水の都ヴェネチアを有するヴェネト州は、最高級ワインと名高い「アマローネ」やイタリアの代表的な白ワイン「ソアヴェ」などを生み出すワイン産地です。
今回は歴史的な建造物と水辺の美しい風景を持つ銘醸地ヴェネトについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
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解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
気候と風土
イタリア北東部に位置するヴェネト州は山岳部よりも平野部が多い地形が特徴です。海に面していることと、イタリア最大の湖・ガルダ湖を有することから豊富な水源を持っており、州都であるヴェネチアは水の都として知られています。
アドリア海に面する南部は、夏は高温で乾燥し冬は温暖で雨が多い地中海性気候で、それ以外の地域は日中の熱で温まりやすいという性質を持つ亜大陸性気候となっています。
また、北からの寒風をアルプス山脈が防ぎ、アドリア海が温度の低下を緩和させるために気温は温かく、ワイン栽培に適しています。
イタリアの中でも州別ワイン生産量のトップの座を占めることが多い一大ワイン産地であり、デイリーワインから熟成ポテンシャルを持つ複雑なワインまで様々なスタイルのワインが造られています。
また、赤ワイン・白ワイン・スパークリングなどの他、「レチョート」と呼ばれる甘口ワインや、「グラッパ」などの蒸留酒の製造も盛んに行われています。
栽培されている主なブドウ品種
代表的品種であるガルガーネガをはじめ、ヴェネト州で栽培されている品種について紹介します。
ガルガーネガ
イタリアを原産地とする白ブドウ品種。ヴェネト州の代表的な白ワイン、ソアヴェに用いられる主要品種で、少なくとも1000年以上前からソアヴェの丘陵地帯で栽培されている、イタリアで最も古いブドウ品種の一つです。
柑橘系やリンゴ、洋ナシなどのスッキリした爽やかな味わいが特徴で、しっかりとした酸味を持っていることから、長期熟成が可能な甘口ワインの生産にも用いられます。
グレーラ
シャンパンやカヴァと並ぶ世界の三大スパークリングワインの一つであるプロセッコに用いられる主要品種。
2009年まで「プロセッコ」という名前で呼ばれていましたが、プロセッコというワイン名を守るため、法律的にグレーラという名前に変更されました。
白い花やモモなどの香りにほのかな苦みを持った味わいが特徴です。
コルヴィーナ
ヴェネト州を代表する赤ワイン、アマローネの主要品種。
収穫したブドウをアパッシメント(陰干し)してから発酵させる製法が特徴のアマローネ造りに非常に適した品種です。
通常の製法で造られたワインは、チェリーの香りと適度な酸・タンニンを持ち、ピノ・ノワールに近い味わいになります。
ロンディネッラ
コルヴィーナから生まれた品種。単一品種で使用されることは稀で、主にワインにボディと酸を与える目的のブレンドに用いられます。
病害に強く、収量が多いため生産性の高い品種ですが、品質の面では劣ると考えられており、ブレンド比率は30%までに限られています。
ソムリエ解説!ヴェネトのワイン造りの特徴って?
ヴェネトのワイン造りの大きな特徴として、土着のブドウ品種にフォーカスして、その個性をしっかりと表現していることが挙げられます。 白ブドウの代表的な品種として有名なのが「ガルガーネガ」。イタリアを代表する白ワインの一つである「ソアヴェ」はこの品種を主体として造られ、熟した果実とフローラルな香りが感じられる、ドライで爽やかな白ワインが生み出されています。 代表的な赤ワインとしては、「ヴァルポリチェッラ」が有名です。地元の黒ブドウ「コルヴィーナ」から造られる果実味あふれる豊潤なスタイルが魅力で、陰干しブドウが使われた「アマローネ」は高い名声を誇ります。 スパークリングワイン「プロセッコ」は、白ブドウ「グレーラ」から造られ、フローラルなアロマとフルーティーな味わいを楽しむことができ、今世界中で大人気となっています。
代表的な産地
ヴェネト州の主な生産地と、各産地の田邉さんおすすめワインをご紹介いたします。
ソアヴェ
イタリアの代表的白ワイン、ソアヴェの産地です。DOC認定されたのは1968年ですが、ワイン造りの歴史は古代ローマ時代にも遡ります。また、2016年には、イタリアのワイン産地として初めて「歴史的価値のある田園風景」に認められました。
ソアヴェはイタリア語で「心地良い」を意味し、その名の通りフレッシュな果実の香りと心地良いミネラル感が特徴のワインが造られています。
地区内で、平野部に広がる産地で造られるソアヴェDOCと、モンテフォルテ・ダルポーネ村の背後に広がる丘陵地帯で造られるソアヴェ・クラシコDOCの二つに区別されており、出来上がるワインの味わいにも違いがあります。
フレッシュ&フルーティーな味わいで早飲みでも楽しめる味わいのワインが造られるソアヴェDOCに対し、ソアヴェ・クラシコDOCでは、熟成にも耐えうる芳醇な香りとコクのある味わいのワインが造られます。
田邉さんおすすめワイン ソアヴェ / アレグリーニ
アレグリーニは、イタリア北東部ヴェネト州の中で、最も有名な赤ワインの産地であるヴァルポリチェッラに位置する名門ワイナリー。 レモンやグレープフルーツ、洋梨、白い花の香り、ほのかに貝殻のニュアンスも感じられます。爽やかな酸味とコクを与える心地良い苦味のバランスが素晴らしく、フードフレンドリーな白ワインです。
ヴァルポリチェッラ
世界的に人気のあるアマローネを生み出す、「ロミオとジュリエット」の舞台としても有名な町ヴェローナの近郊に約8,000ha広がる産地で、クラシコ、ヴァルパンテーナ、エストの三つの地区に分類されています。
クラシコは最も西に位置し、歴史的に元々アマローネが生産されていた地区です。最高品質の地区と考えられており、ここで造られているワインのラベルには、アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・「クラシコ」と表記されます。
アレグリーニやクインタレッリといった代表的生産者もこの地区にワイナリーを構えています。
ヴァルパンテーナはクラシコ地区のすぐ東に位置し、クラシコ地区以外で唯一サブゾーンとしての呼称を与えられている地区です。ラベルにはアマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・「ヴァルパンテーナ」と表記されます。
クラシコに比べると、スパイシーな香りがこの地区の特徴と言われており、この地区のブドウだけを使った特別なキュヴェを造っている生産者もいます。
エストは前述の二つの地区のように法的に区分されていない残りの生産地域を指します。ラベルにはアマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラのみ表記されます。
エスト=イースト(東)という名前の通り、アマローネ生産地域で最も東に位置し、有名な白ワイン「ソアヴェ」の生産地域に隣接しています。
田邉さんおすすめワイン コスタセラ・アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ / マァジ
マァジはヴェネト州ヴェローナに位置している、世界的な地位を確立しているイタリアを代表するワイナリーの一つであり、日本においても高い知名度を誇ります。 香りには、熟したブルーベリーやカシスを想わせる果実香、ドライフルーツやナツメグ、リコリスのニュアンスが感じられ、凝縮感のある果実味と、骨格のある味わい、甘美で複雑さのあるフレーヴァーが余韻まで長く続いていきます。
プロセッコ
シャンパンやカヴァと並ぶ世界の三大スパークリングワインの一つであるプロセッコの産地で、州都ヴェネチアの北25kmほどに位置するトレヴィーゾ県周囲の地区を指します。
法律上三つに分類された生産地域は合わせて30,000haを超える広さを有しています。
中でも古くからプロセッコを生産してきたコネリアーノからヴァルドッビアデーネにかけて東西にのびる地域は、標高100~500mの真南向き斜面にブドウ畑が広がるプロセッコに最適なロケーションです。
素晴らしい日当たりと、アルプス山脈やアドリア海からの風による冷却効果で、ブドウが適度な酸を保ったまま完熟することができるため、この地域ではより高品質なプロセッコが造られています。
田邉さんおすすめワイン ベルスター / ビソル
今や世界的な人気を誇る「プロセッコ」の中でも、特に有名な生産者が造り出す秀逸なスパークリングワイン。 青リンゴや白桃、白い花の香り、生き生きした酸味と果実感、きめ細かい泡のテクスチャーが心地よく広がります。パーティーシーンにもおすすめしたい1本。
ヴェネトのワイン豆知識
ヴェネトのワインをさらに楽しむための豆知識をご紹介いたします。
ソムリエ解説!ヴェネトのワインの「当たり年」って?
近年では、特に2019年がヴェネトにおいて良年と言われています。 ワインにおけるヴィンテージの良し悪しは、気候に大きく左右されますが、晴天によるブドウの成熟と適度な雨量、しっかりとした寒暖差による風味の発展、酸の生成等が上手く進んだ年は、ワインにとって良いブドウが収穫できます。 そしてもう一つ重要なことは、ブドウの成熟期から収穫期にかけての雨量があります。収穫期に雨が降ってしまうとブドウが水分を吸ってしまい風味が薄まってしまうため、最終段階で晴天に見舞われることは良質なブドウを収穫する上で非常に重要です。 これらすべての条件が揃って初めてグレートヴィンテージが誕生するのです。
ソムリエ解説!どんな飲み方がおすすめ?
爽やかなタイプの白ワイン「ソアヴェ」に関しては、8~10度くらいまで冷やして、小ぶりのグラスでフレッシュ感をキープしながら飲むのがおすすめです。 果実味豊かでフルーティーさを感じる「ヴァルポリチェッラ」の赤ワインは、中庸のグラスにやや低めの温度(14〜16度程度)で注ぐことで、持ち前の果実と花のフレーヴァーを楽しむことができます。 一方、「アマローネ」のような、凝縮感や複雑性のある赤ワインであれば、温度を高め(18〜20度程度)にして大ぶりのブルゴーニュ型グラスに注ぐことで、香りや味わいのポテンシャルをより一層引き出すことができます。 こちらはデキャンタージュをすることでさらに風味を豊かにし、味わいをやわらかくすることもできます。
ソムリエ解説!熟成させるときに注意することは?
熟成させる時はヨーロッパの地下カーヴのような、ワインの保管にとって理想的な条件を備えることが重要です。冷暗所で振動を避け、温度は12~15度、湿度70~75%程度、コルクの乾燥を防ぐためにボトルを横にしておく必要があります。 長く保存し、熟成させるときに最も注意したいのが保管温度です。例えばワインセラーがない状態で1年間室温で放置すれば、冬は過度に冷やされ、夏は異常に高い温度での保管となり、ワインに大きなダメージを与えてしまいます。 特に高温下での保管は絶対にNGです。また、暖かいところと涼しいところを行き来して、温度が上がったり下がったりを繰り返すことがワインにとって大きなダメージとなりますので、適温をキープするように充分注意したいところです。 冷蔵庫は飲む前に冷やす目的かスクリュー栓の白ワインを一定期間保存しておく場合は問題ありませんが、庫内は非常に乾燥するため、乾燥すると収縮してしまうコルク栓を使用したワインの保存には望ましくないので、充分に注意しましょう。
ヴェネトのワインにぴったりの料理
ヴェネトのワインに合う料理や食材、ペアリングのコツを田邉さんにお聞きしました。
ソムリエ解説!赤ワインにあう料理は?
ヴェネトの赤ワインの中で代表的な銘柄として、ヴァルポリチェッラを挙げることができます。 こちらはレッドプラムやブルーベリー、ほのかなスパイスの香りが感じられ、適度な渋みとなめらかな酸味をもつタイプが主流で、ローストビーフを使ったサラダ仕立てや生ハムとサラミの盛り合わせのような肉の前菜とよく合います。 アマローネは、より凝縮した果実感とボディを持ち、長期間樽熟成したタイプが多く、複雑性がありタンニンもより豊かなものが多く、こちらにはスパイスを効かせた牛肉や仔羊のグリルに、トマトやパプリカ、ブラウンマッシュルームのオリーヴオイルソテーを添えたお料理等がおすすめです。
ソムリエ解説!白ワインにあう料理は?
ヴェネトの白ワインの中で代表的な銘柄として、ソアヴェを挙げることができます。 ブドウ品種ガルガーネガを使用して造られるフレッシュでフルーティー、ドライでミネラリーなタイプが主流で、こちらには、レタスをベースとしたグリーンサラダにそら豆やきゅうりを添えて、グラーナパダーノやパルミジャーノ・レジャーノチーズをたっぷりとふりかけたお料理がおすすめです。 その他にもスモークサーモンにグリーンオリーヴやライムを添えた一皿とのペアリングもお試しいただきたいです。
ソムリエ解説!プロセッコにあう料理は?
スパークリングワイン・プロセッコは、白ブドウのグレーラから造られ、フルーティーでフローラルなアロマとジューシーな果実味をもつスタイルが特徴。 こちらには新鮮な野菜やフレッシュチーズを使ったお料理とのペアリングがおすすめです。 イタリアを代表する料理「カプレーゼ」のフレッシュトマトの風味と酸味、モッツァレラチーズのクリーミーさとバジルの清涼感と風味に、プロセッコの果実味と爽やかな酸味、軽快さがピッタリとマッチします。 シンプルにオリーブの盛り合わせやミニトマトをつまみながらアペリティフとして楽しむのも良いでしょう。
まとめ
幅広いスタイルのワインが生産されているヴェネト州。
爽やかな風味を楽しみたい時はソアヴェかプロセッコを、ブドウの芳醇なアロマを味わいたい時はアマローネを……という風に、ぜひ色々楽しんでみてくださいね。
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文=岡本名央