イタリアワインでよく聞く「モスカート」というブドウは、ワインの原料ではもちろんですが、生食用としても使用されています。また、乾燥させることでレーズンにもなるような、バラエティー豊かな系譜を持つブドウ品種です。
モスカートは産地によって呼び名が変わり、さらに、似たような名前のブドウ品種がいくつも存在するため、非常にわかりづらいのが難点です。そういうわけで、今回はモスカートについて詳しく解説致します。
モスカートはマスカットの別名
モスカートとは、ギリシャを原産とする古い歴史を持つブドウで、実は、白ワインになるブドウから赤ワインになる果皮の黒いブドウまで幅広くあるブドウ品種群の名称です。
モスカートはマスカットの別名で、一般的にモスカートと言えばイタリアで栽培されているモスカート系のブドウ全てを指します。なお、フランスでは「ミュスカ」、スペインでは「モスカテル」と呼ばれています。
モスカートはワイン用としてだけでなく、生食用としても世界中で栽培されており、日本で生食用として人気の高い「マスカット・オブ・アレキサンドリア」もモスカートの一種です。そして、ワイン用として主に栽培されているモスカートは「モスカート・ビアンコ」(フランスではミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランと言います)という品種です。
モスカートの特徴
ムスク(麝香)の香りを放つ非常にアロマティックなブドウです。スペインでの呼び名モスカテルのモスカは、英語のモスキート(蚊)と同じ語源から派生した名称と言われ、虫が寄ってくるほど甘い(香り)といった意味があるほどです。
同じモスカート系のブドウでも、モスカート・ビアンコは小粒で丸く、生食用のマスカット・アレキサンドリアは楕円形といったように、果皮の色から果実の形まで様々な個性があります。
モスカートから造られるワインは辛口から甘口までありますが、地中海沿岸地方では主に酒精強化ワインの原料として使用されています。
産地別の特徴
モスカートから造られるワインは産地によって多様です。産地別に詳しく紹介致します。
北イタリア
イタリアの乾杯ワインの定番『アスティ』の原料として、ピエモンテ州のアスティ、アレッサンドリア、クーネオの3県でモスカート・ビアンコが広く栽培されています。
『アスティ』には、スパークリングワインのアスティ・スプマンテ、微発泡ワインのモスカート・ダスティ、スティルワインのヴェンデンミア・タルディーヴァがあり、いずれも香り高い甘口です。
生産量は大変多く、ドイツやイギリスなど海外にも大量に輸出されています。
フランス
フランス北東部のワイン産地、アルザス地方で栽培されています。ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン、ミュスカ・ローズ・ア・プティ・グラン、ミュスカ・オットネルのミュスカ系3品種が、リースリング等とともにアルザスの白ワインの原料ブドウとして認められています。そして、この3種をまとめてミュスカ・ダルザス(アルザスのミュスカという意味)と呼んでいます。基本的には、白い花やメロン、桃、洋梨のような果実の華やかな香りと、爽やかな酸が特徴の極辛口のワインとなります。
南フランスのルーション地方では、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランとミュスカ・アレクサンドリーを用いて天然の甘口ワイン(ヴァン・ドゥー・ナチュレル)が造られています。ヴァン・ドゥー・ナチュレルはブドウ果汁の発酵途中にアルコールを添加し発酵を停止させるため、天然の糖分をはじめブドウ本来の風味がワインの中に多く残留します。原料ブドウが非常にアロマティックなので、出来上がるワインも大変芳醇で、トロリとした口当たりのリッチなデザートワインになります。
スペイン
モスカテルは、スペインのアンダルシア地方で造られる酒精強化ワイン、シェリーの原料ブドウの一つで、通常マスカット・アレキサンドリアのことを指します。シェリーの一種で名称でもある『モスカテル』は、モスカテルを遅摘み、または天日干しすることで糖度を高め、果汁に酒精強化をしてブドウ本来の糖度を残した極甘口のシェリーです。
なお、シェリーの伝統的なモスカテル製法は、長期熟成を経て濃い琥珀色に仕上げるのが一般的ですが、スペインの他の地域のモスカテルのワインは大抵、黄金色をしています。
オーストラリア
オーストラリア南東部のヴィクトリア州にあるラザグレンは酒精強化ワインの産地で、マスカットから造られる濃厚な甘口ワインが有名です。
おすすめワイン
最後に、ぜひ一度お試しいただきたいモスカートのワインをご紹介します。
こちらはイタリア産のモスカートで造られる微発泡のやや甘口白ワイン。
フルーティな香りと爽やかな甘味は、食前酒としてはもちろん、インドやタイ料理などのエスニック料理とも好相性。
辛口が好きな人にもお薦めできる、クオリティの高い甘口ワインです。
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まとめ
モスカートは原料ブドウそのものの風味をワインに移す、数少ないワイン用ブドウ品種のうちの一つです。
多くの種類があり、造られるワインも様々なのでわかりにくいと思いますが、モスカート系のブドウに共通していることは、やはりフルーティーな甘い香りでしょう。その甘い香りを生かした甘口のワインは、お酒があまり強くない人にも飲みやすく、アスティ・スプマンテのような甘口の軽いスパークリングワインは食前酒としても大変オススメです。また、濃厚な酒精強化ワインは食後のデザートやブルーチーズとも好相性です。ぜひ、お試し下さい。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2018
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