イタリアワインの最高峰格付けDOCGに認定され、「王のワインにして、ワインの王」として君臨するバローロ。一言でバローロといっても、そのスタイルは生産者やテロワールによって様々です。
このようなテロワールの多様性を最も表現するのが、単一畑から生まれる「クリュ・バローロ」。近年、特に2010年ヴィンテージからは「MGA(追加地理言及)」として、畑名のラベル表示が公式に認定され、注目を集めています。
今回は、そんな単一畑文化がバローロでいかに発展してきたかを探ります。
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クリュ・バローロの台頭
バローロと比較されることが多いフランス・ブルゴーニュ。両者はテロワールを重視し、単一品種のワインを生産するという共通点を持っています。しかし、バローロにおける単一畑文化の発展は、ブルゴーニュほど古くはありません。
バローロでは大商人がワイン生産を独占し、ブドウを各地の栽培農家から購入して造っていたため、複数の畑のブドウをブレンドするのが伝統とされていました。
しかし、1961年にプルノットが初めて単一畑キュヴェ「ブッシア」をリリースし、同じ年にヴィエッティも単一畑キュヴェ「ロッケ・ディ・カスティリオーネ」をリリースすることで、単一畑のバローロが誕生したのです。
これを皮切りに、レナート・ラッティの「マルチェナスコ(1965年)」、カヴァロットの「ブリッコ・ボスキス(1970年)」、パオロ・スカヴィーノの「ブリック・デル・フィアスク(1978年)」などが他の生産者も続いていきました。
これらのクリュ・バローロは、多くの生産者にとってフラッグシップ・キュヴェとして愛され、評価されるようになったのです。
MGAの制定
2000年代に入ると、これらのクリュが法的に認められ、単一畑を示す「MGA(Menzioni Geografiche Aggiuntive=追加地理言及)」の概念が生まれました。
そして、2010年ヴィンテージからは、統制原産地呼称に基づいて、ラベルに単一畑名を表記することが公式に認められました。畑名の公式表示が可能になることで、畑ごとのテロワールに焦点を当てたワイン造りがますます盛んになっていきます。
また、2015年には、元エスプレッソ・ガイドの鑑定責任者であるアレッサンドロ・マスナゲッティ氏が、『バローロMGA』という大著を発表。バローロの造り手だけでなく、一般の消費者にもMGAをより深く理解する機会が提供されました。
MGAの概念がピエモンテで浸透した背景には、複雑な地形が存在しています。
特にバローロには、多くの小さな丘陵が縦・横・斜めに連なり、畑ごとに斜面の向き、傾斜角度、日照量、土壌などが大きく異なっているのです。そのため、単一畑が優れているという理念は、数世紀前からこの地域で受け継がれてきました。
そしてMGAが制定され、ラベルへの表記が公式に認定されたことで、クリュによるテロワールの違いやワインの個性がさらに明確になったのです。
MGAの注目株
現在バローロには、181のMGAが存在していますが、ブルゴーニュのグラン・クリュやプルミエ・クリュのように、品質の指針となる公式のヒエラルキーはありません。
ただ、著名なイタリアワインジャーナリストやバローロの造り手などが私的見解としてクリュの格付けを実施したり、2014年には、前述の『バローロMGA』の著者、アレッサンドロ・マスナゲッティ氏が、著書『Barolo and Barbaresco Classification』において6段階でバローロのクリュを格付けしています。
※記事の最後にMGAのグラン・クリュとも称されている10のMGAをご紹介していますので、ワイン選びの参考にご確認ください。
これらの181のMGAの中で、気候変動の観点から特に注目されている地域があります。それは、南西に位置するノヴェッロ村のラヴェーラです。
ノヴェッロ村はもともと海に覆われた土地が隆起してできた地域で、高地に位置する畑が多いことで知られています。かつては厳しい気象条件がブドウ栽培を難しくしていましたが、気候変動の影響により冷涼なラヴェーラが近年注目を浴びています。
ラヴェーラの名は現在、高く評価されるクリュとして知られていますが、エルヴィオ・コーニョは無名の時代からこの地でテロワールを尊重したワイン造りを行ってきました。
彼らの畑は標高380mに位置し、粘土石灰質の土壌がワインに豊かなミネラル感をもたらします。また、アルプスからの風の影響を受け、ワインにフレッシュさとエレガントさが加わります。ラヴェーラを世界に知らしめた1本です。
バローロ ラヴェーラ
赤
エレガント&クラシック
ラヴェーラを世界に知らしめた、気鋭のバローロ生産者。高樹齢のネッビオーロのクローンが生む、上品さと力強さが備わった長熟型バローロ。 詳細を見る
4.5
(19件)2020年
15,400 円
(税込)
2018年
11,000 円
(税込)
WE 97
2017年
11,000 円
(税込)
WE 98
代表的なMGA
最後に181のMGAの中でも突出している評価を得ており、グラン・クリュとも称されている10のMGAをバローロ5大産地と言われる村ごとにご紹介します。
ラ・モッラ村
・チェレクイオ
バローロ村からラ・モッラ村にかけて円形劇場のように広がる畑。「偉大なランゲの畑の中で最も美しい凝縮感」であると評されてきました。
生み出されるワインは、樹脂やミントのアロマと上品さが特徴。ストラクチャーと厳格さ、先天的なバランスと均整の取れた味わいで、ダイナミックに発展するポテンシャルも備えています。
代表的な生産者:ロベルト・ヴォエルツィオ、ガヤ(コンテイザ)、ミケーレ・キアルロ
・ブルナーテ
石灰質と粘土質の混ざったオレンジ色の重い土壌から成る畑。
パワーも深みもしっかりとした佇まいで、その男性的で厳格な味わいから「ラ・モッラの中のセッラルンガ」とも言われています。
代表的な生産者:ロベルト・ヴォエルツィオ、ジュゼッペ・リナルディ、マルカリーニ、チェレット
・ロッケ・デッラヌンツィアータ
砂の層を含む典型的な青い泥灰土土壌から成り、ラ・モッラ村のエレガントな個性が最もよく現れる畑。同時にボディや複雑性、圧倒的な奥深さも兼ね備えています。
代表的な生産者:ロベルト・ヴォエルツィオ、レナート・ラッティ、パオロ・スカヴィーノ
モンフォルテ・ダルバ村
・ブッシア
約300haにもなる広大な畑で、1961年にプルノットによりリリースされた、初となるクリュ・バローロの一つ。
モンフォルテ・ダルバ村で最も高い評価を獲得しており、タニックでミネラル感が強く、包み込むようなスミレの香りや肉付きの良さが特徴的なワインが生み出されます。
代表的な生産者:プルノット
バローロ村
・カンヌビ
バローロ村で最も有名で、ランゲ人曰く「悪魔に魂を売ってでも手に入れたいクリュ」と言われる畑。
1752年に歴史上初めてワインのラベルに名前が表示され、バローロという名前よりも先にカンヌビの名が知られたほどです。
表土がほとんどなく、母岩に直接ブドウが植わっているようなイメージのため、樹は水を求めて地中深くまで根を伸ばし、地中の様々な要素を同時に吸い上げます。
生み出されるワインは、エレガントかつ厳格なタンニンと、長く続く深い余韻が特徴。また、現在クリュの全てがビオロジックに転換されたことも話題となっています。
代表的な生産者:パオロ・スカヴィーノ、プルノット、E・ピラー・キアラ・ボスキス
カスティリオーネ・ファッレット村
・ロッケ・ディ・カスティリオーネ
1961年にランゲ初の単一畑クリュの一つとしてリリースされたMGA。
波打つ丘により斜面の向きに変化はありますが、ワインのスタイルは大きく変わらず、共通してフィネスと芳香さによって特徴付けられます。
代表的な生産者:ヴィエッティ、オッデーロ、ロッケ・ヴィベルティ
・モンプリヴァート
バローロ全体でも最も権威ある畑の一つで、ジュゼッペ・マスカレッロのモノポール(単独所有畑)。
石灰分が96%と異常に高いのが特徴で、隣にあるブリッコ・ロッケとブリッコ・ボスキスに守られる形になるため、遅霜や雹の被害を受けることほとんどない恵まれた立地です。スケールと芳香、バランスの取れた厳格さを併せ持つワインが生み出されます。
代表的な生産者:ジュゼッペ・マスカレッロ
・ブリッコ・ボスキス(ヴィーニャ・サン・ジュゼッペ)
1948年からカヴァロットのモノポール(単独所有畑)となっている、カスティリオーネ・ファレット村の丘の頂上に位置する畑。
日当たりが抜群で、バローロの産地の中でも礫質や砂質に富んだ水はけの良い土壌を備えた好立地。
温暖で乾燥した短い夏、厳しい寒さと雪の多い冬があり、収穫期に霧が発生するという独特な環境からは、酸とタンニンのバランスに優れた、気品あるアロマのワインが生み出されます。
中でも中央部にあるヴィーニャ・サン・ジュゼッペの区画が有名です。
代表的な生産者:カヴァロット
セッラルンガ・ダルバ村
・ヴィーニャ・リオンダ
古風な良心のような存在感を放つ偉大な畑。南隣にあるコラレットの丘によって過剰な寒暖差を免れています。
石灰質と泥質の土壌によって優れたストラクチャーと力強さを持つ、格式高い超熟型のバローロが造られます。
代表的な生産者:マッソリーノ、オッデーロ、グイド・ポッロ、アンセルマ・ジャコモ
・フランチャ
セッラルンガ・ダルバ村の南端に位置する、ジャコモ・コンテルノのモノポール(単独所有畑)。
西向きの斜面のため他に比べて気温は低くなりますが、日照を受けやすい開いた好立地にあります。
造られるワインは正真正銘クラシックなスタイル。底部の平な区画にはバルベラが植えられています。
代表的な生産者:ジャコモ・コンテルノ(モンフォルティーノ)
まとめ
かつては、醸造の違いにより、伝統派とモダン派の二派で語られることが多かったバローロ。しかし現在は、クリュごとのテロワールにフォーカスする方向へと地域全体で進んでおり、ブルゴーニュマニアがクリュを語るように、MGAはワインを選ぶ上での明確なキーワードになっています。
181もあるため全てを覚えるのは難しいとは思いますが、歴史的にも評価を受けている偉大なMGAを覚えることが、自分の好みのバローロを理解することに繋がるかもしれません。
ブルゴーニュのワインを楽しむように、バローロも単一畑の違いを楽しんでみてください。
バローロの商品一覧
参考文献: ・BAROLO MGA. The Barolo Great Vineyards Encyclopedia, Alessandro Masnaghetti Editore. ・Barolo MGA Vol.Ⅱ. Harvest, Recent History, Rarities & Much More, Alessandro Masnaghetti Editore.