ボジョレーと言えば、日本ではボジョレー地区で造られる新酒、ボジョレー・ヌーヴォーが非常に有名です。
しかし、この地区はヌーヴォーだけを造っているわけではありません!特にボジョレー地区の中でも品質の高いワインを生み出す、クリュ・デュ・ボジョレーという産地が近年注目されています。
そこで今回はボジョレー地区で造られるワインについてソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
ボジョレーのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
気候と風土
ボジョレー地区は南北に細長いワイン産地でフランス・ブルゴーニュ地方の南部に位置しており、ブルゴーニュの都市マコンの南からリヨンの北までの約55kmにわたって続きます。
夏は暑く冬は寒い半大陸性気候で、ブルゴーニュ北部のシャブリ地区やコート・ドールよりも温暖です。また、ブルゴーニュ北部がおおむね粘土石灰質の土壌であるのに対して、南部のボジョレー地区は花崗岩土壌となっています。
ボジョレー地区で造られるワインと言えば、ボジョレー・ヌーヴォーが有名です。どんなワインなのか田邉さんに教えてもらいました。
ソムリエ解説!ボジョレー・ヌーヴォーってどんなワイン?
ボジョレー・ヌーヴォーは、ボジョレー地区で造られている新酒であり、赤とロゼのみ生産が許されています。昔からワイン造りが盛んであったこの地方の秋の収穫祭で、ボジョレー地区のワインが捧げられたのが始まりと言われます。 現在ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日は毎年11月の第3木曜日と決められていますが、当初は11月15日が解禁日でした。しかし、解禁日を固定してしまうと、年によっては土日に重なり運送業者が休みだったり、販売にも影響があるという意見が多数出たために、フランス政府が1984年に解決策を考案。1985年に「11月の第3木曜日」という毎年変動する解禁日に設定され今に至っています。
ボジョレー地区北部には自らの村名を名乗る10のA.O.C.が続き、クリュ・デュ・ボジョレーと総称されます。どんな産地なのでしょうか?
ソムリエ解説!クリュ・デュ・ボジョレーって何?
クリュ・デュ・ボジョレーとは、ボジョレー地区の北部エリアに存在する特に品質の高いブドウを産出するクリュ(区画)のことで、10のクリュが存在しています。 ボジョレー地区で造られるワインは一般的に、新鮮な果実の風味を楽しめる早飲みのタイプが主流ですが、クリュ・デュ・ボジョレーのワインは、より凝縮した風味を持ち、熟成に向いています。日本国内では特に「ムーラン・ア・ヴァン」「フルーリー」「モルゴン」「サンタムール」等が有名です。
栽培されている主なブドウ品種
ボジョレー地区で栽培されているブドウ品種はほとんどがガメイ。白ワインはシャルドネから造られます。
ガメイ
ボジョレー地区で造られる赤ワインのほとんどがガメイから造られています。
ガメイから造られるワインの最大の魅力は、飲み口の良さ、気軽さと言っても良いでしょう。スミレやバラといった花の香りとイチゴのような赤系果実の甘酸っぱい香りがし、タンニンは少なく酸味が程良く効いた、フレッシュ&フルーティーという言葉がピッタリの赤ワインです。
有名なボジョレー・ヌーヴォーの赤ワインもガメイから造られます。
一方で、ピノ・ノワール顔負けの複雑な香りと力強い味わいをもつ、クリュ・デュ・ボジョレーのようなワインとなる一面もあります。
シャルドネ
ボジョレー地区は赤ワインが有名ですが、白ワインもシャルドネから造られ、「ボジョレー・ブラン」として親しまれています。
ボジョレー地区のシャルドネは、土壌や気候の影響を受け、軽快でフレッシュなスタイルに仕上がることが多いのが特徴です。ブルゴーニュの他の産地で造られるシャルドネに比べると、果実味が豊かで酸味が爽やかであり、ブドウそのもののフレッシュでピュアな風味が楽しめます。
全体的に軽やかで、親しみやすい印象のワインに仕上がります。また、ミネラル感があるため、繊細な味わいの料理とのペアリングにも適しています。
ソムリエ解説!ボジョレーのワイン造りの特徴って?
ボジョレー地区のワインの大部分は、ガメイから造られるフルーティーなスタイルの赤ワインで、そのフレッシュな果実の風味を活かすために、樽のニュアンスをつけない醸造スタイルが主流です。 その中でも、主にボジョレー・ヌーヴォーの製法として広く知られているのが「マセラシオン・カルボニック」。こちらは収穫したブドウを破砕せずに大きな密閉ステンレスタンクに詰め、二酸化炭素を充満させた状態で数日間置く方法。これにより、バナナの香りが生まれ、鮮やかな色調をもつ、果実香が豊かで渋みの穏やかな、フレッシュ&フルーティーな赤ワインが出来上がります。
有名産地
前述したようにボジョレー地区には、特に評価の高いクリュ・デュ・ボジョレーと呼ばれる10の区画があります。
ここで造られるワインは、一般的なボジョレーとは一線を画す個性と風味が特徴で、エレガントで熟成可能なワインを生み出す地域として注目を集めています。
これらの区画は、土壌や気候の違いによって、それぞれ独自の味わいが表現されます。以下の4つの区画について詳しく解説します。
ムーラン・ア・ヴァン
クリュ・デュ・ボジョレーの中でも特に重厚で、長期熟成に向いたワインが生まれる産地です。名前の由来は、地区にある風車(ムーラン)で、「ボジョレーの王」とも称されます。
ムーラン・ア・ヴァンのワインは、ブラックベリーやスパイス、花の香りが特徴で、しっかりとしたタンニンと構造を持ち、他のボジョレーよりもフルボディに近い味わいです。熟成させることでさらに複雑な風味が引き出されます。
ムーラン・ア・ヴァンには、ボジョレーを代表するいくつかの生産者が本拠地を置いています。
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フルーリー
「花のような」という意味を持ち、その名の通り華やかでエレガントなワインが造られることで知られる区画です。
フルーリーはモルゴンやムーラン・ア・ヴァンに比べて知名度はやや劣りますが、その二つの区画に挟まれた申し分のない立地で、10の区画のほぼ中央に位置しています。
フルーリーのワインは、ラズベリーやスミレ、バラといった華やかな香りが漂います。口当たりは滑らかで、果実味が豊かです。ボジョレーの中でも飲みやすく、軽やかでありながらもふくよかな味わいが楽しめます。
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モルゴン
クリュ・デュ・ボジョレーの中ではブルイィについで2番目に大きい面積のモルゴン。モルゴンは、片岩と古い火山岩の土壌で、力強くしっかりとしたワインが造られることで有名です。クリュ・デュ・ボジョレーの中でもフルボディで、熟成によりその個性がさらに引き立ちます。
モルゴンのワインは、プラムやチェリー、黒系果実の香りが濃厚で、土やスパイスのニュアンスも感じられます。しっかりしたタンニンとボリューム感があり、他のボジョレーとは一味違う、リッチで熟成に耐えるという特徴があります。
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モルゴン・コート・デュ・ピイ・フュー・ド・シェーヌ
赤
エレガント&クラシック
ボジョレー地区の伝統を重んじる造り手が手掛ける高品質なボジョレー。1年以上の樽熟成を経て生み出される赤ワイン。 詳細を見る
2019年
4,070 円
(税込)
コート・ド・ブルイィ
モルゴンの南に位置する広大なA.O.C.ブルイィの中央にある、火山によって生まれたモン・ブルイィ(フランス語で「ブルイィの山」という意味)の斜面にある小さな区画がコート・ド・ブルイィです。
土壌は古代の火山由来の青みがかった花崗岩とピンク色の粘土質で、造られるワインはミネラルに富み、若いうちは非常にパワフルです。また、熟成能力も高く、ストラクチャーもしっかりとしています。
モンラッシェの名手ブラン・ガニャールの息子が新たにドメーヌを立ち上げるなど、時世代の生産者が注目する産地でもあります。
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コート・ド・ブルイィ
赤
チャーミング&パフュームド
モンラッシェの名手が、ボジョレーの地で新たに手掛ける次世代ドメーヌ。パワフルなボディと親しみやすい果実味が魅力の1本。 詳細を見る
5.0
(2件)2020年
3,520 円
(税込)
ボジョレーのワイン豆知識
ボジョレー地区のワインの豆知識を田邉さんに聞いてみました!
ソムリエ解説!どんな飲み方がおすすめ?
ガメイから造られるボジョレー地区のフルーティーな赤ワインは、スリムな万能型グラスで飲むのがおすすめです。渋みが穏やかで酸味が豊かなスタイルが多いため、飲用温度は赤としてはやや低めの13~15度程度が理想的。ヌーヴォーであればさらに11〜13度程度まで冷やして、持ち前のフレッシュ感を活かすのがポイントです。 クリュ・デュ・ボジョレーに関しては、ピノ・ノワールと同様のブルゴーニュ型の中庸のグラスで、14~16度程度の温度帯で飲むことで、そのポテンシャルが発揮されます。どのタイプも渋みは穏やかでフルーティーなスタイルが主流のため、デカンタージュの必要はありません。 白ワインは8〜10度で、小ぶりのグラスで飲むのがおすすめです。
ソムリエ解説!熟成もできるの?
ボジョレー地区の赤ワインは、新鮮な赤い果実の風味と穏やかな渋み、しなやかな酸味を特徴としたフルーティータイプが多く、樽のニュアンスをつけないものが主流。多くの場合、フレッシュなスタイルを楽しむものが多いため、基本的には熟成させずに早めに飲むことをおすすめします。 一方で、「クリュ・デュ・ボジョレー」に認定されている特別なエリアのブドウから造られた赤ワインに関しては、風味がより凝縮しており、長期熟成により複雑性が増し、発展していくものも存在します。その場合、コルクの乾燥を防ぎ、温度を一定化するために、冷蔵庫に保管するのではなく、12~15度程度で管理されたワインセラーで保管しておくことが重要となります。
ボジョレーのワインにピッタリの料理
最後にボジョレーの赤ワイン、白ワインにピッタリな、田邉さんおすすめの料理をご紹介します。
ソムリエ解説!赤ワインに合う料理は?
ボジョレー地区の赤ワインは、ガメイから造られた赤い果実の香りとほのかな甘いスパイスのフレーバー、フルーティーさと共に適度な渋みと豊かな酸味を持つのが特徴。こちらと相性が良いのが、ハムやサラミ、パテ・ド・カンパーニュ等、冷製の肉前菜で、フランスの名物料理「シャルキュトリ」が広く知られています。これらの料理にワインの味わいが優しく溶け込み、旨味と風味をより豊かにしてくれます。 樽のニュアンスを強くつけないスタイルが主流のボジョレー地区のワインには、お肉を香ばしく焼くのではなく、上記のようなスタイルに仕上げたシンプルなお肉料理がよく合います。付け合わせに用いられるピクルスやマスタードとも好相性です。
ソムリエ解説!白ワインに合う料理は?
ボジョレー地区の白ワインは、赤に比べて非常に限られた生産量ではありますが、ブルゴーニュ地方が誇るブドウ品種であるシャルドネから、穏やかなアロマを特徴とした、爽やかでミネラル感豊かな辛口スタイルの白ワインが造られています。 この白ワインには、ブルゴーニュ地方の伝統料理である「ジャンボン・ペルシエ(ハムの香草入りゼリー寄せ)」がとてもよく合います。香草の爽やかさとゼリーのテクスチャーがワインの香りと味わいの個性と同調し、ハムの旨みをワインの豊かな酸味が引き出してくれます。白身のソーセージや鶏のレバームース等にも相性が良く、ワインの穏やかでありながらも奥行きを感じるミネラルのニュアンスが、食材に寄り添いながら味わいを豊かにしてくれます。
まとめ
ワイン産地、ボジョレーの魅力はヌーヴォーだけではありません。
ガメイという一つの品種から、飲み口の良い気軽なワインから長期熟成も可能な複雑な風味のワインまで、多様なスタイルのワインが造られていることがボジョレーの面白さであり醍醐味でもあるのです。
ボジョレー・ヌーヴォーでガメイの魅力に気付いたら、次はヌーヴォーではないボジョレーのワインに挑戦してみてはいかがでしょうか。
ボジョレーのワイン一覧
文=川畑あかり