「虹の国」と呼ばれるほど多様性に富む、南アフリカ。豊かな歴史と独自の魅力で世界で注目を集める、高品質なワイン産地の一つでもあります。
今回はそんな南アフリカのワインについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
南アフリカのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
目次
ワイン産地としての南アフリカってどんなところ?
南半球に位置し、日本と真逆の季節となる南アフリカ。
ワイン造りにおいては360年以上の長い歴史を持ちます。初めてブドウが栽培されたのは1655年で、その後1659年2月2日に初のワインが造られたという記録が残っています。
時代の潮流の中でワイン生産の環境を整えながら発展し、現在では質が高く手頃な価格で楽しめることから、日本でも人気が高まっています。
南アフリカは冷涼な海岸地域から温暖な内陸地域まで、様々な気候を有しますが、主要なワイン産地である西ケープ州周辺は穏やかな地中海性気候をしています。
この西ケープ州周辺にはケープドクターという強い乾燥した風が春から夏にかけて吹きます。ケープドクターとはインド洋から吹く冷たい風で、畑の温度を下げ、湿度を吹き飛ばすため、ブドウ栽培において病害を防ぐのに役立ち、高品質なブドウを育てる上で重要な役割を果たしています。
このおかげで防虫剤や防カビ材の使用量を抑えられ、環境にやさしいブドウ栽培を可能にしています。
南アフリカのワインのコンセプトは、「自然環境保護とワイン産業の共栄」。「環境と調和したワイン生産」(IPW)や「生物多様性とワインのイニシアティブ」(BWI)といった南アフリカ独自の制度があり、環境保護と持続可能なワイン造りに力を入れています。
また、2010年ヴィンテージからは世界で初めてサステイナビリティ(持続可能性)を保証するシールを採用しています。
栽培されている主なブドウ品種
南アフリカで栽培されている主なブドウ品種と、田邉さんおすすめのワインを紹介します。
シュナン・ブラン
シュナン・ブランは、豊富な酸味が特徴の白ブドウ品種で、辛口から甘口、スパークリングワインまで幅広い種類のワインの原料に用いられます。
フランス・ロワールが原産ですが、南アフリカにおいては白ワイン用品種として最も多く栽培されており、世界最大の栽培面積を誇ります。
1655年に南アフリカにもたらされたブドウの一つと考えられており、長らく「スティーン(Steen)」という名称で呼ばれていました。
南アフリカの中でも西部の西ケープ州にあるブレード・リヴァー・ヴァレー地域では、ブリード川沿いに広がる肥沃な土地を活かし、特にシュナン・ブランの一大産地として知られています。
田邉さんおすすめワイン ラーツ・オリジナル・シュナン・ブラン / ラーツ
ラーツは、南アフリカのシュナン・ブランのクオリティの高さを世界に広めたワイナリーの一つ。リンゴや洋梨、菩提樹やアカシアを思わせる香り、自然な果実の風味と綺麗な酸味、洗練された味わいが魅力です。シュナン・ブラン キングとも呼ばれるラーツのスタイルを存分に体感していただける1本。
ピノタージュ
南アフリカのステレンボッシュ大学で、ピノ・ノワールとサンソーを交配して生まれた、同国を代表する独自の黒ブドウ品種です。
南アフリカにおいて、サンソーがエルミタージュと呼ばれていたことから、ピノ・ノワールのピノとエルミタージュのタージュをとってピノタージュと名付けられました。
樹勢が強く、栽培が容易で収量も安定しており、糖度が上がりやすい特性を持ちます。
特に西ケープ州で多く造られており、穏やかな地中海性気候のこの地域では、春から夏に冷涼で乾燥した風が吹くため、非常に良質なピノタージュが栽培されています。
田邉さんおすすめワイン カノンコップ・カデット・ピノタージュ / カノンコップ
カノンコップは世界的な品評会で受賞経験があり、南アフリカワインの品質を世界に知らしめたパイオニア的ワイナリーの一つとして知られています。 こちらのワインは、ピノタージュの魅力を存分に愉しめる代表的な1本。「士官候補生」を意味する「カデット」と名付けられたワインのラベルには、昔、ケープ湾に船が入港したことを知らせるために使用していた大砲が描かれています。
ソーヴィニヨン・ブラン
フランスのボルドー地方やロワール地方などで古くから栽培されている白ブドウ品種の一つです。
比較的温暖な気候を好む品種で、南アフリカの他、ニュージーランド、チリなど世界で広く栽培されています。
南アフリカにおいては白ブドウの栽培面積第3位を誇り、ボルドーブレンドとしてリリースされることも多い品種です。
ステレンボッシュなどの温暖な気候の地区はもちろん、ウォーカー・ベイやエルギンなどの冷涼な気候下でも多く栽培されています。
カベルネ・ソーヴィニヨン
赤ワインの王道とも呼ばれる、フランス・ボルドー地方原産の黒ブドウ品種です。
栽培が非常にしやすいこの品種は世界中で造られており、南アフリカでも黒ブドウ品種の中で栽培面積1位を誇ります。
南アフリカのカベルネ・ソーヴィニヨンで造られるワインは凝縮感のある果実味と、しっかりとしたタンニンが特徴で、ステレンボッシュやパールなどで多く栽培されています。
シラー / シラーズ
黒コショウに例えられる強い個性を持った黒ブドウ品種です。
フランス・ローヌ地方原産で、強い個性を持ちながら産地の特色を色濃く反映したワインに仕上がることから、南アフリカではカベルネ・ソーヴィニヨンに次ぐ数量が植えられています。
ソムリエ解説!南アフリカワインのスタイルは?
南アフリカはフランスからの移民も多く、ロワール地方から持ち込まれたとされるシュナン・ブランが現在最も多く栽培されています。 その他にも白ブドウはソーヴィニヨン ・ブラン、シャルドネ、黒ブドウは、カベルネ・ソーヴィニヨン 、メルロ、シラー(シラーズ)等、世界的に有名な国際品種から、フランスとはまた違ったスタイルのワインが生まれています。 その他、注目のブドウ品種として挙げられるのがピノタージュです。ピノ・ノワールとサンソーの交配から生まれ、果実味あふれる魅力的な赤ワインを生み出しています。 これらは単一品種で造られたものも多く存在しますが、南アフリカは、ブレンドの技術も長けていて、「地中海ブレンド」や「ボルドーブレンド」と呼ばれるスタイルも多く存在します。 そしてもう一つ特筆すべきなのが、シャンパーニュ方式で造られるスパークリングワイン「キャップ・クラシック」です。 シャンパーニュを彷彿とさせながら、この国ならではコストパフォーマンスの高いスパークリングワインが、今世界から大きな注目を浴びています。
代表産地
南アフリカのワイン産地は、大部分が地中海性気候に近い気候を持つ西ケープ州に集中しています。中でも代表的な産地をご紹介します。
ステレンボッシュ
多様なテロワールを持ち、降水量に恵まれ、水はけも良いことからカベルネ・ソーヴィニヨンやピノタージュなどの栽培に適しています。
また、ブドウ栽培と醸造学の学位を取得することができるステレンボッシュ大学や、ワインの研究を行っているエルセンバーグ農学校、ニットフォルベイ研究所などもあり、ワイン産業全体の中心地にもなっています。
フランシュック
フランスに強く影響された町並みやレストランが美しいグルメタウン。
ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネ、セミヨンなどの国際品種が多く栽培されています。
また、赤ワイン用品種ではカベルネ・ソーヴィニヨンやシラー / シラーズ、メルロが多く、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で造られるキャップ・クラシックの産地としても有名です。
スワートランド
西ケープ州最大の地区。
伝統的にフルボディの赤ワインや高品質な酒精強化ワインが生産されていましたが、近年ではシュナン・ブランやシャルドネ、ピノタージュやカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培が増えています。
近年では生産者団体である「スワートランド・インデペンデント・プロデューサーズ(SIP)」のメンバーを中心に、非常に評価の高いワインも生み出されている注目の産地です。
パール
南アフリカで3番目に古いヨーロッパからの入植地であり、ワイン造りの長い歴史を持つ地区。
南アフリカ最大のワイン輸出業者である「KWV」の本拠地があります。
カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーズ、ピノタージュやシュナン・ブランなど、多様な品種が栽培されており、近年ではシャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールなどの評価も上がっています。
南アフリカワイン豆知識
南アフリカワインの豆知識を田邉さんに聞いてみました!
ソムリエ解説!サスティナブルなワイン造りとは?
南アフリカにおいて主要輸出市場におけるプロモーション活動を担うWOSA(Wine of South Africa)は、世界で最も環境に配慮したワイン生産国として「自然環境保護とワイン産業の共栄」をコンセプトに掲げ、1998年には減農薬や減酸化防止剤、リサイクルの徹底や水源の維持などを盛り込んだガイドライン「環境と調和したワイン生産」(IPW)を制定しました。 今では南アフリカのブドウ栽培家やワイナリーの95%以上がガイドラインに従ったワイン造りを行っています。 そして2010年ヴィンテージからは、世界で初めてサスティナビリティを保証するシールを採用。 認可を受けるためには、化学農薬の使用を極力抑え、農場では害虫の天敵を取り入れること、世界有数の豊かな植物区の生物多様性を保護すること、廃水を浄化し、農場で働く人々の健康と安全衛生を確保すること、これらの項目を全て満たさなくてはならないという厳しい基準が敷かれています。 また、南アフリカは世界最大のフェアトレードワイン生産国として有名です。フェアトレードワインは高品質なワインであるだけでなく、それを飲むことで持続可能な社会を支援することもでき、多くの人々の生活、労働環境の改善に大きく寄与することができるのです。
ソムリエ解説!古樹とは?
古樹とは、長い樹齢を重ねたブドウの樹のことを現しますが、現在のところ何年以上という明確な定義は存在していません。 ただ近年の傾向で考えると、樹齢35年以上のブドウ樹であることが、一つの基準と言えるでしょう。 英語で「Old Vine」フランス語で「Vieille Vigne」と記載されたものもあり、それらが古樹のブドウから造られたワインであることが理解できますが、必ず表記があるわけではありません。 ブドウ樹は年数を重ねることで、根を地中深くに伸ばし、根から水分と共に多くのエネルギーをブドウに送ることができ、風味もより凝縮され、良質なワイン生産へとつながります。 そして南アフリカでは、2018年に高樹齢の畑を保護する活動を行うOVP(Old Vine Project)が発足。 樹齢35年以上の認定ブドウ畑から造られるワインに対して、世界初となる植樹年を記したシールの運用が開始されています。
南アフリカワインにピッタリの料理
南アフリカワインにピッタリな田邉さんおすすめの料理を、代表品種別にご紹介します。
ソムリエ解説!シュナン・ブランにあう料理は?
南アフリカの爽やかな辛口タイプのシュナン・ブランには、サーモンやポークのリエットなど、軽やかでありながら豊かな風味となめらかなテクスチャーをもつ料理がよく合います。 樽のニュアンスを感じるタイプには、海老やホタテ貝を網焼きにして香ばしさを出したシーフード、もしくはスモークチキンと好相性です。そしてこれらにオリーブオイルを少しかけるとさらに相性が高まります。 豊潤な甘みをもつタイプに合わせる料理としておすすめなのが、リンゴのタルトです。 風味、甘み、酸味共に見事に相乗し合い、まさにマリアージュと呼べるペアリングを体感できます。こちらにシナモン風味のアイスクリームを添えるのもおすすめです。
ソムリエ解説!ピノタージュにあう料理は?
ピノタージュの赤ワインと特徴として、ブルーベリーやブラックベリーの熟した果実の香り、そしてナツメグやクローヴ等スパイス、燻製香やコーヒーのロースト香も特徴的で、味わいは豊かな果実の風味と緻密で穏やかなタンニン、なめらかな酸味と余韻にもスパイスの風味が感じられます。 このような特徴をもつワインに合わせておすすめしたいのが、デミグラスソースのハンバーグです。 柔らかなテクスチャーと凝縮した肉の旨味、焼いた香ばしいニュアンスとソースの甘味と風味が、ワインのもつ個性にぴったりマッチします。それ以外にもグリルソーセージに焼き野菜を添えたお料理とのペアリングもおすすめです。 香ばしいソーセージと焼き野菜の風味とほのかな苦味に調和し、双方の味わいがより豊かになります。
まとめ
自然にやさしいワイン造りを実施し、さらに生産者を守るフェアトレードも盛んに行っている南アフリカ。
ワイン生産の環境を整えながら発展し、現在では素晴らしい高品質ワインが比較的手の届きやすい価格で手に入れることができます。
アフリカの暑いイメージからワインにも大味なイメージを持つ人が少なくありませんが、実際には上品で繊細な味わいを兼ね揃えたワインが多く生産されています。
ぜひ一度、南アフリカワインの素晴らしさに触れてみてくださいね。
南アフリカのワイン一覧
文=岡本名央