ワインの表現で目にする「アロマティックなワイン」。どんなワインがアロマティックなのか、一体どんな香りがするのか、気になりますよね。
実は、アロマティックな白ワインは初夏にピッタリ!
今回はアロマティックなワインについてソムリエの解説付きで詳しくご紹介します。
ぜひ特徴を理解してワインの選択肢を増やしてみませんか?
解説してくれるのは、紫貴あきさん
ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。初心者から上級者まで唸らせる質の高いレッスンが評判で、その指導実績は3500人超。その他、企業研修、メディアへの執筆・監修・取材協力、出演など幅広く活動している。 著書『ゼロからスタート! 紫貴あきのソムリエ試験1冊目の教科書』(KADOKAWA)を2024年3月28日に出版予定。
アロマティックとは?
主に白ワインに使われるワイン用語「アロマティック」。どんなワインのことなのか、紫貴さんに教えてもらいました。
紫貴さん
アロマティックなワインとは、香りが豊かなワインで、フルーツ、花、植物に似た香りをもっています。 ワインの香りを嗅ぐために、グラスを徐々に鼻に近づけていくとき、グラスのふくらみ部分に鼻を入れなくても、遠くから香りを感じるようなワインは「アロマティック」と呼んでもいいでしょう。
アロマティックなワインとは、フルーツや花、植物に似た香りが強いワインのこと、ということが分かりましたね。では、どんな品種から造られたワインがアロマティックになるのでしょうか。
アロマティック品種にはどんなものがある?
それでは代表的な品種をご紹介します。以下の3つの品種が有名です。
それぞれどんな香りの特徴があるのか教えてもらいました。
ソーヴィニヨン・ブラン
紫貴さん
デパートや専門店だけでなく、スーパーやコンビニでも見かける人気の白ブドウ品種です。 グレープフルーツやパッションフルーツのような香りがはっきり香るのが特徴で、これらは3MHという香り成分に由来していることがわかっています。 特にニュージーランド産のソーヴィニヨン・ブランは3MHの濃度が濃く、強烈なパッションフルーツの香りがあります。ハーブの香りはメトキシピラジンという香り成分に由来します。
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白
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4.5
(238件)2023年
2,200 円
(税込)
ゲヴュルツトラミネール
紫貴さん
舌を噛んでしまいそうな長い名前の「ゲヴュルツ」は「スパイシー」の意味です。実際、ジンジャーっぽい香りがあります。 何よりもライチ、白バラの香りが豊かで、白バラはテルペンという香り成分に由来しています。 フランスのアルザス地方や、イタリアのトレンティーノ・アルト・アディジェ州産のものを見かけることが多いでしょう。
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ヴィオニエ
紫貴さん
フランスのローヌ地方や南部を代表する白ブドウ品種です。アプリコット、黄色い花の香りが特徴です。 黄色い花はやはりテルペンに由来します。ローヌ地方のヴィオニエが興味深いのは、アロマティックなワインであるにも関わらず、新しめの小樽でワインを寝かしたり、ときにはマロラクティック発酵を行ったりすることです。
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3.9
(9件)2023年
2,090 円
(税込)
アロマティックなワインについてもっと知る!
アロマティックなワインとはフルーツや花、植物に似た香りが強いワインのことを言いますが、この香りのことをワインの世界では「第1アロマ」と言います。よりプロっぽい表現になりますよ。
ワインの香りを第1アロマ、第2アロマ、第3アロマと表現することについて詳しく教えてもらいました。
紫貴さん
第1アロマとは原料であるブドウに由来する香りのこと。フルーツ、花、植物の香りが代表選手です。アロマティック品種から造られるワインはたいていこのブドウ由来のアロマが中心です。 第2アロマは醸造に由来する香りです。後述するマロラクティック発酵したときに生まれるバターの香りが代表例です。 最後に、第3アロマは熟成に由来する香りです。小樽でワインを寝かすと、穏やかな酸素の混入が起き、ヘーゼルナッツのような香りが表れます。瓶内で長期熟成すると、ハチミツのような香りが表れます。
アロマティック品種から仕込まれるワインは、第1アロマが強いのが特徴で、この香りが魅力のため、一般的には第2アロマ、第3アロマが第1アロマを覆い隠すことがないように醸造・貯蔵されます。そんな醸造、貯蔵のひと工夫を詳しく教えてもらいました。
紫貴さん
例えば、圧搾(果汁と果皮・種を分離すること)する前に果皮と果汁を接触させます(スキンコンタクトという)。そうすることで、果皮の内側から香り成分が抽出できるのです。 アロマティックなワインはいわば「すっぴん美人」のようなもの。そのため余計なお化粧はいりません。マロラクティック発酵といって、乳酸菌の働きで、リンゴ酸という鋭い酸から、乳酸という柔らかい酸に変える変化も行いません。 理由はマロラクティック発酵をすると、バターのような香りが生成され、華やかな香りとバッティングしてしまうからです。 ワインを寝かすときには、新しめの小樽は使わず、ステンレス製や何年も使い回した大樽で寝かすのも同じ理由です。新しい小樽で寝かすと、樽からヴァニラの香りがワインに抽出されて、せっかくの豊かな香りを覆い隠してしまうからです。
ニュートラルとは?
一方で「アロマティック」の対義語として使われる言葉が「ニュートラル」です。ニュートラルなワインにも醸造過程に特徴があります。
紫貴さん
果汁そのものに由来する香りが強くないのが特徴で、ぼんやりと果物の香りがします。前述のテルペンなどの香り成分をあまり(もしくは、ほとんど)含まないブドウ品種から造られています。 「すっぴん美人」のアロマティック品種に対して、「化粧映え」するのがニュートラル品種の特徴です。メイクで、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ……と重ねると華やぐように、特別な醸造・貯蔵工程が追加されます。 例えば、ワインを寝かす容器の底にはオリといって酵母の死骸が沈殿しています。ここに棒をいれて攪拌することで、焼いたパンのような芳ばしい香りがワインに抽出されます(バトナージュという)。 もしくは、オリをワインと長めに接触させると、今度はパン・ドゥ・ミのような香りがワインに抽出されます(シュール・リーという)。 上述のマロラクティック発酵時に発生するバター香、新しめの小樽で熟成したときのヴァニラ香もニュートラルなワインでは映えます。
ニュートラル品種にはどんなものがある?
代表的なニュートラル品種についてもご説明します。以下3つの品種が代表的です。
シャルドネ
紫貴さん
ニュートラル品種の代表選手シャルドネは、「無個性という個性」とも呼ばれます。 冷涼、温和、温暖とどんな気候でも栽培できて、冷涼気候なら柑橘、温和気候なら有核果実、温暖気候なら南国フルーツが香ります。このクセがない香りが人気のヒミツで、世界各国で栽培される所以でしょう。 上述したオリとの接触、マロラクティック発酵、木樽熟成といったフルメイクが施されることが多いです。
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ミュスカデ
紫貴さん
シャルドネと両親が同じ、いわば兄弟品種です。そのためミュスカデもシャルドネ同様ニュートラルです。ただし、シャルドネと比べると酸化に弱く、マロラクティック発酵も小樽熟成も不向きです(理由はマロラクティック発酵をすると、酸レベルが低くなり傷みやすくなること、小樽で寝かすと酸素混入が起きるからです)。 そのかわり熟成中に、オリとワインを接触させるシュール・リーという製法が行われるのが一般的です。きっとパン・ドゥ・ミのような香りを感じることでしょう。
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4.3
(10件)2020年
3,740 円
(税込)
WA 90
甲州
紫貴さん
日本を代表する品種です。こちらもニュートラルで、繊細な果実味が圧倒されないように、シュール・リーが行われることが多いです。 主張しすぎない、控えめな香りだからこそ、どんな食事にも寄り添います。特に素材の良さを生かした繊細な和食には抜群の相性です。 ただし、最近では、収穫するタイミングによって、ソーヴィニヨン・ブランにもある3MHという香り成分が含まれることも報告されています。この華やかさを最大限引き出した甲州をきいろ香スタイルと呼びます。
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まとめ
アロマティックなワインはフルーツやハーブの豊かな香りが特徴で、暑い日や昼下がりなどのシーンに最適です。
お気に入りのアロマティック品種を見つけて、ワインの選択肢を広げてみませんか。
同時にニュートラル品種についても理解することでワインの様々な醸造法も知ることができるでしょう。
ぜひワイン選びの参考にしてみてくださいね。
文=川畑あかり