評価を受けるピエモンテ州ロエロ地域の最古の生産者が造る白ワイン。 香りは穏やかでありながら奥行きがあり、レモンやライムの爽やかな香りに、貝殻のようなミネラル香、白い花のニュアンスも感じられる。 ドライでフレッシュ、余韻には心地よい旨味が感じられます。バーニャカウダとの相性は抜群。よく冷やしてアペリティフとして楽しむのもおすすめ。
グリフォ・デル・クアルタロ ガヴィ・ディ・ガヴィ
白
エレガント&ミネラリー
国内外で高評価を受ける、ピエモンテ・ロエロ地域最古の造り手。しっかりとしたボディとシャープな酸が特徴。ミネラル感溢れる、繊細で香り高い白ワイン。 詳細を見る
4.2
(26件)2022年
3,080 円
2,156 円
(税込)
※この商品を含むご注文は11月29日以降に出荷いたします。
ピエモンテワイン豆知識
多種多様の味わいとスタイルがあるピエモンテのワインを、さらに楽しむための豆知識をご紹介いたします。
ソムリエ解説!ピエモンテのワインの「当たり年」って?
ピエモンテにおける近年の当たり年は2016年と言われています。 当たり年の特徴としては、ブドウがしっかりと成熟するのに充分な日照時間があること。 ただし、単純に暑い日が多いのが良いというわけではなく、寒暖の差もあり、適度な降雨量があることも大切です。それによりブドウの糖分だけでなく、風味や酸味が生まれます。 もう一つ重要なこととして、ブドウの成熟期から収穫期にかけての雨量があります。 収穫期に雨が降ってしまうとブドウが水分を吸ってしまい風味が薄まってしまうため、最終段階で晴天に見舞われることは良質なブドウを収穫する上で非常に重要です。 これらすべての条件が揃って初めてグレートヴィンテージが誕生するのです。
ソムリエ解説!どんな飲み方がおすすめ?
バローロ等、ネッビオーロから造られるタンニンのしっかりとした複雑性のある赤ワインであれば、温度を高めにして、大ぶりのグラスに注ぐことで、香りや味わいのポテンシャルを引き出すことができます。 また、デキャンタージュをすることで、より風味を豊かにし、味わいをやわらかくすることもできます。 一方、バルべーラから造られた果実味豊かでフルーティさを感じる赤ワインは、中庸のブルゴーニュ型のグラスにやや冷やしめで注ぐことで、持ち前の果実と花のフレーヴァーを楽しむことができます。 ガヴィ等の爽やかな白ワインに関しては、8~10度くらいまでよく冷やして、小ぶりのグラスでフレッシュ感をキープしながら飲むのがおすすめです。
ソムリエ解説!熟成させるときに注意することは?
ワイン全般に言えることですが、熟成させる時はヨーロッパの地下カーヴのような、ワインの保管にとって理想的な条件を備えることが重要です。 冷暗所で振動を避け、温度は12~15度、湿度70~75%程度、ピエモンテはコルクを使用するのが一般的なので、熟成させる時はコルクの乾燥を防ぐためにボトルを横にしておく必要があります。 温度に関しては、暖かいところと涼しいところを何度か行き来して、温度が上がったり下がったりを繰り返すことがワインにとっての大きなダメージとなりますので、適温をキープするように充分注意したいところです。
ピエモンテのワインにぴったりの料理
ワインに加えて乳製品やジビエ、白トリュフが特産という食材の宝庫であるピエモンテは、イタリア国内でも人口の少ない州にも関わらず星付きレストランが多い美食の都としても有名です。
そんなピエモンテで造られるワインに合う料理や食材、ペアリングのコツを田邉さんにお聞きしました。
ソムリエ解説!赤ワインにあう料理は?
ピエモンテの赤ワインに使われるブドウとして有名なのが「ネッビオーロ」と「バルべーラ」。これら2つの品種を使った赤ワインはタイプも異なるため、合わせる料理の方向性も変わってきます。 ネッビオーロの赤として有名な「バローロ」は牛肉の煮込みとの相性が良く、やわらかく煮込んだ牛肉の旨味とテクスチャーに緻密なタンニンときめ細かい酸味が溶け込み、食材の風味をより豊かにしてくれます。 バルべーラから造られた赤ワインは、より渋みが優しくフルーティな印象で、ローストビーフやハムにビーツを添えたオードブルとよく合います。
ソムリエ解説!白ワインにあう料理は?
イタリアの爽やか辛口タイプの白ワインには、地中海というイメージから魚介類とのペアリングを連想しやすいですが、ピエモンテに関しては山のエリアのワインであるということを念頭に考える必要があります。 私がおすすめしたいのは野菜を使ったお料理。ピエモンテを代表する白ワイン「ガヴィ」には日本でも有名な料理「バーニャ・カウダ」がとても相性がよく、定番の組み合わせと言えます。 他にも、「ロエロ アルネイス」は現地でも有名な食材であるアスパラガスを使ったお料理との相性が抜群。 ワイン特有のミネラルと酸味、心地よい苦味が野菜の味わいに同調し、双方の美味しさがさらに引き立ちます。
まとめ
ワイン造りの長い歴史と、洗練された食文化を持つピエモンテ。
イタリアワインを飲むならどれがいいか迷っている……という人はぜひ、ピエモンテのワインを飲んでみてくださいね。
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文=岡本名央