世界のワイン産地の中でも北に位置し、その冷涼な気候に由来する美しい酸と繊細な芳香を備えた白ワインの産地として知られるドイツ。
かつては「ドイツワイン=甘口」というイメージがありましたが、現在は洗練された辛口ワインの生産が主流となっています。今回はそんなドイツについてソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
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解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
目次
気候と風土
ドイツのワイン生産地域は北緯47~52度とワイン栽培の北限に近く、他の産地に比べて冷涼な気候をしています。
主な生産地域となっているフランス寄りの南西部は、大西洋と大陸の両側からの影響を受け、冬は温暖で夏は涼しく乾燥しており、ブドウの成長期にあたる夏から秋にかけて雨が降りやすく、年間日照時間も比較的短いのが特徴です。
その特徴からブドウはゆっくりと成熟、果実が熟す前の綺麗な酸を保ったまま、エキスとアロマが蓄積され、果実の甘みと酸味のバランスのとれたワインが出来上がります。
上記のような気候条件のドイツにおいて、かつてブドウが完熟することは非常に稀で、糖度の高いブドウを造ることは困難でした。そのためドイツのワイン法では、最も糖度の高いブドウから造られた甘口ワインが最高位の肩書きとされ、生産者は甘口の白ワイン生産に力を入れていました。
しかし、1990年半ば頃からの世界的な赤ワインブームとワインの消費スタイルの変化による影響から、赤ワインと辛口ワインの需要が急増しました。それにより現在ではドイツにおけるワイン全生産量の約7割が辛口・中辛口ワインとなっており、加えてオーガニックブドウを原料とするワインやナチュラルワインの生産量も増えています。
昨今は地球温暖化の影響で、ドイツでも夏の最高気温が40度近くまで上昇することが珍しくなく、以前よりもブドウが熟しやすい環境になりました。そのため、これまでドイツでは栽培するのが難しいとされてきたメルロやカベルネ・ソーヴィニヨンなど、ヨーロッパの比較的温暖な産地で栽培されている品種に挑戦し始める生産者も出てきています。
栽培されている主なブドウ品種
代表的品種であるリースリングをはじめ、ドイツのワイン造りに使用される主要品種について紹介します。
リースリング
シャルドネと並び、偉大なワインを生む高貴なブドウ品種として知られる白ブドウ品種。
香り豊かなアロマティック品種の一つで、造られるワインからは、「ペトロール香(石油香)」が感じられやすいことが特徴で、辛口から極甘口まで幅広いスタイルのワインに用いられます。
世界のリースリングの栽培面積の約6割がドイツにあり、中でもモーゼルとラインガウが二大産地として知られており、エレガントな酸味と余韻の長い気品に満ちた味わいから、重厚な力強さと繊細さを兼ね備えた味わいまでさまざまなスタイルのワインが多く造られています。
シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)
高品質なワインを生み出す、赤ワインの代表的なブドウ品種。フランス・ブルゴーニュなどをはじめ世界各地で栽培されており、多くはピノ・ノワールという名前で親しまれていますが、ドイツにおいてはシュペートブルグンダーと呼ばれています。
繊細で気難しい品種のため栽培のハードルが高いことが特徴です。良質なブドウを育てるためには冷涼か温和な気候が必要で、病気にも弱いことから、他の品種に比べて栽培するのも醸造するのも難しく、限定的な条件の環境でしか栽培されていません。
ドイツでは、赤系果実の豊かな香りとフレッシュな果実味と酸味を持ち、タンニン控えめでなめらかな口当たりのワインが造られています。
ミュラー・トゥルガウ
ドイツで栽培されている白ブドウ品種の中でリースリングに次いで広く栽培されている品種です。
通常ブドウ栽培の適地とされていない平地での栽培に向いており、また気候や土壌への順応性が高く早熟で多産な特徴を持ちます。辛口から甘口まで多彩なスタイルのワインに用いられています。
グラウブルグンダー / ルーレンダー(ピノ・グリ)
黒ブドウ品種であるピノ・ノワールの突然変異種。ピノ・グリまたはピノ・グリージョの名でフランス・イタリアを中心に栽培されている品種で、ドイツにおいてはグラウブルグンダーまたはルーレンダーと呼ばれています。
比較的冷涼で風通しと水はけの良い土地を好むためドイツの気候に適しており、酸味と甘みのバランスの取れたしっかりとした味わいの辛口ワインが造られています。また、糖度が上がりやすい性質を持っているため、甘口ワインにも用いられます。
ソムリエ解説!ドイツのワイン造りの特徴って?
ドイツは世界のワイン産地の中でも北限に近いことから、冷涼な気候帯で、生き生きとした酸味と豊かな風味が感じられる白ワインを中心に生産しています。 その冷涼な気候故に、ブドウはなるべく多くの日照量を得る必要があるため、主要産地の多くのブドウ畑が川沿いの急斜面に位置しています。 そうすることで、より多くの日照エネルギーを受けることができ、成熟度の高いブドウから良質なワインを生み出すことができるのです。 ブドウ品種はドイツのエース的存在であるリースリングを主力にしながら、近年ではピノ系3品種(ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ピノ・ブラン)の生産量と人気が高まってきているのも特徴です。
代表的な産地
ドイツには13の特定ワイン生産地域があり、原産地呼称保護ワインであるクヴァリテーツヴァインとプレディカーツヴァインはこの特定ワイン生産地域でのみ生産することができます。
13地域のうち11地域がドイツ南西部のライン川とその支流の流域にあり、2地域がチェコ・ポーランド寄りのドイツ東部にあります。代表的な4つの生産地と、各産地の田邉さんおすすめワインをご紹介いたします。
モーゼル
フランス・アルザスのヴォージュ山脈を水源とするモーゼル川に沿って広がる産地。川の流れに沿って様々に向きを変える渓谷の急斜面にブドウ畑が広がっています。
この地域のブドウ畑はリースリングが半数以上を占めており、かつてはエレガントな甘口白ワインの生産が主流でしたが、近年は高品質な辛口の白ワインが多く造られています。また、シュペートブルグンダーの栽培面積も増えています。
田邉さんおすすめワイン ローゼン・リースリング・ドライ / ローゼン・ブラザーズ
長い歴史と名声を誇るドイツのモーゼルの生産者が生み出すエレガントな白ワイン。青リンゴや白桃、スイカズラや菩提樹の華やかな香り、ジュージーな果実味と伸びやかな酸味が余韻まで心地よく続いていきます。 ドイツのリースリングの中でもドライに仕上げられたフードフレンドリーな1本。
ローゼン・リースリング・ドライ
白
エレガント&ミネラリー
デキャンターにてマン・オブ・ザ・イヤーに選出された名醸造家が、コスパを追及して生み出した1本。歯切れの良い酸味と洗練されたニュアンスが魅力。 詳細を見る
4.1
(7件)2023年
2,750 円
(税込)
NEW
ラインガウ
北緯50度に沿って流れるライン川の右岸(北側)に広がる産地。ヨハニスベルク、ガイゼンハイム、リューデスハイムといった有名なブドウ畑や大学がある村が続いています。
リースリング、シュペートブルグンダーが主に栽培されています。最高峰のリースリングを生産する地域と言われており、ドイツを代表する銘醸地として世界でも有名です。
田邉さんおすすめワイン ヴィンケル・リースリング・カビネット / シュロス・フォルラーツ
特級畑を含む、最高品質のリースリングの畑を持つ造り手が造る秀逸な白ワイン。この「カビネット」は低めのアルコールで軽やかで果実の甘さを感じるドイツの伝統的なスタイルのリースリング。 黄色リンゴや洋梨、アカシアの香り、果実の純粋な味わいと奥行きのあるミネラル感、綺麗な酸味との調和が取れています。
ヴィンケル・リースリング・カビネット
白
エレガント&ミネラリー
ドイツ5大畑の名を冠する、リースリングに特化した歴史あるワイナリー。リースリングで仕立てる、心地よい酸と甘みのバランスが見事な甘口白ワイン。 詳細を見る
4.7
(22件)2021年
3,520 円
(税込)
ラインヘッセン
ドイツ最大のワイン生産地域。温暖な気候、石灰質を含む肥沃なレス土壌で、1980年代まではリープフラウミルヒに代表される量産型甘口ワインの主要生産地でしたが、現在はテロワールを反映させた高品質なワインが生産されるようになりました。
白ブドウはリースリング、ミュラー・トゥルガウ、シルヴァーナー、黒ブドウはドルンフェルダーが多く栽培されています。
田邉さんおすすめワイン リースリング・アウスレーゼ / ヴィットマン
数々のワイン専門誌で高く評価されるワイナリーが手がける白ワイン。黄色リンゴ、黄桃やカリン、キンモクセイや花の蜜の香りが広がる。 味わいは豊かな果実味と豊潤な甘味、伸びやかで綺麗な酸味と甘味とのバランスが素晴らしい。しっかりと冷やして、フルーツを使ったサラダや桃のカプレーゼと一緒にお召し上がりいただきたい。
ファルツ
ドイツで2番目に大きい産地。ラインヘッセンの南側に地続きで広がっており、ブドウ畑は山地の麓の斜面から東西に広がっています。
1980年代まではミュラー・トゥルガウ等の交配品種による甘口ワインが、主に協同組合によって盛んに造られていましたが、1990年代後半からは伝統品種による辛口ワインの生産にシフトしました。近年はとりわけ若手生産者の活躍が著しい産地です。
田邉さんおすすめワイン ベッカー・シュペートブルグンダー / フリードリッヒ・ベッカー
フリードリッヒ・ベッカーは、300年に渡りドイツで代々ワイン造りを行ってきた名門で、日本においても高い人気を誇る生産者。 特に、ドイツにおけるトップクラスのピノ・ノワール生産者としてその名が広く知られています。 ラズベリーやブルーベリー、シナモンや紅茶の香り、まろやかな果実の風味とシルキーなタンニンのバランスが秀逸。コストパフォーマンスも抜群です。
ベッカー・シュペートブルグンダー
赤
チャーミング&パフュームド
世界中で注目されている、ドイツ産ピノ・ノワールのトップ生産者。一度飲めば魅了される、濃厚かつエレガントなスタンダードキュヴェ。 詳細を見る
4.3
(17件)2019年
3,850 円
(税込)
JS 93
ドイツのワイン豆知識
ドイツのワインをさらに楽しむための豆知識をご紹介いたします。
ソムリエ解説!ドイツのワインの「当たり年」って?
ドイツワインは、そのほとんどが単一品種で造ることが義務付けられていることから、品種のブレンド比率を変えて個性をつくることができないため、その年の気候の違いが、よりリアルにワインの味わいに反映されやすく、収穫のタイミング等にも特に神経を使うことが必要となります。 近年のドイツにおいて、2015年から2019年まで良いブドウの収穫年が続いていますが、特に当たり年と言われているグレートヴィンテージが2009年。 グレートヴィンテージとは、晴天に恵まれブドウが成熟し、適度な雨量、寒暖差による風味の発展と酸の生成がバランスよく進み、秋の収穫期の気候にも恵まれ、広い範囲でより良いブドウが収穫できた年と考えられています。
ソムリエ解説!どんな飲み方がおすすめ?
リースリングやピノ・ブラン、ジルヴァーナー等のブドウ品種から造られた爽やかなタイプの白ワインは、やや小ぶりの細身の万能型グラスで、よく冷やして(8~10度程度)飲むことで、より美味しく楽しむことができます。 一方で、アウスレーゼやベーレンアウスレーゼ、アイスワインのような甘口のタイプには、8度未満にしっかりと冷やすことで、凝縮した甘味と豊かな酸味とのバランスを楽しむことができます。 ピノ・ノワールから造られる赤ワインは、ブルゴーニュ型のグラスがおすすめ。渋みが穏やかで酸味が豊かなスタイルが多いため、飲用温度は赤としてはやや低めの14~16度程度が理想的です。 ドイツのワインに関しては、デカンタージュは基本的に必要としないタイプがほとんどです。
ソムリエ解説!熟成させるときに注意することは?
ドイツの白ワインは、新鮮な果実の風味と豊かな酸味を特徴としたタイプが多く、赤ワインは渋みが穏やかで樽のニュアンスをあまりつけないものが主流。 多くの場合、早めに楽しめるものが多いですが、選りすぐりの区画のブドウから造られた秀逸な白・赤ワイン、瓶内二次発酵のスパークリングワインに関しては、風味がより凝縮しており、長期熟成により複雑性が増していくものもあり、その変化を楽しむことができます。 その場合、コルクの乾燥を防ぎ、温度を一定化するために、冷蔵庫に保管するのではなく、12~15度程度で管理されたワインセラーで保管しておくことが重要となります。
ドイツのワインにぴったりの料理
ドイツのワインに合う料理や食材、ペアリングのコツを田邉さんにお聞きしました。
ソムリエ解説!赤ワインにあう料理は?
ドイツの赤ワインは、ピノ・ノワールから造られた赤い果実と花の香り、ほのかなスパイスのニュアンスが感じられ、まろやかな果実味と共に心地よい渋みとなめらかな酸味を持つのが特徴で、ブルゴーニュの赤ワインにもよく似たスタイルと言えます。 このような個性をもつ赤ワインには、鶏肉のレバームースやポークリエット、ソーセージの盛り合わせにマスタードを添えたお料理等、お肉を使用したオードブルとの組み合わせがおすすめです。 肉の旨味を緻密なタンニンと豊かな酸味がより一層引き出してくれます。その他にも、鶏肉を赤ワインで煮込んだブルゴーニュの郷土料理「コック・オ・ヴァン」のような料理にもとてもよく合います。
ソムリエ解説!白ワインにあう料理は?
ドイツを代表するブドウ品種リースリングから造られる酸味豊かで爽やかでドライ、もしくはほのかな甘さをもつ白ワインと、酸味豊かなキャベツとソーセージやベーコンが盛り付けられたザウアークラウトは相性抜群。 野菜やお肉の旨味をワインの豊かな酸味とミネラルが引き出してくれます。ピノ・ブランやジルヴァーナーから造られたフレッシュでドライな白ワインは、ドイツの春の食材としても有名なホワイトアスパラガスを茹でて、オランデーズソースでいただくお料理とよく合います。 上記の白ワイン全般と、ドイツで日常的によく食べられているソーセージ各種との相性は素晴らしく、シンプルで美味しいマリアージュを楽しめます。
ソムリエ解説!甘口ワインにあう料理は?
ドイツを代表するブドウ品種リースリングから造られる甘口ワイン、ベーレンアウスレーゼやアイスワイン、トロッケンベーレンアウスレーゼ等、豊潤な甘味と豊かな酸味をもつ白ワインには、生ハムメロンや桃のカプレーゼのようなまろやかな甘味をもつフルーツと旨味と塩味のある生ハムやフレッシュでクリーミーなチーズを合わせたオードブルにもよく合います。 その他にも、ドイツの有名なチーズ「カンボゾーラ」との相性も抜群。こちらは、カマンベールとゴルゴンゾーラを合わせたネーミングで、まさに白カビとブルーを組み合わせたチーズで、ワインの豊かな甘味と酸味、チーズの旨味と塩味、ほのかな苦味の五つの味がそろった、まさに「五味のマリアージュ」を体感することができます。
まとめ
辛口から極甘口まで多彩なドイツワイン。その味わいとスタイルは時代の移り変わりと共に大きく変わってきました。
変化した伝統産地ドイツのワインをぜひチェックしてみてくださいね。
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文=岡本名央